第2章 地球儀を俯瞰する外交 各論 1 米国 (1)日米政治関係 日米両国間では、首脳・外相レベルを始めあらゆるレベルでの信頼関係強化と緊密な政策協調を通じて、日本の外交・安全保障の基軸である日米同盟を強化してきている。 2013年は、1月の岸田外務大臣の訪米、2月の安倍総理大臣及び岸田外務大臣の訪米の後も、日米間で頻繁な要人往来・会談が行われた。4月10日、G8外相会議出席のためロンドンを訪問した岸田外務大臣は、ケリー国務長官と会談を行った。2月に就任したケリー国務長官にとって初めてとなるアジア歴訪及び訪日を控え、両外相は北朝鮮やイランについて議論した。 その直後となる4月14日に訪日したケリー国務長官は、岸田外務大臣と再び会談を行った。その際、岸田外務大臣から改めてオバマ大統領の訪日を招請するとともに、日米間の政策対話強化への取組(1)や青少年交流計画など(2)についての説明を行った。これらに対し、ケリー国務長官からは、歓迎の意が示された。在日米軍再編に関して、両外相は、2月の日米首脳会談の合意(3)に従い、普天間飛行場移設及び嘉手納以南の土地の返還計画の双方が着実に進展したことを評価した。TPP協定については、岸田外務大臣が、交渉会合に日本が早期に参加できるよう、米国内や加盟国間の承認プロセスを進めていくための協力を求めたのに対し、ケリー国務長官は理解を示した。また、アジア太平洋地域情勢に関する議論の中で、ケリー国務長官から、訪韓と訪中の結果について、詳細な説明が行われた。北朝鮮の核開発阻止の方策についても議論が行われ、日米間の高級実務者協議を行い、日米韓3か国の協力を更に進めていくことが確認された。このほか、対中政策に関連し、ケリー国務長官は尖閣諸島に関し米国が従来示してきた立場にはその後も何ら変更がないことを明確にした(4)。また、シリア、ヨルダン及び中東和平についても議論が行われ、気候変動問題に関しては日米協力に関するファクトシート(5)が発出された。 7月、シンガポールを訪問中の安倍総理大臣は、同じく同国を訪問中であったバイデン副大統領による表敬を受けた。その際、バイデン副大統領は、米国のアジア太平洋重視政策(リバランス)における日本の戦略的役割を重視していると述べた。安倍総理大臣からは、米国の地域への関与を歓迎し、ASEAN関連首脳会議に向け連携を強化したいと述べた。さらに、安倍総理大臣から、オバマ大統領によるケネディ次期駐日大使の指名を歓迎すると述べた。また、両者は、TPP協定が経済面に加え日米同盟強化や戦略的観点からも重要であるとの点で一致した。 9月、G20サミット出席(第3章第3節3(1)「G8/G20サミット」参照)のためサンクトペテルブルクを訪問した安倍総理大臣は、オバマ大統領との首脳会談を行った。両首脳は、シリア情勢について議論した。安倍総理大臣から、今回のG20サミットで可能な限り国際社会が一致結束していることを示すべきであると述べたのに対し、オバマ大統領は、シリア問題に関する米国の考え方について改めて説明した上で、国際社会の連携が重要であるとの安倍総理大臣の発言に賛意を示した。また、日米関係に関し、安倍総理大臣からは、「2+2」開催を実現し、安保・防衛協力の具体化につなげ、力強い日米同盟の方向性を内外に示したいと述べた。これに対し、オバマ大統領は、日米同盟の強化は最優先課題であり、協力して懸案を解決し、未来志向の同盟にしていきたいと述べた。さらに、両首脳は、TPP交渉の年内妥結に向けて緊密に協力していくことを確認した。 10月には、「2+2」が行われた。厳しさを増すアジア太平洋地域における安全保障環境を踏まえ、中長期的な日米安保・防衛協力や在日米軍再編などについて協議が行われ、共同発表が発出された(第3章第1節2「日米安全保障(安保)体制」参照)。また、安倍総理大臣は、岸田外務大臣と小野寺防衛大臣の同席の下、ケリー国務長官とヘーゲル国防長官の表敬を受けた。その際、安倍総理大臣から、日本として「積極的平和主義」の立場から具体的な取組を行っていくことを説明し、こうした日本の安全保障上の取組を米側が歓迎したことは極めて有意義であると述べた。これに対し、ケリー国務長官は、今回の「2+2」共同発表をオバマ大統領も支持していると発言し、ヘーゲル国防長官からは、安全保障分野における安倍総理大臣の様々な取組に感謝するとの発言があった。双方は、在日米軍再編について、普天間飛行場移設を含め、現行の日米合意に基づき着実に進めていくことを確認した。また、朝鮮半島、中国などの地域情勢についても率直な意見交換を行い、アジア太平洋地域の平和、安定及び繁栄に向けて連携して取り組んでいくことで一致した。さらに、中東情勢やグローバルな課題についても率直な意見交換を行った。この機会に、日米外相会談(夕食会)も行われ、青少年交流事業の1つとして沖縄の高校生を対象としたプログラムを実施することやシリア情勢、日韓関係に関する議題を含む幅広い議論が行われた。 12月、安倍総理大臣は、訪日したバイデン副大統領の表敬(6)を受けた。中国の「防空識別区」設定の発表について議論が行われ、両者は、自衛隊と米軍の運用を含む両政府の政策・対応が一切変更されないとの立場を堅持するとともに、自衛隊と米軍を含む日米間の連携を維持することを改めて確認した。そのほか、普天間飛行場移設やTPP協定、日韓関係、東南アジアでの協力や女性のエンパワーメントなどの幅広い分野における日米協力(7)についても議論が行われ、共同記者発表において、グローバルな日米協力に関するファクトシートを発出した。 岸田外務大臣は2014年2月に訪米した。ケリー国務長官との外相会談において、岸田外務大臣は、「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」の見直しを始め、幅広く安保・防衛協力関係を大きく前進させる歴史的機会が訪れており、力強い日米同盟を内外に示したいと述べた。また、岸田外務大臣から普天間飛行場移設を含む在日米軍再編の進展を歓迎するとともに、沖縄の負担軽減に向け、引き続きの米側の協力を要請した。また、TPP協定や北朝鮮情勢についても議論が行われた。日韓関係について、岸田外務大臣からは、実利に基づく協力案件を積み上げて関係を改善したいと説明した。中国については、岸田外務大臣は、中国の力による現状変更の試みは地域共通の懸念であり、強固な日米同盟と米国のアジアへの強いコミットメントが引き続き重要であると述べた。これに対し、ケリー国務長官は、米国はこれまで同様に日本との条約義務にコミットし続ける、これは東シナ海を含むと述べた。また、ケリー国務長官は日本のパレスチナ支援を歓迎していると述べ、開発や女性への支援などグローバルな課題についても協力していくことが確認された。さらに、岸田外務大臣はヘーゲル国防長官やライス国家安全保障担当大統領補佐官とも会談し、安全保障、アジア太平洋情勢などについて議論を行った。 日米外相会談におけるケリー米国国務長官と岸田外務大臣(2014年2月7日、米国・ワシントン) (2)日米経済関係 日米両国が経済分野においても緊密に協力していくことは、日米同盟の更なる強化や世界経済全体の発展のため、不可欠である。日米両国間では、貿易・投資関係を強化させるとともに、エネルギーを始めとする様々な分野における協力関係を引き続き推進していく。また、日米で協力してアジア太平洋における貿易・投資に関する新たなルールを作り上げていく。その観点から、日本のTPP協定交渉参加は大きな意義を持つ。 2013年4月、日本のTPP協定交渉参加に関する日米間の協議が妥結した。この日米合意において、TPP協定では包括的で高い水準の協定を達成していくことを確認した。同時に、日本には一定の農産品、米国には一定の工業製品といった二国間貿易上のセンシティビティが両国にあることを認識しつつ、TPP協定におけるルール作りや市場アクセス交渉において、緊密に共に取り組むことを確認した。また、日米両国が経済成長促進、二国間貿易拡大や貿易・投資などのルールの強化のため、共に取り組んでいくこととし、この目的のため、自動車貿易(8)と非関税措置(9)に関し、TPP協定交渉と並行して日米間で交渉を行うことを決定した。この日米並行交渉は、8月の第一回会合以降、2013年中に計4回、開催された。 エネルギー協力については、日本では東日本大震災後、増大する燃料費の削減のため、低廉かつ安定的な液化天然ガス(LNG)の確保が喫緊の課題となっている。米国エネルギー省は5月以降、日本を含むFTA非締約国向けのLNG輸出許可申請を順次、承認している。9月の日米首脳会談、10月の岸田外務大臣とモニーツ・エネルギー長官との会談などのハイレベル会談の場を活用して、米国産LNGの対日輸出が早期に承認されるよう働きかけを行ってきた。この結果、2014年2月時点で日本企業が関与している米国LNG輸出プロジェクト全4件は、全て輸出承認を得ている。 また、9月、安倍総理大臣は、日本の現職の総理大臣として初めてニューヨーク証券取引所(NYSE)を訪問し、集まったビジネスリーダーに対して日本の超電導リニア技術をPRした。このほか、11月には訪日中のダシュル元米連邦上院議員ほか、米国への超電導リニア導入プロジェクトに関する現地でのマーケティング活動を行っているメンバーに対し、安倍総理大臣から働きかけを行っている。 なお、米国においても、日本の経済政策に対する関心は高まっている。安倍総理大臣は、前述のNYSE訪問の際、日本経済及び成長戦略に関する講演を行い、日本への積極的な投資を呼びかけた。 米貿易赤字に占める対日比率の低下 日米投資関係 (3)米国情勢 ア 政治 2013年1月、前年の連邦議会選挙で上院では民主党、下院では共和党がそれぞれ過半数を維持したため、上下両院で多数党が異なる「ねじれ」の状況が継続したまま、第113議会が召集された。2月、再選を果たしたオバマ大統領は一般教書演説を行い、政権2期目の主要な課題として移民制度改革や銃規制などを挙げた。その際、議会が「ねじれ」の状態にあっても超党派の合意が得られることを期待し、諸政策に引き続き取り組む決意を表明した。しかし、4月には上院が銃規制法案の採決を見送り、6月には上院が超党派の支持を得て包括的移民制度改革法案を可決し進展が期待されたものの、共和党が過半数を占める下院は同法案の審議を事実上棚上げした。また、9月には、オバマ政権1期目の内政上最大の成果といわれる医療保険制度改革法の施行に反対の立場から、共和党側が継続予算決議案や債務上限引き上げ問題などをめぐる協力を拒否したため、党派対立が先鋭化した。これにより、10月1日、約18年ぶりに連邦政府機関の一部閉鎖(「シャットダウン」)を引き起こす事態となった。 この連邦政府機関閉鎖に対応するため、オバマ大統領は10月に予定していた東南アジア歴訪を取りやめた。また、10月1日には、オバマ大統領の最重要課題の1つである医療保険制度改革法が2014年1月から本格施行されることを受け、「医療保険エクスチェンジ」(個人が民間医療保険を比較購入できるウェブサイト)が始動したが、システム障害や、オバマ大統領が従来から国民に説明してきた内容と異なる部分があることが判明した。共和党を中心に世論から激しい批判にさらされ、オバマ大統領は、医療制度改革法を一部修正する行政措置を発表した。 このように、2013年には、オバマ大統領と議会が激しく対立することも多かった。一方で、10月17日と想定された債務上限到達予想日の直前16日の債務上限引き上げ法案の可決による債務不履行の回避、同月30日から協議を開始した予算に関する両院協議会において、12月10日に2015会計年度までの予算が合意されるなど、完全に超党派合意の取組が失われたわけではない。2014年の連邦議会選挙に向けて、民主・共和両党の対立が深まることも予想される中、2期目で大統領としての功績を残すために、諸政策を推進する構えであるオバマ大統領が、今後いかに連邦議会と協力し政策を遂行するのか、その政権運営が注目される。 イ 経済 (ア)経済の現状 米国経済は、2009年6月を底として景気回復局面に入り、2013年も一貫して緩やかな景気回復を続けた。2013年10〜12月期の実質GDP(確定値)は、前期比年率2.6%増となった。 (イ)経済政策 オバマ大統領は、2013年2月の一般教書演説において、経済政策に関し、米国の経済成長のエンジンである中間層を活力のあるものとするため、雇用の創出を最優先の課題とし、職業訓練の充実や生活水準の向上といった目標を、財政赤字を拡大させずに実現させると述べた。通商政策については、米国輸出促進、雇用創出、アジア新興市場における活動促進のためにTPP協定交渉を完結させるとともに、包括的な環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)に向けたEUとの協議を開始すると宣言した。 金融政策については、12月、米連邦準備制度理事会(FRB)が、量的緩和第三弾(いわゆる「QE3」)の縮小を決定し、米財務省証券と住宅ローン担保証券の追加的購入規模を縮小した。また、フェデラル・ファンド金利誘導目標の水準を維持する期間の目安につき、従来のガイダンス(失業率が6.5%を上回り、1、2年先のインフレが長期目標の2%から0.5%を超えて上回らず、長期的なインフレ期待が十分に抑制される限り)に、「特にインフレ見通しが連邦公開市場委員会(FOMC)の長期的な目標である2%を引き続き下回るようであれば、失業率が6.5%を下回った後も、十分な期間、現在の金利水準を維持することが適当」と追加し、更に明確化した。2014年2月1日、イエレン氏(前FRB副議長)が女性として初めてFRB議長に就任した。 1 既存の外務次官・国務副長官間の戦略対話に加え、政務担当外務審議官と国務次官の対話も頻繁に行うことを提案した。 2 日米間で約5,000人規模の青少年の交流を目標とする交流プログラム「KAKEHASHI-The Bridge for Tomorrow-」についての詳細は、外務省ホームページ(http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/page23_000012.html)を参照。 3 普天間飛行場の移設及び嘉手納以南の土地の返還計画を早期に進めていくことで一致。 4 ケリー国務長官は、共同記者会見において、尖閣諸島は日本の施政下にあり、その現状を変えようとするいかなる一方的な行為にも反対すると明言した。 5 「気候変動協力に関する日米ファクトシート」は、外務省ホームページ(http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/page4_000042.html)で閲覧可能。 6 表敬の後には1対1の懇談も行われ、その後夕食会も行われた。 7 「日米のグローバル協力に関するファクト・シート」は、外務省ホームページ(http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/page3_000575.html)で閲覧可能。 8 特別な加速された紛争解決手続、特別自動車セーフガード、透明性、基準、PHP、環境対応車/新技術搭載車、財政上のインセンティブ、流通、第三国協力 9 保険、透明性/貿易円滑化、投資、知的財産権、規格・基準、政府調達、競争政策、急送便、衛生植物検疫措置