第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交 2 日米安全保障(安保)体制 (1)日米安保総論 日本を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中、日米安保体制を強化し、日米同盟の抑止力を向上させていくことは、日本の安全のみならず、アジア太平洋地域の平和と安定にとって不可欠である。日米両国は、2013年10月、日米の外務・防衛四閣僚が東京にそろう初の機会となった日米安全保障協議委員会(「2+2」)を開催し、国際の平和と安全の維持のために両国が果たす不可欠な役割を再確認するとともに、日米同盟の中・長期的な方向性を示した。また、この「2+2」では、「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」の見直しを始め幅広い分野で日米安保・防衛協力を進めていくことを確認するとともに、日本の安全保障分野での取組については、米国から歓迎するとの立場が表明された。さらに、普天間飛行場移設を始めとする在日米軍再編についても、在日米軍の抑止力を維持しつつ、沖縄を始めとする地元の負担を軽減するため、日米で緊密に連携して取り組んできている。 日米「2+2」会合(2013年10月3日、東京) (2)各分野における日米安保・防衛協力の状況 日米両国は、日米安保体制の抑止力を向上させるため、2013年10月の「2+2」の成果も踏まえつつ、ガイドラインの見直しに加え、弾道ミサイル防衛、サイバー、宇宙などの幅広い分野における協力を進めている。 ア 「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」の見直し 2013年10月の「2+2」において、日本を取り巻く安保保障環境が一層厳しさを増す中、平和と安全を促進する上で日米同盟が引き続き不可欠な役割を果たすことを確保するため、現行のガイドラインの見直し作業を2014年末までに完了することが合意された。11月には、防衛協力小委員会(SDC)が開催されるなど、日米両国は、ガイドライン見直しに関する協議を進めている。 イ 弾道ミサイル防衛(BMD) 日本は、2006年以降実施している能力向上型迎撃ミサイルSM-3ブロックII Aの日米共同開発の着実な実施を始め、米国との協力を継続的に行いつつ、BMDシステムの着実な整備に努めている。また、2013年10月の「2+2」において、航空自衛隊経ヶ岬分屯基地(京都府)を2基目のAN/TPY-2レーダー(Xバンドレーダー)の配備先とすることとし、12月には配備に必要な施設・区域を米国に提供した。 ウ サイバー 増大するサイバー空間における脅威に対処するため、日米両国は、2013年5月に第1回日米サイバー対話を開催した。同対話は、サイバーに関する脅威情報の交換、国際的なサイバー政策についての連携、それぞれのサイバー戦略の比較、重要インフラに対する共通の脅威に対抗するための取組や計画における協力、及び防衛・安全保障政策におけるサイバー分野の協力について議論を行うための協議の場であり、日米の政府横断的な連携を推進するために、日米首脳間の合意を踏まえ、設置されたものである。 エ 宇宙 日米両国は、2013年3月に宇宙に関する包括的日米対話第1回会合を東京で開催し、安全保障分野を含め、宇宙に関する幅広い協力の在り方について議論を行った。5月には、日米両国は日米宇宙状況監視(SSA)協力取極を締結し、米国政府から日本政府に対してSSA情報等の提供が可能となった。両国は、10月の「2+2」の成果も踏まえつつ、宇宙航空研究開発機構(JAXA)によるSSA情報の米国への提供の早期実現、宇宙における海洋監視における協力など、この分野での更なる協力を進めている。 オ 3か国間協力 日米両国は、アジア太平洋地域における同盟国及びパートナーとの安全保障及び防衛協力を重視している。特に、日米両国は、オーストラリアや韓国との3か国間協力を着実に推進してきており、2013年10月の「2+2」においても、これらの3か国間の対話は、日米が共有する安全保障上の利益を増進し、アジア太平洋地域の安全保障環境の改善に資するものであることが確認された。 カ 情報保全 情報保全は、同盟関係における協力を進める上で死活的に重要な役割を果たすものであり、日米両国は、政府横断的なセキュリティ・クリアランスの導入や、カウンター・インテリジェンス(諜報による情報の漏洩防止)に関する措置の向上を含む、情報保全制度の更なる改善の取組に向け協議を行っている。 キ 海洋安全保障 日米両国は、ASEAN地域フォーラム(ARF)や東アジア首脳会議(EAS)などの場で、海洋をめぐる問題を国際法にのっとって解決することの重要性を訴えている。2013年10月の「2+2」では、アジア太平洋地域における能力構築事業において連携することや、航行の自由の保護、安全で確実なシーレーンの確保、関連の国際慣習法及び国際約束の促進のため、海洋安全保障や海賊対策において更に協力を強化することを確認した。 (3)在日米軍再編 日米両国は、2006年に「再編の実施のための日米ロードマップ」(以下「ロードマップ」という。)を発表した。その後、在日米軍再編計画の検証を経て、2010年及び2011年には「2+2」による合意をもって「ロードマップ」を補完した。さらに、2012年の「2+2」共同発表においては、「ロードマップ」に示された再編計画を調整し、在沖縄米海兵隊のグアム移転及び嘉手納以南の土地の返還の双方を普天間飛行場の代替施設に関する進展から切り離すことも決定された。 こうした中、2013年2月の日米首脳会談において、両首脳は、普天間飛行場の移設及び嘉手納以南の土地の返還計画を早期に進めていくことで一致した。その後、政府は、3月に普天間飛行場の辺野古移設のための公有水面埋立承認願書を沖縄県に提出するとともに、4月には、嘉手納以南の土地の返還に係る統合計画を日米で公表した。この統合計画に沿って、牧港補給地区(キャンプ・キンザー)の北側進入路の土地の返還が既に完了したほか、同地区の第5ゲート付近の区域、キャンプ瑞慶覧(キャンプ・フォスター)の西普天間住宅地区などの返還に関する日米合同委員会合意がなされている。 2013年10月の「2+2」共同発表においては、2012年の「2+2」共同発表によって調整された再編計画が、地理的に分散し、運用面で抗たん性があり、政治的に持続可能な米軍の態勢を実現するものであることが再確認された。また、在日米軍再編に関する日米間のこれまでの合意について、米軍の訓練能力を含む運用能力を確保しつつ、可能な限り速やかに実施していくことが確認された。 この「2+2」共同発表においては、普天間飛行場の辺野古移設について、日米両政府の強いコミットメントが再確認された。加えて、沖縄の負担軽減に向けて、沖縄県外での米軍の訓練を増加させるため様々な機会を活用することを決定し、沖縄本島の東方沖合にあるホテル・ホテル訓練区域の一部における使用制限の一部解除について、原則的な取決めを作成するよう指示があった。また、同共同発表で、KC−130飛行隊の普天間飛行場から岩国飛行場への移駐に関する協議の加速化が確認され、その後の協議の結果、2014年6月から9月までの間に全15機が移駐されることとなった。 さらに、この「2+2」の機会に、在沖縄米海兵隊のグアム移転について、2012年の「2+2」共同発表で作成することとされたグアム及び北マリアナ諸島連邦における施設及び基盤の整備に関する費用内訳の概要が公表されるとともに、2009年に締結された現行のグアム協定を改正する議定書への署名も行われた。現行の計画の下で、米海兵隊部隊の沖縄からグアムへの移転は、2020年代前半に開始されることとなる。 この「2+2」共同発表においては、高度な能力の日本への配備として、在沖縄米海兵隊によるMV-22オスプレイの2個飛行隊の導入、米海軍によるP-8哨戒機の米国外への初の配備、米空軍によるグローバル・ホーク無人偵察機のローテーションによる展開、米海兵隊によるF-35Bの米国外における初の前方配備なども確認された。 2013年12月には、日米両国は、ホテル・ホテル訓練区域の使用制限の一部解除について、原則的な取決めを発表し、また、普天間飛行場代替施設建設事業に関する公有水面埋立が沖縄県によって承認された。2014年2月の岸田外務大臣の訪米時には、ケリー米国国務長官及びヘーゲル米国国防長官に対し、2013年12月に沖縄県知事から出された沖縄の負担軽減に関する要望を説明するとともに、沖縄の負担軽減に向け、米国の協力の継続を要請した。 日本政府としては、在日米軍の抑止力を維持しつつ、沖縄の負担軽減を図るべく、これまでの日米合意に従い、在日米軍再編に係る取組を着実に実施し、沖縄県民の気持ちに寄り添いながら、政府としてできることは全て行うとの方針で取り組んでいく考えである。 米軍再編の全体像 在日米軍関係経費(日本側負担の概念図)(平成26年度予算案) (4)在日米軍駐留経費負担(HNS) 日本は、日米安保体制の円滑かつ効果的な運用を確保していくことが重要であるとの観点から、日米地位協定の範囲内で、在日米軍施設・区域の土地の借料、提供施設整備(FIP)費などを負担しているほか、特別協定を締結して、在日米軍の労務費、光熱水料等及び訓練移転費を負担している。 (5)在日米軍の駐留に関する諸問題 日米安保体制の円滑かつ効果的な運用とその要である在日米軍の安定的な駐留の確保のためには、在日米軍の活動が周辺の住民に与える負担を軽減し、米軍の駐留に関する住民の理解と支持を得ることが重要である。特に、在日米軍の施設・区域が集中する沖縄の負担軽減を進める重要性については、日米首脳会談、「2+2」、日米外相会談などの累次の機会に日米双方が確認している。 日本政府は、在日米軍再編に引き続き取り組む一方で、米軍関係者による事件・事故の防止、米軍機による騒音の軽減、在日米軍の施設・区域における環境問題などの具体的な問題については、地元の要望を踏まえ、改善に向けて最大限の努力を払ってきている。 2013年10月には、日米地位協定に基づく刑事裁判などの処分結果の相互通報制度に関する新たな枠組みに関する日米合同委員会合意がなされた。これにより、米軍人などによる日本国又は日本国民に対する犯罪で米国が第一次裁判管轄権を行使した全ての事件について、裁判や処分の結果の通報を受け、被害者や家族に開示することが可能となった。 また、米軍施設・区域内や周辺の環境保全の重要性や、現行の日米地位協定に環境保護に関する明示的な規定がないことを踏まえ、2013年12月、日米両国は、在日米軍施設・区域における環境の管理に係る枠組み作成に向けた日米協議の開始を発表した。これは、日米地位協定の発効後50数年を経て、初めて、日米地位協定を環境面で補足する協定の作成に取り組むものである。この日米協議においては、環境保護の重要性に対する認識、在日米軍による高度な環境基準の適用、米軍施設・区域への立入りのための統一的な手続の作成や日本側による環境関連措置のコミットメントなどについて協議されることとなっている。