第2節 日本の国際協力(ODAと地球規模の課題への取組) 総論 ODAは日本の最も重要な外交手段である。日本を取り巻く国際情勢が大きく変動する今日、その重要性や有効性は更に増大している。自由で豊かで安定した国際社会の実現に向け、普遍的価値や戦略的利益を共有する国に対し、支援を行っていく。このため、ODAの戦略的・効果的活用を進める必要がある。 グローバル化が急速に進展する今日、国内紛争の国際化、テロ、感染症の広まり、人の移動の拡大に伴う人身取引や難民問題、経済危機、貧困・格差の拡大、気候変動・環境問題、災害など、人々を脅かす脅威もまた多様化し、深刻化している。このような地球規模の諸課題に対応するためには、人間の安全保障を指導理念として、MDGsの達成、グリーン経済への移行、持続可能な開発の実現といった共通の目標に向け、国際社会の協力を強化することが必要である。 日本は、国際社会共通の開発目標であるMDGs達成を人間の安全保障の実現に不可欠なものとして重視し、積極的な貢献を続け、MDGs達成に向けた国際社会の取組を主導している。また、MDGsが達成期限を迎える2015年より先も国際社会が一丸となって取り組むべき共通の目標を設定すべきとの考えから、2015年より先の国際開発目標(ポストMDGs)の策定に向けた議論についても、主導的役割を果たしている。人間の安全保障の理念に沿った国際社会におけるリーダーシップの発揮や支援が、日本に対する信頼を強化することにつながっている。 また、このような地球規模の課題の解決に日本が貢献するためには、日本の総力の結集が重要である。ODAの分野では、政府のみならず、地方自治体、NGO、民間企業、大学といった援助の担い手の拡大が進んでおり、政府は各担い手との連携強化を進めている。 ODAの実施に当たっては、国民による幅広い理解と支持が不可欠である。このため、外務省は、援助の効率性や透明性の向上に向けた取組を継続的に行っている。具体的には、昨年度創設した「開発協力適正会議」をこれまでに7回実施したほか、事業の透明性を高める目的で立ち上げられ、ODA案件の現状や成果を体系的に公表している「ODA見える化サイト」には、これまでに1,280件の案件が掲載されている。 ODAは、日本自身のためにも役立てられている。具体的には、ODAを通じて日本の力強い経済成長を後押しするために、国際協力機構(JICA)海外投融資の再開や外貨返済型円借款の導入などの貿易・投資環境の整備、中小企業の製品・技術などのニーズ調査や案件化調査、中小企業が必要とするグローバル人材の育成を目的とした「民間連携ボランティア制度」などの中小企業の海外展開支援を実施し、拡充している。 持続可能な社会の構築は、開発途上国支援に留まらない国際社会全体の関心事項である。日本は、持続可能な開発を外交上の重要課題と位置付け、国際社会の議論を主導している。2012年6月に開催された国連持続可能な開発会議(リオ+20)でも、世界のグリーン経済移行などに取り組む「緑の未来」イニシアティブを発表し、着実に実施してきている。 地球の持続可能性への脅威となる気候変動問題については、COP18において2つの作業部会がその作業を終了し、京都議定書に代わる新たな国際枠組みの構築に向けた交渉に専念できる環境が整備された。日本は、世界の低炭素成長実現に向けた地域的又は二国間の取組として、「東アジア低炭素成長パートナーシップ対話」の開催や「二国間オフセット・クレジット制度」の提唱など具体的取組を精力的に推進しており、引き続き交渉を積極的に主導していく。 近年、環境問題、航路開通、資源開発などに関わる国際的議論の高まりが見られる北極については、北極評議会へのオブザーバー資格申請を行うなど、北極をめぐる議論への関与を強めている。また、外務省内に北極に関する日本の外交政策を分野横断的に検討し、適切な北極政策を推進するための「北極タスクフォース」を立ち上げ、関連情報の共有や意見交換を重ねている。外務省内では北極に関する諸問題についての研究会も開催している。 南極については、1959年に採択された「南極条約」が@南極の平和利用、A科学的調査の自由と国際協力、B領土主権・請求権の凍結などの基本原則を定めている。日本は、これらの基本原則にのっとり研究や観測活動を推進するとともに、1991年に採択された「環境保護に関する南極条約議定書」に従い、南極の環境保護に努め、南極条約体制の維持に貢献している。 また、世界最高水準の日本の科学技術に対する国際社会の関心と期待は高い。科学技術協力を通じて各国との関係を増進し、また協調しながら、日本は、持続可能な成長の実現や地球規模の課題の解決を目指している。そのために、二国間科学技術協力協定に基づく協力、科学者・専門家の派遣、多国間の大規模な研究開発プロジェクト、科学技術ODAの推進などに取り組んでいる。