第3節 経済外交 総論 2012年の世界経済情勢については、前年に引き続き、欧州債務危機に端を発する世界経済全体の不確実性が拭いきれない中で、中国やインドなどの新興国の経済成長の減速や米国における「財政の崖」への対応をめぐる不透明感等による影響もあり、景気減速の動きに拡がりが見られた。また、食料価格の高騰、資源価格の高止まりなどによる不透明感も増した。こうした不安定な経済状況の中、新興国や開発途上国の中には保護主義的な動きや新たな貿易ルール作りに消極的な姿勢も見られた。日本国内では、東日本大震災からの復興が着実に進みつつある一方、円高や新興国の需要減に伴う輸出の減少と化石燃料の輸入の増加などにより、貿易収支が悪化した。日本が成長を維持していくためには、保護主義を抑止して自由貿易体制を強化していくとともに、引き続き成長が見込まれるアジア太平洋地域の40億人の需要を日本の内需と捉え、地域の活力を日本経済成長のために取り込んでいくことが重要となっている。 欧州債務危機などの世界経済が抱える問題に対処するためには、多国間協力を進めていくことが重要である。5月に開催されたG8キャンプデービッド・サミット(於:米国)では、強くまとまりのあるユーロ圏の重要性について一致し、ギリシャがユーロ圏に残ることへのG8の一致した関心が示されたほか、財政健全化と経済成長の両立の重要性についても議論が行われた。6月に開催されたG20ロスカボス・サミット(於:メキシコ)では、市場の信頼の回復や世界経済の成長に向け、先進国と新興国が協力してG20としての政治的約束を示す「ロスカボス行動計画」が策定された。また、欧州債務危機の再燃防止のため、日本はこのサミットに先立ってIMF資金基盤強化への600億米ドルの融資枠の貢献を表明するとともに、各国に対しても具体的な貢献を呼びかけた。その結果、サミットの場において新興国を含む多くの国から具体的な貢献額の表明があり、合意形成に大きく貢献した。 日本の成長の機会を最大化していくために、貿易の自由化は重要である。日本は、多角的貿易体制の信頼性を堅持すべく、保護主義抑止に努力していくとともに、ドーハ・ラウンド交渉を始めとするWTOの下での交渉に引き続き積極的に取り組み、世界全体の貿易自由化の更なる推進に向けて関係国と協力していく必要がある。さらに、OECDが、外国公務員贈賄防止や投資分野などの国際的ルールの普及を目的として行っている新興国などとの対話活動にも引き続き貢献していくことが求められている。 また、二国間又は地域における貿易に関し、高いレベルの経済連携の実現に向けた取組を引き続き強化していくことも重要である。11月に開催されたASEAN関連首脳会議の際には、日中韓FTAや東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉立上げが宣言された。これらは、日本が交渉参加を表明した環太平洋パートナーシップ(TPP)協定と共に、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の実現に向けた地域的取組である。また、同じく11月には、欧州委員会がEU外務理事会において日本とのEPAについて交渉権限を取得し、日・EU間での交渉開始に向けた環境が整った。このほか、オーストラリア、モンゴル、カナダ、コロンビアとのEPA交渉やトルコとのEPA共同研究も前進している。日本は、FTAAPの実現に向けてアジア太平洋経済協力(APEC)における議論にも積極的に貢献している。9月にロシアのウラジオストクで開催されたAPEC首脳会議では、グリーン成長に実質的に貢献できる「環境物品リスト」(54品目)に合意し、貿易自由化への取組に新たな弾みを与えることができた。 多くの資源を海外に依存している日本にとり、安定的な資源確保は不可欠である。特に、東日本大震災後、化石燃料への依存度が高まっており、資源国との関係強化と供給国の多角化が従来にも増して重要になっている。省エネルギー・再生可能エネルギーに関する国際的な協力やいわゆる「シェール革命(1)」が与える影響を踏まえたエネルギー確保のための戦略作りも今後の課題となる。また、世界的な人口増加と食料不足の到来が予想される中、農業の持続的発展とそれを通じた食料価格の安定が一層重要となっている。2012年は米国での干ばつの影響などにより、とうもろこし・大豆が市場最高値を更新した。このような状況に対し、日本は、G8、G20、APECなどの国際的枠組みにおいて、農業生産の増大とそのための責任ある形での民間農業投資の促進、生産性の向上、市場透明性の向上などの食料安全保障に関する協力を進めた。水産資源については、日本は、責任ある漁業国として、マグロ類資源の保存管理措置の強化に向けた議論を主導するなど、地域漁業管理機関を通じた国際的な漁業資源の保存・管理を積極的に進めている。7月には「北太平洋漁業資源保存条約」への署名を行った。 日本国内の人口減少に伴って内需が低迷する中、日本経済の活力を維持していくには、海外の成長を日本の成長につなげていくことがこれまで以上に重要となっている。このため、外務省では、日本企業の海外展開を積極的に支援している。また、海外における日本企業のビジネスを後押しするため、経済活動の環境整備のための法的枠組みである投資協定、租税条約、社会保障協定の締結を積極的に推進している。さらに、全ての在外公館に「日本企業支援窓口」を設置し、各種の情報提供や相手国政府・関係機関への働きかけ、在外公館施設などを活用した日本製品PR、日本ブランドの発信や知的財産保護のための取組などを行っている。知的財産保護については、日本は、10月に「偽造品の取引の防止に関する協定」(ACTA)の受諾書を寄託し、同協定の最初の締約国となった。 東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故を受け、引き続き多くの国が日本産品に対する輸入規制を課しており、被災地復興の妨げの1つとなっている。外務省では、関係省庁・機関と緊密に協力・連携し、諸外国の政府や国際機関に対し、日本国内における検査体制の強化や出荷制限などの最新状況について正確で迅速な情報提供と規制の緩和や撤廃の働きかけを行っている。こうした取組の結果、2011年中に規制を解除したカナダ、チリなどに加え、2012年にはメキシコ、ペルー、ニュージーランドなどが規制を全面的に解除し、EUもこれまでの規制を大幅に緩和した。引き続き、こうした取組を更に強化し、中小企業を含めた日本企業の海外でのビジネス展開やインフラの海外輸出、農林水産物の輸出促進に向けて積極的な支援を行っていくことが重要である。