第2章 地球儀を俯瞰する外交 5 大洋州 (1)オーストラリア ア 概要・総論 オーストラリアでは、保守連合(自由党・国民党)が、2013年9月の連邦選挙において、労働党を破って勝利をおさめ、6年ぶりに政権に復帰し、アボット自由党党首が首相に就任した。 日本とオーストラリアは、基本的価値と戦略的利益を共有するアジア太平洋地域における戦略的パートナーである。特に近年、両国関係は「特別な関係」と定義されるとともに、急速な進展を見せており、安全保障・防衛分野における協力関係が着実に深まってきている。2014年には、7回の首脳会談、5回の外相会談が実施された。首脳レベルでは、4月のアボット首相訪日に加え、7月には安倍総理大臣がオーストラリアを訪問し、共同声明「21世紀のための特別な戦略的パートナーシップ」を発表した。このほか、9月の国連総会や、11月のASEAN関連首脳会議など、国際会議の機会を捉え会談を実施した。また、岸田外務大臣とビショップ外相の間では、8月のASEAN関連外相会議や、11月のAPEC閣僚会議などの機会に会談が行われた。2015年1月には日豪EPAが発効し、貿易・投資を始めとする相互補完的な経済関係が更に強化されている。 イ 安全保障分野での協力 両国間の安全保障・防衛協力は、急速に発展してきている。2013年までの動きとしては、日・オーストラリア外務・防衛閣僚協議(「2+2」)を含む二国間協議の定例化、両国間での共同訓練、PKOや国際緊急援助活動における協力を促進する「日・オーストラリア物品役務相互提供協定」、日・オーストラリア政府間で交換する国家の安全保障のための秘密情報を保護する手続などを定めた「日豪情報保護協定」の締結などが挙げられる。 2014年6月には、安倍政権及びアボット政権発足後としては初めてとなる第5回「2+2」を開催し、防衛装備品及び技術の移転に関する協定交渉の実質合意を確認した。このほか、最初の科学技術協力分野として、船舶の流体力学分野に関する共同研究の準備状況につき議論を行った。 また、7月に安倍総理大臣がオーストラリアを訪問した際には、両首脳間で防衛装備品・技術の共同研究、開発及び製造を通じて日・オーストラリア間のより深化した協力を容易にする日豪防衛装備品・技術移転協定に署名した。加えて、共同運用及び訓練を円滑化するための協定作成に向けた交渉の開始に合意した。 11月に安倍総理大臣がG20ブリスベン・サミットに出席した際、アボット首相及びオバマ米国大統領との間で7年ぶりとなる日米豪首脳会談を行った。その際、平和で、安定かつ繁栄した未来をアジア太平洋地域において確保するため、日米豪3か国間のパートナーシップを深める決意を表明した。具体的には、3か国で、共同訓練、海上安全保障、平和維持、人道支援・災害救援、防衛装備品・技術などの分野での協力を進めることを確認した。 ウ 経済関係 両国の相互補完的な経済関係は、主として日本が工業品を輸出し、オーストラリアから資源や農産物などを輸入する形で着実に発展してきている。特に2015年1月には、2007年から交渉を進めてきた日豪EPAが発効した。今後、物品及びサービスの貿易の自由化及び円滑化の促進、投資の機会の増大などを通じ、両国間の経済関係のより一層の強化が見込まれる。具体的には、食料供給、エネルギー及び鉱物資源、自然人の移動、競争及び消費者の保護、知的財産、政府調達等の幅広い分野における協力強化も期待される。 両国は世界貿易機関(WTO)などの多国間の枠組みや、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定や東アジア地域包括的経済連携(RCEP)などの広域経済連携の交渉でも、緊密に協力している。 エ 文化・人的交流 オーストラリアの日本語学習者数は世界第4位であり、100件を超える姉妹都市交流があるなど、同国には親日的な土壌が存在する。2014年には、オーストラリア人大学生が留学やインターンシップを通じてアジア太平洋の知見を高め、人的交流と大学間の関係を強化する「新コロンボ計画」のパイロットプロジェクトが日本で開始され、4月にアボット首相が来日した際に、新計画の発表式が行われた。今後の文化・人的交流の強化の契機になることが期待される。 オ 国際社会における協力 両国は、地域の安定的な発展に積極的な役割を担うため、様々なレベルでの協力を強化してきている。2014年は、G20、EAS、APECなどの地域協力枠組みにおける協力を一層強化した。 また、オーストラリアは、2013年からの2年間国連安保理の非常任理事国に選出され、2014年も日本に協力的であった。今後も安保理改革を含め、国連の場での協力について、引き続き緊密な意見交換を行っていく。 日・オーストラリア首脳会談(7月8日、オーストラリア 写真提供:内閣広報室) 日・オーストラリア外相会談(6月11日、東京) (2)ニュージーランド ア 概要・総論 ニュージーランドでは、2014年9月に実施された総選挙において国民党が勝利し、キー首相が3選を果たした。 日本とニュージーランドは、民主主義、市場経済などの基本的価値を共有するアジア太平洋地域のパートナーとして、長年良好な関係を維持している。特に2013年には、両外相から、「戦略的協力パートナーシップ」に関する共同声明が発出され、両国関係の更なる強化へ向けた基盤が整備された。 イ 二国間関係 2014年7月には、安倍総理大臣が、日本の総理大臣の訪問としては12年ぶりにニュージーランドを訪問した。両首脳は、二国間協力の強化に関する共同プレスリリースを発出し、アジア太平洋地域の「戦略的協力パートナー」であるニュージーランドと、経済、安全保障・防衛協力、人物交流を含む二国間協力の強化に加え、地域や国際社会の課題についても協力していくことを確認した。 また、2014年は、ハイレベルでの相互訪問が活発に行われた。日本からは2月に三ツ矢外務副大臣がクライストチャーチ地震3周年追悼式典へ出席するためニュージーランドを訪問した。ニュージーランドからは、5月にグローサー貿易相が訪日して岸田外務大臣と会談を行い、TPP協定やRCEPを含め、アジア太平洋地域の経済ルールづくりで協力を強化することを確認した。 さらに、11月に北京で開催されたAPEC閣僚会議出席の際に、岸田外務大臣はマカリー外相と会談を実施し、両国間の「戦略的協力パートナーシップ」を更に強化していくことを確認した。 ウ 経済関係 両国は、相互補完的な経済関係を有している。2014年12月には、第6回日・ニュージーランド会議「食・農業分野における日・ニュージーランド・パートナーシップ」が開催され、両国の政府や企業関係者参加の下、酪農や畜産を始めとする農業分野の協力の可能性について議論された。 また、両国は、WTOなどの多国間の枠組み、TPP協定やRCEPなどの広域経済連携の交渉でも、緊密に協力している。 エ 国際社会における協力 両国は、太平洋・島サミット(PALM)、EAS、ASEAN地域フォーラム(ARF)などの地域協力枠組みにおける協力を一層強化するとともに、アフガニスタンや太平洋島嶼国・地域において経済開発面での協力を行うなど、地域の安定と発展のために積極的な役割を果たしている。 また、ニュージーランドは2015年から2016年の任期で国連安保理非常任理事国に選出されており、安保理改革を含め、国連の場においても両国の協力関係を継続していく。 オ 人的交流 2014年にも、青少年交流事業「JENESYS2.0」の一環として、約270人のオーストラリア及びニュージーランドの高校生・大学生が来日した。東京のほか地方都市を訪問し、日本の高校生・大学生との交流などを通じて、日本について理解を深めた。 また、青少年間の相互理解促進を目的とした既存の姉妹都市間のネットワーク化支援が強化されている。さらに、スポーツ分野では、ラグビーを通じて日本の学生の英語教育を支援するニュージーランド政府主催事業「Game on English」が開始された。7月の安倍総理大臣のニュージーランド訪問に合わせ、両首脳立会いの下、事業の立ち上げ式が行われた。 (3)太平洋島嶼国 ア 概要・総論 日本と太平洋を共有する太平洋島嶼国・地域は、日本との歴史的つながりも深く、国際社会での協力や天然資源の供給において日本にとって重要なパートナーである。日本は、太平洋・島サミット(PALM)の開催や太平洋諸島フォーラム(PIF)域外国対話への参加、さらには要人往来などを通じて、太平洋島嶼国・地域との関係を一層強化してきている。 イ 太平洋・島サミット(PALM) 日本は、1997年から、PALMを3年に1度日本で開催している。「国土が狭く、分散している」、「国際市場から遠い」、「自然災害や気候変動などの環境変化の影響を受けやすい」といった事情により、太平洋島嶼国・地域が直面する様々な共通の課題について、首脳レベルで率直に意見交換を行うことにより緊密な協力関係を構築してきている。PALMはこれまでに6回開催されており、第7回太平洋・島サミット(PALM7)は、2015年5月に福島県いわき市で開催される予定である。 また、前回会合のフォローアップと次回会合に向けた協議を行うため、2010年から、PALMの翌年にPALM参加国の外相などを招き、中間閣僚会合を開催している。 2014年12月に、太平洋島嶼国・地域から防災政策に携わる若手行政官13人を招へいし、東京及び福島県いわき市において、関係省庁や関連機関との意見交換などを行った。 ウ 要人往来 2014年7月、安倍総理大臣は、総理大臣の公式訪問としては29年ぶりにパプアニューギニアを訪問した。両首脳は、これまでの両国の友好協力関係を「地域の安定と繁栄に向けた包括的パートナーシップ」に発展させることを確認する共同声明を発出した。経済関係では、6月にパプアニューギニアから日本への液化天然ガス(LNG)輸出が開始され、パプアニューギニアの経済成長のみならず、日本のエネルギー供給源の多角化にも寄与している。 2014年2月にはロヤック・マーシャル大統領が、11月にはモリ・ミクロネシア大統領が訪日し、安倍総理大臣と会談を行った。また、12月には、レメンゲサウ・パラオ大統領が訪日し、安倍総理大臣と会談を行った。安倍総理大臣からは、2015年に予定されている天皇皇后両陛下のパラオ御訪問の実現に向けた同国の協力に謝意を示した。また、PALM7の成功へ向け、共同議長として協力していくことを確認した。 さらに、2月には三ツ矢外務副大臣がトンガを訪問し、トゥイバカノ首相を表敬した。9月には宇都外務大臣政務官がパプアニューギニア及びソロモンを訪問し、パト・パプアニューギニア外務移民相やリロ・ソロモン首相を始めとする両国の政府要人と会談を行った。10月には、中根外務大臣政務官が総理大臣特使としてパラオ独立20周年式典に出席した。 エ 太平洋諸島フォーラム(PIF)との関係 2014年7月、パラオにおいて、太平洋島嶼国(14か国・地域)、オーストラリア及びニュージーランドから構成されるPIF加盟国と、日本、米国、中国、フランスなどの主要援助国が参加するPIF域外国対話が開催された。日本からは、木原外務大臣政務官が総理大臣特使として出席した。その際、日本と太平洋島嶼国は太平洋を共有するパートナーであり、同じ島国として、海洋及びその資源の持続可能な開発及び利用に向け協力していく考えを表明した。また、PALM7への関係各国首脳の参加・協力を要請した。同政務官は、この機会を捉え、レメンゲサウ・パラオ大統領、トゥイラエパ・サモア首相、タランギ・ニウエ首相、モリ・ミクロネシア大統領及びムラー・マーシャル保健相と会談を行った。 オ フィジー情勢 フィジーは、2006年に発生した軍事クーデターを受け、PIFや英連邦から参加資格の停止措置を受けるとともに、民主化に向けた取組が求められていた。2014年9月、クーデター後初めてとなる総選挙が、公正かつ民主的と評価される形で実施された。日本は、多国籍選挙監視団に要員を派遣し、選挙の平和的な実施に貢献した。この総選挙は、フィジーにおける民主主義の定着に向けた重要な一歩である。日本は、引き続きフィジーの民主化促進・経済発展に向けた取組を支援していく。 緊密な日豪関係 〜通訳の目から見た両首脳の特別な関係〜 日本とオーストラリアは、アジア太平洋地域において基本的価値と戦略的利益を共有する戦略的パートナーとして、近年ますます関係を緊密化しています。とりわけ、2014年7月の首脳会談において「特別な関係」と定義された日豪両国の間で、日豪EPAの発効を始めとする経済関係の強化のみならず、物品役務相互提供協定、情報保護協定、防衛装備品及び技術の移転に関する協定などの発効を通じ、安全保障・防衛分野の協力も急速に発展しています。 このように一層の発展を遂げる日豪関係の背景には、2014年だけで7回もの会談を行った安倍総理大臣とアボット首相の間の緊密な信頼関係があります。私が安倍総理大臣の通訳として同行した2014年7月のオーストラリア訪問では、両首脳がいかに親密な関係にあるかを直接目の当たりにしました。例えば、訪問中、安倍総理大臣は、アボット首相と3夜連続で夕食を共にし、オーストラリアの温かいおもてなしを受けました。通常の外国訪問では、首脳同士の会食は、1回のみというケースが多く、このようなことは極めて珍しいことです。また、西オーストラリアにあるピルバラ鉱山を視察訪問した際、安倍総理大臣は、アボット首相とオーストラリア政府専用機に同乗し、3時間以上も機内で2人きりで会話しました。これだけ仲が良いと、話すネタも通訳泣かせ。互いのことをファースト・ネームで呼び合いながら、話題は、オーストラリア産ワインからアボット首相の趣味であるサイクリング、出身地の歴史、一国の首脳としての相談まで多岐にわたります。日豪にとって重要な外交問題や世界情勢についても率直に意見を言い合ったり、互いにアドバイスしあったりもし、まるで家族のような様子でした。 豪州訪問中にアボット首相とともに安全保障会議に出席する安倍総理大臣の通訳を務める筆者(左)(2014年7月) 極めて緊密な信頼関係にある「シンゾー(晋三)」と「トニー」の間では、いかに通訳を介していることを感じさせず、素早くかつ的確に会話のキャッチボールを補助するかという通訳の醍醐味を一層強く意識し、また、自分の力量が試される毎日でした。過密スケジュールを休む間もなくこなす豪州訪問でしたが、安倍総理大臣とアボット首相の強い信頼関係を肌で感じる通訳業務であり、また、自分の通訳が結果的に少しでも両首脳の信頼関係強化に貢献できたのであれば、通訳としての職責を果たせたかなと思っています。 総合外交政策局総務課 課長補佐 藤沼 篤之