第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交 第2節 日本の国際協力(ODAと地球規模の課題への取組) 総論 〈ODAの戦略的活用〉 日本は、1954年以来60年にわたり、ODAを積極的に活用し、開発途上国の貧困削減、平和構築、持続可能な経済成長の実現、地球規模の課題の解決に貢献してきた。こうした貢献は、国際平和に依拠し、資源・食料を海外に依存する日本にとって、国民の生活を守り、日本にとって好ましい国際環境を構築することにも資するものである。また、国際社会における日本の信頼を培い、存在感を高める観点からも、非常に大きな役割を果たしてきた。2011年の東日本大震災後、開発途上国を含む世界の174か国・地域からお見舞いや支援が届けられたことは、こうした日本のODAを通じた貢献に対する国際的な評価や感謝の表れといえる。 また、ODAの実施を通じて、開発途上国の開発課題に取り組むと同時に、成長著しい開発途上国・新興国の活力を日本に取り込むことにより、日本経済の活性化を図ることも期待されている。「インフラシステム輸出戦略」(2013年5月決定)や「日本再興戦略」(同年6月閣議決定)には、インフラシステム輸出を始め、中小企業や地方自治体の国際展開、医療技術・サービスの国際展開、国際標準の獲得といった分野において、ODAを戦略的に活用していくことが明記されている。外務省は、経協インフラ戦略会議(2013年3月設置)などの場も活用して、関係省庁などと連携した取組を展開してきている。 さらに、安倍総理大臣の掲げる「積極的平和主義」を推進していく上でも、ODAの重要性はますます高まっている。2013年12月に閣議決定された「国家安全保障戦略」においても、開発問題への対応は、地球規模の安全保障環境の改善にも資するものであり、国際協調主義に基づく積極的平和主義の1つの要素として、一層強化する必要があることが明記された。 今後も、地方自治体、NGO、民間企業などとも緊密に連携しつつ、ODAの積極的かつ戦略的な活用を進めていく。 〈地球規模の課題への取組〉 急速なグローバル化により、経済・社会が地球規模で劇的に発展する一方、多様な脅威が国境を越えて人間の安全保障を脅かしている。紛争・テロ、災害、感染症、気候変動などの環境問題、人の移動の拡大に伴う人身取引・難民問題・労働問題、経済危機、格差の拡大といった課題は、一国のみで対処できる問題ではなく、人間の安全保障の観点(人間一人ひとりに着目し、その保護と能力強化を図る考え方)も念頭に、国際社会が協力して取り組まなければならない。 特に、地球規模の諸課題にとって節目の年となる2015年が迫る中、日本は関連分野での取組を強化している。開発分野では、2015年はミレニアム開発目標(MDGs)の達成期限であり、その進捗の加速化が国際社会共通の課題となっている。また、2015年より先の国際開発目標(ポスト2015年開発アジェンダ)の策定に向けた議論が本格化している。日本は、国際開発援助の大きな方針を規定する指針として、MDGs及びポスト2015年開発アジェンダを重視し、関係国や国際機関と連携しながら議論を主導し取組を強化してきた。人間の安全保障の理念を具現化する上で不可欠である保健分野については、世界の健康課題の解決への貢献を、日本外交の重要課題と位置付ける「国際保健外交戦略」を2013年5月に発表した。中でも、全ての人が基礎的医療サービスを受けられること(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)の達成に向けた取組を強化している。また、東日本大震災を始め多くの災害を経験してきた日本は、防災分野における取組も重視している。2015年3月に宮城県仙台市で開催される第3回国連防災世界会議に向けた準備を進めている。 気候変動分野において、2015年は、全ての国に適用される新たな国際枠組みについての合意の期限となっている。そうした中、日本は、本格化しつつある将来枠組みに向けた議論を主導していくため、「攻めの地球温暖化外交戦略−Actions for Cool Earth(ACE)」を2013年11月に発表した。 地球環境分野では、リオ+20などを通じて経済・社会・環境の三側面に配慮した持続可能な開発へのモメンタム(機運)が高まる中、日本は国際的議論に積極的に参画している。また、2013年10月に熊本県で開催された水銀に関する水俣条約外交会議のホスト国を務めるなど、日本の経験や知見もいかしながら、具体的取組に貢献している。 近年、北極では温暖化の影響により海氷の融解が進み、航路の利用や資源開発の可能性が増大する一方、人的活動がもたらす環境への影響などの課題が指摘されるなど、北極についての国際的な議論が高まりつつある。日本は、2013年3月に北極担当大使を任命するなど北極をめぐる国際的な議論に参加する体制を整え、5月には、北極評議会(AC)において日本のオブザーバー資格が承認された。今後、これまでに蓄積した科学的知見や技術などに基づき、さらに積極的にACに対して貢献を行っていく。 南極については、「南極条約」が@南極の平和利用、A科学的調査の自由と国際協力、B領土主権・請求権の凍結などの基本原則を定めている。日本は、これらの基本原則にのっとり、研究や観測活動を推進している。また、「環境保護に関する南極条約議定書」に従い、南極の環境保護に努め、南極条約体制の維持に貢献している。 〈科学技術外交〉 世界最高水準の日本の科学技術に対する国際社会の関心と期待は高い。「科学技術外交」を通じて各国との関係を増進し、協調しながら、日本は、国際社会の平和と安定、様々な地球規模の課題の解決、さらに日本と世界の科学技術の発展に貢献している。また、科学技術立国としての発信を通じ、日本のソフトパワー増進にも取り組んでいる。