2 国際社会の平和のための取組 (1)地域安全保障 アジア太平洋地域において、日米同盟に加え、二国間及び多国間の安全保障協力を多層的に組み合わせてネットワーク化することは、同地域の安全保障環境の一層の安定化に効果的に取り組む上で不可欠である。 日本は、このような認識の下、特に、米国の同盟国であり、基本的な価値や経済的及び安全保障上の利益を共有する韓国及びオーストラリアとの間で、二国間及び米国を含めた多国間での協力の強化に努めている。2012年7月及び9月には、日米韓外相会合が開催され、3か国が基本的価値と利益を共有していることや日米韓協力の強化に向けた意思が確認された。また、2012年9月には、第4回日・オーストラリア外務・防衛閣僚協議(「2+2」)が開催され、地域の平和と安定の観点から、地域情勢、日・オーストラリア間の安全保障協力などについて議論がなされた。2012年は、第5回日・フィリピン外務・防衛当局間協議や第3回日・ベトナム戦略的パートナーシップ対話を開催するなど、引き続きASEAN諸国との安全保障協力の維持・強化にも力を入れている。さらに、アフリカ、中東から東アジアに至る海上交通の安全確保などに共通の利害を有するインドとの間でも、二国間及び米国を含めた三国間での協力の強化に努めており、2012年10月には、外務省、防衛省の事務次官レベルで議論する日印次官級2+2協議を東京で開催した。また、前年に引き続き、日米印3か国の間で、地域情勢を含む共通の関心事項について外務省の局長レベルで議論する日米印協議第3回会合が開催された。 アジア太平洋地域の安全保障に大きな影響力を持つ中国やロシアとの間では、安全保障対話・交流などを通じた信頼関係を増進する必要がある。日中関係は、日本にとって最も重要な二国間関係の1つであり、両国は地域と世界の平和、安定及び発展に厳粛な責任を負っている。尖閣諸島は、歴史的にも国際法上も日本固有の領土であることは明らかであるが、中国との間では意思疎通を維持・強化し、事態をエスカレートさせないよう中国側に自制を求めるとともに、責任ある対応を求めていく。また、ロシアは、重要な隣国であり、アジア太平洋地域のパートナーとしてふさわしい関係を構築していく。この方針の下、2012年に行われた日露首脳・外相会談でも、安全保障分野の協議や協力を更に進めていくことで一致した。また、2012年10月にはパトルシェフ・ロシア安全保障会議書記が訪日し、「日本国外務省とロシア連邦安全保障会議事務局との覚書」に署名し、安全保障分野での協力について意見交換を行った。多国間の安全保障協力については、日本は、ARF、EAS、ADMMプラスなどに積極的に参加し、多国間の対話や協力にも精力的に取り組んできている。 ARFは、アジア太平洋地域の安全保障環境を向上させることを目的とするフォーラムであるが、日本はARFに対し、様々な貢献を行っており、例えば2012年3月に、ARF海上安全保障会期間会合における取組の一環として、「海上安全保障における信頼醸成措置」についての国際ワークショップを東京で開催した。また、2012年7月にカンボジアで開催された第19回ARF閣僚会合では、南シナ海をめぐる問題について、アジア太平洋地域の平和と安定に直結する国際社会共通の関心事項であることや国際法の遵守が重要であることなどが改めて確認された。 日本は、政府間対話のみならず、安全保障に関する率直な意見交換の場として民間レベルの対話の枠組みも積極的に活用し、アジア太平洋地域の平和と安定のための基盤となる信頼醸成の促進に努めている。中でも、アジア安全保障会議(通称:「シャングリラ・ダイアローグ」)は、アジア太平洋地域の国防相を含む防衛・安全保障分野の政府関係者や有識者が一堂に会し、防衛問題や防衛・安全保障協力に関して議論をする会合となっている。また、北東アジア協力対話(NEACD)は、北東アジアの長期的な安定に役立てることを目的とした民間の安全保障対話の枠組みであり、北東アジアの平和と安定のための基盤となる相互信頼と信頼醸成の促進に寄与してきている。 (2)平和維持・平和構築 ア 現場における取組 (ア)国連平和維持活動(国連PKO) 国連PKOは、伝統的には、国連が紛争当事者間に立って、停戦や軍の撤退の監視などを行うことにより事態の鎮静化や紛争の再発防止を図り、紛争当事者による対話を通じた紛争解決を支援することを目的とした活動である。しかし、冷戦終結後、内戦の増加などによる国際環境の変化に伴い、国連PKOは、停戦監視などの伝統的な任務に加え、元兵士の武装解除・動員解除・社会復帰、治安部門改革、選挙、人権、「法の支配」などの分野における支援、政治プロセスの促進、紛争下の文民の保護など、多くの任務を与えられている。2012年には15の国連PKOミッションが中東、アフリカ地域を中心に活動しており、その軍事・警察要員数を合計すると約9万4,000人にも上っている(同年12月末現在)。こうした任務の複雑化・大規模化とそれに伴う必要な人員、装備・機材、財源などの資源の不足という事態を受け、国連を始めとする多くの場で国連PKOのより効果的・効率的な実施に関する議論が行われている。 日本は、1992年6月に制定された国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(PKO法)に基づき、これまで、13のミッションに延べ8,000人以上の要員を派遣してきた。現在は、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)に対し、2011年11月からは司令部要員を、2012年1月からは施設部隊などを派遣している。なお、2012年9月には、2010年9月から国連東ティモール統合ミッション(UNMIT)に派遣していた軍事連絡要員が帰国したほか、同年12月には、ハイチ地震発生直後の2010年1月から国連ハイチ安定化ミッション(MINUSTAH)に派遣していた施設部隊がハイチから撤収した。また、2012年12月には1996年2月から国連兵力引き離し監視隊(UNDOF)に派遣していた輸送部隊などの撤収が決定された。MINUSTAHに派遣していた施設部隊については、撤収に際し、同部隊が使用していた資機材の一部を国連及びハイチ政府に贈与した。ハイチ政府に対する資機材の贈与は、2011年12月の「防衛装備品等の海外移転に関する基準」についての内閣官房長官談話の下で行われた初めての防衛装備品等の海外移転である(詳細については特集参照)。 さらに、日本は、平和維持・平和構築分野で活躍する人材を育成するため、日本及びアジアの文民専門家を育成する平和構築人材育成事業やアジア太平洋地域の軍人・警官・文民を対象とした国連PKO幹部要員訓練コースを実施しているほか、アフリカ諸国やマレーシアの国連PKO訓練センターに対する支援も行っている(ウ参照)。 平和構築分野での日本の取組 国連ミッションへの軍事要員・警察要員の派遣状況 〜上位5か国、G8諸国及び近隣アジア諸国〜 国連東ティモール総合ミッション(UNMIT)の軍事連絡要員として治安情勢などを調査する日本要員(前列左から2番目)(写真提供:内閣府) 国連ハイチ安定化ミッション(MINUSTAH)の「KIZUNAプロジェクト」としてハイチ人に操作教育を行う日本要員(右)(写真提供:防衛省) 南スーダンにおいて施設活動を行う国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)の日本要員とそれを見守る住民(写真提供:防衛省) (イ)平和構築に向けたODAなどによる協力 日本の国際協力においても、平和構築は重要な位置を占めている。ODA大綱は、「平和の構築」を重点課題の1つとして位置付けており、外務省が策定した2012年度国際協力重点方針も、重点事項の1つとして「国際社会の平和と安定のための取組」を挙げている。 平和構築のためには、紛争の予防や緊急人道支援とともに、紛争の終結を促進する支援から平和の定着や国造りの支援に至るまで、継ぎ目のない包括的な取組が必要となる。日本は、人間の安全保障の視点に立ち、特に以下の国・地域において平和構築支援に積極的に取り組んでいる。 @アフガニスタン アフガニスタンの自立と安定を支援し、同国を再びテロの温床としないことは、国際社会と日本の平和と安全に関わる最重要課題の一つである。アフガニスタンでは、2011年7月に国際治安支援部隊(ISAF)からアフガニスタン政府への治安権限の移譲が開始され、2014年末までに権限委譲を終了させることを目指して、2012年も双方による努力が続けられた。このプロセスを後戻りさせず進めることがアフガニスタン政府における平和構築と定着にとって、最大の焦点となっている。日本は、@治安維持能力の強化、Aタリバーンなど元兵士の社会への再統合、B教育、基礎医療、農業・農村開発、基礎インフラの整備などの開発支援を通じて、治安権限移譲プロセスの進展を後押しし、同国の平和と安定に積極的に貢献している。2012年7月には、「アフガニスタンに関する東京会合」を開催し、2015年以降のアフガニスタンと国際社会との新たなパートナーシップを示す「東京宣言」を発出した。また、日本として、同国の開発分野及び治安維持能力の向上に対し、2012年から概(おおむ)ね5年間で最大約30億米ドル規模の支援を行うことを表明した。 Aアフリカ 日本は、「平和の定着」を対アフリカ支援の柱の一つとして位置付け、支援を強化している。2008年5月、第4回アフリカ開発会議(TICAD W)において取りまとめられた横浜行動計画では、人間の安全保障の確立の一環として「平和の定着・良い統治の促進」を重点事項の一つとして取り上げた。また、2013年6月に開催するTICAD Xにおいても、開発・成長の土台として重要な「平和と安定」が主要テーマの1つとなる予定であり、この中でアフリカ自身の努力を後押しするための施策、海賊対策、テロ、麻薬取引などの国境を越えた問題への対処などについても議論する予定である。 平和の定着に対する支援の例として、2010年10月に行われた大統領選挙の結果をめぐって、国内に混乱が生じたコートジボワールに対して、日本は国連開発計画(UNDP)と連携し、同国の治安改善や平和の定着を目指して、小型武器の回収促進、関係政府機関の小型武器管理能力の強化などの支援を行った。また、10年以上にわたる内戦の影響を受けたコンゴ民主共和国に対しては、特に紛争の影響が深刻な東部地域において、若年層への職業訓練、農業関連産業の振興、水・衛生・保健といった社会サービスの改善を図り、地域コミュニティの安定化につながる支援を行っている。さらに、2011年7月に独立した南スーダンにおいて、除隊した兵士の武装解除、動員の解除や社会復帰(DDR)、市内の幹線道路における橋(きょう)梁(りょう)整備や浄水場の改修など同国の国造りに対する支援を実施している。このほか、2012年には同国に対して、小型武器やテロリストの流入により悪化した治安情勢を改善するべく、出入国管理に関わる施設の整備、入国管理担当官の育成を通じた出入国管理に関わる能力強化支援を行った。このような支援により、平和がもたらす恩恵を市民一人一人の草の根レベルに行き渡らせ、将来の紛争予防に貢献することが期待されている。 Bイラク イラクの復興と安定は、日本が取り組む平和構築の最重要課題の一つである。日本は、相次ぐ戦争と経済制裁で疲弊(ひへい)したイラクが自立復興の軌道に乗り、安定した民主国家となるまでの橋渡し役を担っている。日本は、2003年のイラク復興支援国会合で総額50億米ドルの資金協力を行うことを公約し、その実施に当たっては、無償資金協力によるイラク国民の生活基盤の再建から、円借款による中長期的な復興需要への対応へと比重を移してきた。これら資金協力との効果的な連携を図るべく、人材育成のための技術協力も積極的に実施している。2012年5月までに、日本は約16.7億米ドルの無償資金協力の実施を完了させるとともに、約41.1億米ドルの円借款の実施を決定し、2003年の50億米ドルの支援の公約を達成した。 これまでの日本の支援は、イラク国民の生活基盤の再建支援(電力、水・衛生、医療・保健など)に加え、行政機関の能力向上や治安改善支援(警察の装備整備、訓練など)、政治プロセスにおける選挙支援、憲法制定支援、国民融和の促進、選挙監視団の派遣にまで及んでいる。今後の対イラク支援は、中長期的な観点を持って、民間資金の導入も含め、同国が資源産出国として復興・再建していくことを促すための支援に軸足を移していく考えであり、今後、日・イラク関係がビジネス・パートナーの関係に移行していくことが期待される。 キール南スーダン大統領と会談する榛葉外務副大臣(左)(12月4日、南スーダン・ジュバ) イ 国連における取組:平和構築委員会(PBC) 宗教や民族間の対立など様々な要因による地域紛争や内戦については、一度終結しても、紛争予防、社会開発などの点において適切に事後の手当てがなされないと、紛争状態に逆戻りすることも少なくない。このような問題意識の下、2005年12月、国連の安保理及び総会に対し、紛争解決から復興・開発まで一貫した支援に関する助言を行うことを目的として、国連安保理及び総会の決議に基づき、「平和構築委員会(PBC)」が設立された。PBCは、国連安保理及び総会と緊密に連携しつつ、関係諸機関や市民社会の知見を活用しながら、対象国の平和構築上の優先課題の特定や戦略の策定を行い、その実施を支援する役割を担っている。PBCの対象国は、ブルンジ、シエラレオネ、ギニアビサウ、中央アフリカ、リベリア及びギニアであり、日本は、PBC設立時からのメンバーとして、これまでの平和構築支援の経験と知見を最大限活用し、対象国における平和構築戦略の策定と実施に貢献している。 また、同時期に設立された平和構築基金は、平和構築支援の要請国に支援を行うものであり、日本も同基金に対してこれまで総額3,250万米ドルを拠出している。 さらに、日本は、2011年からPBCの教訓作業部会議長を務め、過去の取組や教訓を見直すほか、国連安保理を始めとする関係機関との協力強化といった点についても議論を主導している。 2012年9月にはPBC議長国であるバングラデシュ主催で、「平和構築ハイレベル会合」が開催され、日本から出席した玄葉外務大臣は、平和構築のためには人間の安全保障の観点が重要であり、国際社会による統合的な支援のためPBCが主導的役割を果たすべきとの考えを述べ、日本が今後も平和構築分野に積極的に関与し、貢献していく意思を表明した。同会合では、平和構築の重要性と平和構築への支持を再確認する政治宣言が採択された。 ウ 平和構築人材育成事業 紛争後の平和構築においては、破壊された市民生活を再生し、持続的な社会的安定を構築することが不可欠である。そのための高い能力と専門性が求められる文民専門家を必要とする場が拡大しているにもかかわらず、担い手の数は十分ではなく、平和構築を担う人材の育成が大きな課題となっている。日本は、2007年度から平和構築の現場で活躍できる日本及びアジアの文民専門家を育成すべく、「平和構築人材育成事業」を開始した。2012年度までに約350人の専門家を育成してきている。本事業の修了生の多くは、既に南スーダン、シエラレオネ、リビア、アフガニスタンなど合計32か国において平和構築の現場で活動しており、その活躍は、アジア諸国、国連、国際機関などの関係者から高い評価を得ている。2012年度は、現場で即戦力として活躍する人材の育成を目的とし、海外実務研修も含む「本コース」、平和構築に関心のある一般人を対象とした「基礎セミナー」に加え、平和構築関連業務の従事者を対象とした、総合的な能力の向上のための「文民専門家訓練コース」も実施した。 国連平和維持活動(国連PKO)参加20周年 1.国連平和維持活動(国連PKO)への参加の経緯 1990年に発生した湾岸危機は、日本にとり、国際社会の一員として日本がどのような形で国際社会の平和と安全に貢献していくべきかという課題について深く考えさせるものでした。湾岸危機のさなかの同年10月に政府が国会に提出した「国際連合平和協力法案」は、国会での審議未了のまま廃案となりましたが、日本の国際貢献に関する議論が一層高まる契機となりました。翌1991年9月、政府は、いわゆるPKO参加5原則(1)を盛り込んだ「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律案」を国会に提出しました。国会における激しい論戦を経て、1992年6月、「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律」(以下「PKO法」という。)が成立(同年8月施行)しました。その後、実際の国連PKOへの派遣経験などを踏まえた2度の改正(1998年及び2001年)を経て、現在に至っています。 2.PKO法に基づく初めての国連PKOへの参加 1992年9月、日本はPKO法に基づく初めての要員派遣として第2次国連アンゴラ監視団(UNAVEM U)に選挙監視要員3人を、また、初めての自衛隊派遣として国連カンボジア暫定機構(UNTAC)に施設部隊等約600人を、それぞれ派遣しました。さらに、UNTACに対しては、翌10月に75人の文民警察要員を派遣しました。延べ1,300人以上が参加したカンボジアにおける活動(1992年9月から1993年9月まで)は、カンボジア和平の実現に大いに貢献し、大変意義深いものとなりました。しかしその一方で、1993年4月に国連ボランティアとして選挙準備活動に当たっていた中田厚仁さんが亡くなり、同年5月に文民警察要員の一員である高田晴行警視が殉職しました。このことは、日本の国連PKO参加20年の歴史の中でも大変残念な出来事であり、同時に、国際社会の平和と安全が時として尊い犠牲の上に成り立っていることを示す出来事となりました。 3.国連PKOへの参加の実績 日本はこれまでの20年間で、アンゴラ、カンボジア、モザンビーク、エルサルバドル、ゴラン高原、東ティモール、ネパール、スーダン、ハイチ、南スーダンなどにおける合計27の国際平和協力業務に延べ約9,500人以上の要員(2)(このうち、自衛官9,173人、文民警察官82人、選挙監視要員251人(2012年12月現在))を派遣してきました。日本の要員の活動は、プロフェッショナリズムに満ち、規律正しく、信頼性の高いものとして、国連や受入れ国など、国際社会から高く評価されています。このような実績に裏付けられるように、日本の国連PKOへの参加に対する国民の理解や支持は、20年前に比べると格段に広がっています。内閣府実施の「外交に関する世論調査」においても、国連PKOに「これまで程度の参加を続けるべきだ」、又は「これまで以上に積極的に参加すべきだ」と回答した人の合計は、1994年に58.9%であったのに対し、2012年は83.3%まで増加しています。 4.国連PKOの多様化と日本の協力の特色 この20年の間、国連PKO自体の任務や役割が多様化する中で(第3章第1節2(2)平和維持・平和構築参照)、日本も着実に協力の実績を積み重ね、この変化に対応し、積極的な活動を実施してきています。特に、UNTACや国連東ティモール暫定行政機構(UNTAET)・国連東ティモール支援団(UNMISET)で道路・橋梁の維持や補修といったインフラ整備を行って実績を積み上げてきた自衛隊施設部隊の経験は、近年の国連PKOでの活動においても大いにいかされています。近年の国連PKOにおける活動の特色の一つは、国連ハイチ安定化ミッション(MINUSTAH)や国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)において見られるような政府開発援助(ODA)や非政府組織(NGO)などとの連携を重視した活動です。インフラ整備を始めとした国造り支援について豊かな知見を有する日本の自衛隊の施設部隊は、紛争後や独立後の平和維持の段階から、人々の生活基盤の再建・構築という復興と持続可能な開発への段階に移行する鍵となる重要な役割を担うようになっているのです。 5.今後の国連PKOへの協力の在り方 日本が国際社会の責任ある一員としてその立場に見合った協力をしていくためには、紛争予防、紛争解決、平和維持、紛争の再発防止を含む平和構築のための外交活動と並行して、紛争後の復興も視野に入れた中長期的な取組を関係府省庁・機関等がオールジャパンとして実施していくことが必要です。そのためには、法制面や運用面においても克服すべき点は山積しています。例えば、上記4.のような日本が得意とする分野の活動を中心としつつも、新しい分野を含めた一層幅広い協力の在り方、関係機関やNGOなどを含めたオールジャパンとしての一体的な取組の在り方、業務の実施に必要な武器使用権限の在り方などが課題となっています。これらの課題については、2010年10月に発足した「PKOの在り方に関する懇談会」においても議論され、2011年7月には中間取りまとめが発表されました。 日本の国連PKOへの積極的な協力については、国際社会からの期待も大きく、例えば2012年11月に来日したラドスース国連PKO担当事務次長からは、施設・医療・航空・司令部要員・警察官等の質の高い要員、特に女性要員を含めた派遣への期待が表明されました。日本の安全と繁栄は、国際社会の平和と安全という基盤の上に成り立っています。国際社会の平和と安全のために重要な役割を果たす国連PKOへのより主体的で積極的な貢献は日本の国益にも貢献するという認識を持って、これらの課題について引き続き精力的に検討を進め、必要な判断をしていくことが不可欠です。 1 PKO参加5原則 1紛争当事者の間で停戦合意が成立していること。 2当該平和維持隊が活動する地域に属する国を含む紛争当事者が当該平和維持隊の活動及び当該平和維持隊への日本の参加に同意していること。 3当該平和維持隊が特定の紛争当事者に偏ることなく、中立的立場を厳守すること。 4上記の基本方針のいずれかが満たされない状況が生じた場合には、日本から参加した部隊は撤収することができること。 5武器の使用は、要員の生命等の防護のために必要な最小限のものに限られること。 2 PKO法に基づき、国際連合平和維持活動、人道的な国際救援活動、国際的な選挙監視活動に派遣した要員の合計。 (3)海上安全保障 ア ソマリア沖・アデン湾における海賊対策 (ア)海賊・武装強盗事案の現状 国際商工会議所(ICC)国際海事局(IMB)の発表によれば、2012年のソマリア沖・アデン湾での海賊・武装強盗事案(以下「海賊等事案」という。)の発生件数は75件を数えた。発生件数は前年(2011年)の237件に比べ大幅に減り、乗っ取り数も14件と、前年の28件を大幅に下回った。これは、各国海軍などによる海上取締活動、各国商船による自衛措置の実施などの取組が一定の成果を挙げたことを示すものといえる。しかしながら、ソマリア沖の海賊は、依然として多数の船舶と人質を拘束しているほか、その活動領域をアデン湾東方や西インド洋まで拡大するなど、引き続き船舶の航行安全にとり大きな脅威となっている。 2012年に海賊と思われる高速船に日本関係船舶が攻撃された事案は1件もなかったものの、追跡された事案は7件ある。また、2011年3月にアラビア海で日本の船会社が運航するオイルタンカー「グアナバラ」号を襲撃し、日本に身柄を移送されたソマリア海賊4人は、日本国内で刑事裁判にかけられ、2013年1月から順次公判が開始されている。 (イ)海賊対処行動の延長と護衛実績 日本は、2009年からソマリア沖・アデン湾に海上自衛隊の護衛艦2隻及びP-3C哨戒(しょうかい)機2機を派遣し、海賊対処行動を実施している。2012年7月、日本政府は、海賊対処法に基づく海賊対処行動を2013年7月23日まで更に1年間延長することを閣議決定した。 海上自衛隊の護衛艦2隻(海上保安官8人が同乗)は、2012年の1年間に104回の護衛活動で533隻の商船を護衛した。加えて、P-3C哨戒機は、ジブチ共和国内に設置された自衛隊独自の活動拠点を基点にして、216回の任務飛行を行い、警戒監視や情報収集、他国艦艇への情報提供を行った。自衛隊が提供した情報に基づいて各国海軍が海賊の武装解除を行った例も多く、海上自衛隊の活動は、各国政府や民間船舶関係者から高く評価されている。 アデン湾を航行する貨物船(奥)と警戒監視活動を行う自衛隊P-3C哨戒機(手前)(写真提供:防衛省) 全世界の海賊等事案発生状況 (ウ)海賊対策における国際協力の推進 8月にソマリアの暫定統治期間が終了し、過去21年間で初めてソマリアに統一政府が樹立されたことを受け、国際的にもソマリア海賊対策支援の気運が高まる中、日本は、引き続きソマリア沖海賊対策コンタクトグループ会合を始めとする国際会議に参加し、関係国・国際機関との連携強化に努めている。また、日本は、ソマリア沖において海賊等事案が急増した原因がソマリア情勢の不安定化にあることを踏まえ、ソマリア沖海賊問題の根本的な解決に向けて、各国の海上取締活動に加え、ソマリア周辺国の海上保安能力の向上やソマリアの安定に向けた支援といった多層的な取組を推進している。 日本は、国際海事機関(IMO)の設置した基金に対し、2009年及び2010年に計1,460万米ドルを拠出している。同基金を通じて、イエメン、ケニア及びタンザニアに情報共有センター(ISC)が設置されたほか、周辺国の海上保安能力向上のための訓練センターのジブチでの建設が進められている。また、ソマリア及びその周辺国における海賊の訴追及び取締能力向上支援のための国際信託基金に2010年から2012年に計350万米ドルを拠出しており、同基金を通じてソマリア周辺国の法廷などの整備や裁判所関係者の訓練・研修が実施されている。このほかにも、日本は、2013年4月から、海賊対策を含めたソマリア周辺国の海上保安能力強化を目的として、「ジブチ沿岸警備隊の能力強化に係る技術協力プロジェクト」を実施する予定である。 ソマリアの安定に向けて、日本は、2007年以降、治安向上、人道支援、雇用創出及び警察支援のため、総額2億3,850万米ドルを拠出している。 イ アジアにおける海賊対策 アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)は、日本が主導し作成され、2006年9月に発効した。シンガポールに設立されたReCAAPの情報共有センター(ReCAAP-ISC)は、加盟各国が海賊情報を共有することを可能にしており、国際的にも高い評価を得ている。 ソマリア沖・アデン湾の海賊対策でも、情報共有センターの設置を始めとして、ReCAAPをモデルとした地域協力の枠組み作りが進められている。日本は、ReCAAP-ISCに対して資金拠出を行い、これにより、2012年12月、アジアでの海賊対策の経験をソマリア海賊対策に役立ててもらうことを目的とした「ソマリア周辺海域海賊対策地域実務者会合」が東京で開催された。 (4)治安上の脅威に対する取組 ア テロ対策 2012年を通じ、多国間及び地域的なレベルで、国際テロ対策の強化が更に進んだ。G8キャンプデービッド首脳宣言は、あらゆる形態のテロを非難し、テロ対策における国連の中心的役割を強調するとともに、テロ組織、「一匹狼」型テロ、暴力的過激主義を含む様々なテロの脅威と闘うための協力を強化する必要性などに言及した。 多国間のレベルでは、6月に国連総会において、「国連グローバル・テロ対策戦略」(1)の実施に関する第3回レビュー会合が開催され、前回レビュー会合以降の同戦略実施のための各国及び地域・国際機関の取組・協力及びテロ対処能力向上支援を確認し、引き続きこれらの取引の強化を求める決議を採択した。また、2011年米国が主導して設立された「グローバル・テロ対策フォーラム」(GCTF)(2)においても、テロ対処能力向上支援のための具体的な取組について議論された。 地域的なレベルでは、日本は、7月にセブ(フィリピン)で第7回日・ASEANテロ対策対話を開催したほか、ASEAN各国のテロ対策関連プロジェクトにも協力している。ASEAN+3(日中韓)の枠組みにおいては、テロ対策に関する協力拡大に向けた対話を実施している。さらに、ARFの枠組みにおいては、最近テロ対策において大きな関心を集めている「過激化対策」に関するワークショップの共同議長国をマレーシアと共に務めている。 また、日本は、テロ情勢やテロ対策協力について二国間や三国間でも協議や意見交換を行っており、日中韓テロ対策協議(7月、於:仙台)、日・ロシアテロ対策協議(9月、於:東京)、日・インドテロ対策協議(11月、於:東京)をそれぞれ開催するなど、各国との連携強化に力を入れている。 日本は、テロ対処能力が必ずしも十分でない開発途上国などに対する支援を重視しており、東南アジア地域を重点として、ODAを活用した支援を継続し、強化している。具体的には、@出入国管理、A航空保安、B港湾・海上保安、C税関協力、D輸出管理、E法執行協力、Fテロ資金対策、G化学・生物・放射性物質・核(CBRN)テロ対策、Hテロ防止関連諸条約(3)などの分野で、技術協力や機材供与などの支援を実施している。 近年、国際社会全体が取り組むべき新たな課題として認識されている核テロ(核物質や放射線源を用いたテロ)に関しては、国際原子力機関(IAEA)などを中心に、核テロ対策強化のための様々な取組が行われている。日本は、IAEAの核物質等テロ行為防止特別基金への資金拠出、「核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ(GICNT)」(4)への参加など、これらの取組に、積極的に貢献している。 国際的な制裁措置がテロとの闘いにおいて果たす役割は大きい。日本は、外国為替及び外国貿易法に基づいて資産凍結などの措置を実施し、出入国管理及び難民認定法に基づきテロリストなどを退去強制措置の対象とするなど、テロリストに対する制裁措置を定める国連安保理決議を着実に履行している。 2012年1月から2013年1月までに発生した主要なテロ事件(報道などに基づく) 1月20日 ナイジェリア・カノ州における爆弾テロ カノ州の警察署、旅券事務所等において、複数の爆弾テロが発生し、150人以上が死亡した。 2月14日 タイ・バンコクにおける爆弾テロ 首都バンコクの中心部において手製の爆弾が爆発し、5人が負傷した。 3月11日−19日 フランス・トゥールーズなどにおける襲撃 11日にトゥールーズ、15日にモントーバンにおいて兵士を狙った発砲事件が発生し、合計3人が死亡、1人が重傷を負った。19日、同一犯がトゥールーズのユダヤ人学校において銃を乱射し、教師1人と子供3人の計4人が死亡、子供1人が重傷を負った。 4月15日 アフガニスタン・カブールなどにおける同時多発襲撃 首都カブールにおいて、タリバーンが国会議事堂や欧米大使館、ホテルなどを迫撃砲などで攻撃し、多数の死傷者が出た。日本大使館にも携帯式対戦車ロケット弾4発が着弾し、外壁や窓の損傷などの被害を受けた。カブール以外の複数の都市においても攻撃が行われた。 5月10日 シリア・ダマスカスにおける爆弾テロ 首都ダマスカスにおいて、爆弾テロが2件発生し、少なくとも55人が死亡、372人が負傷した。 5月21日 イエメン・サヌアにおける自爆テロ 首都サヌアにおいて、軍事パレードの予行演習中に、自爆テロが発生し、少なくとも96人が死亡、300人が負傷した。 7月18日 ブルガリア・ブルガスにおける爆弾テロ ブルガスの空港において、イスラエル人観光客が乗車した観光バスが爆発し、7人が死亡、少なくとも32人が負傷した。 7月23日 イラク・各地における連続爆弾テロ 首都バグダッドを含むイラク各地で路肩爆弾、自爆などによる連続テロが発生し、少なくとも91人が死亡、172人以上が負傷した。 9月11日 リビア・在ベンガジ米国公館襲撃 武装集団が在ベンガジ米国公館を襲撃し、駐リビア米国大使を含む合計4人が死亡した。 12月16日−17日 イラク・各地における連続爆弾テロ 首都バグダッドを含むイラク各地で自動車爆弾、路側爆弾などによる連続爆弾テロが発生し、少なくとも67人が死亡、187人が負傷した。 2013年1月16日 アルジェリア・イナメナスにおける邦人に対するテロ 南東部のイナメナスにおいて、ガスプラントなどが武装集団に襲撃され、多数の人質が拘束される事案が発生し、人質となった日本人10人を含む多数が死亡した。 イ 刑事司法分野の取組 5年に1度開催される国連の犯罪防止刑事司法会議及び毎年1度開催される犯罪防止刑事司法委員会は、犯罪防止及び刑事司法分野における国際社会の政策形成の中心機関である。日本は、4月に開催された犯罪防止刑事司法委員会において、人身取引対策への取組を紹介するなど、これらの枠組みでの議論に積極的に参加している。 日本は、国際的な組織犯罪を防止し、これと闘うための国際協力を強化するために、国際組織犯罪防止条約及び補足議定書の締結について検討を進めている。また、贈収賄、公務員による財産の横領などの腐敗が、持続的な発展や「法の支配」を危うくする要因となっていることから、これに有効に対処するための措置や国際協力などを規定した国連腐敗防止条約締結についても、同様に検討を進めている。 日本は、不正薬物や犯罪対策に包括的に取り組む国連薬物犯罪事務所(UNODC)に設置されている犯罪防止刑事司法基金に対し、2012年約37万4,000米ドル(このうち同基金内のテロ防止部には約4万1,000米ドル)を拠出した。これは、UNODCが実施するアジアにおける人身取引対策、腐敗対策やテロ対策プロジェクトに使用される。 ウ 腐敗対策 近年、特にG20の枠組みにおいて、公正な国際競争を通じて世界経済の成長を促進するとの観点から、腐敗対策の取組が強化されている。6月のG20ロスカボス・サミット(於:メキシコ)首脳宣言においては、腐敗との闘いの強化がうたわれるとともに、10月には「G20腐敗対策行動計画2013−2014」が発表された。また、9月の国連総会の機会に国連史上初めて、「法の支配」をテーマとするハイレベル会合が行われ、日本はこの会合のサイドイベント(「汚職との闘いと持続的成長への汚職の影響」)を共催した。日本からは玄葉外務大臣が出席し、腐敗が経済成長や社会に及ぼす影響や効果的な腐敗対策について議論した。また、G8では、議長の米国のイニシアティブの下、海外に流出した腐敗に係る収益を没収し、元の国に返還する「財産回復」を「ドーヴィル・パートナーシップ」(5)に基づく腐敗対策の一つとして推進した。日本は、G8の一員として、9月にカタールで開催された財産回復アラブフォーラムに参加し、日本の財産回復に関する法制度などについてガイド(英語、フランス語、アラビア語)を作成・公表し、財産回復の取組を実効的に実施するために司法面での国際協力にも取り組んでいる。 エ マネーロンダリング(資金洗浄)・テロ資金供与対策 マネーロンダリング及びテロ資金供与対策については、国際的な枠組みである金融活動作業部会(FATF)(6)が各国が実施すべき国際的基準をFATF勧告として定めている。FATFは、FATF勧告の実施に向けた取組が不十分であり、マネーロンダリングやテロ資金供与の深刻な問題や脅威が認められる国・地域を特定し、公表している。このほか、FATFは、大量破壊兵器の拡散につながる資金供与の防止など、新たな視点からの対策についても議論を進めている。2008年に実施されたFATF勧告の実施に関する対日相互審査に関連し、日本はその後の状況や取組をFATF全体会合において随時説明している。 オ 人身取引対策 人身取引の手口の巧妙化・潜在化などの人身取引をめぐる近年の情勢を踏まえ、2009年12月に政府の犯罪対策閣僚会議で「人身取引対策行動計画2009」を策定し、フォローアップ(履行状況の調査)を実施している。日本は、同行動計画に基づき、国際捜査共助の充実化や被害者の帰国支援、ODAを活用した国際支援などの国際的な取組に積極的に参画している。8月には人身取引対策に関する日タイ共同タスクフォース会合を開催するとともに、12月には政府協議調査団をタイへ派遣するなど、両国の人身取引の現状と対策、両国間の人身取引対策に係る協力強化などについて協議や意見交換を行った。さらに、日本は、国際移住機関(IOM)への資金拠出を通じて、被害者の安全な帰国や帰国後の支援を行う「人身取引被害者の帰国支援事業」への支援や密入国・人身取引及び関連する国境を越える犯罪に関する地域協力の枠組みである「バリ・プロセス」への支援を行っている(7)。 カ 不正薬物対策 薬物分野における国際的な政策形成の中心機関である国連麻薬委員会(CND)は、薬物関連諸条約上の義務の履行を監視し、薬物統制の強化に関する勧告などを行っている。また、UNODCは国連において薬物問題に包括的に取り組むために設立され、現在世界53か所に事務所を持ち活動している。不正薬物対策について、日本は、国内の予防対策の強化に加え、日本の経験と知見に基づく国際協力(代替開発支援、合成薬物対策、薬物乱用防止政策など)を推進している。2012年度には、UNODCに設置されている国連薬物統制計画基金に81万米ドルを拠出し、ミャンマーにおける不法ケシ栽培モニタリング、新興薬物対策、覚醒剤を始めとする合成薬物のモニタリング、大麻種子の市場動向把握を目的としたプロジェクトを支援した。2月にはウィーンにおいて、パリ合意フォーラム(8)閣僚会合が開催され、アフガニスタン産ケシ・ヘロイン対策が議論された。ペルーでは、6月に世界薬物問題国際会議、11月に麻薬代替開発ハイレベル国際会議が開催され、日本は薬物対策の取組につきプレゼンテーションを実施した。また、11月にブリュッセルで開催されたダブリングループ全体会合(9)では、日本は、東南アジア・中国地域グループ議長として、同地域の薬物情勢に関する情報などについて報告した。 (5)サイバー サイバー空間における脅威は日々増大しており、日本の政府機関、民間企業などに対するサイバー空間を利用した侵害行為や敵対行為(サイバー攻撃)も増加している。例えば、2012年6月には、政府関係機関などの複数のウェブサイトにサイバー攻撃によるものと思われる障害が発生し、同年9月には、尖閣諸島をめぐる情勢や柳条湖事件発生の日を契機としたサイバー攻撃も発生した。近年のサイバー攻撃の傾向としては、国境を越えた集団による明確な目的を持った高度なサイバー攻撃が活発になっていることが挙げられ、またいくつかの攻撃については、国家による関与の可能性が指摘されている。このようなサイバー攻撃に一国のみで対応することは困難であり、国際社会の連携や協力が不可欠となっている。 多様化・高度化するサイバー攻撃に対しては、国家や国民の生命・財産を守るための能力や制度を構築することが、国家安全保障上及び経済上の大きな課題である。そのため、日本は、共通の認識を有する関係国などと連携しつつ、サイバー空間を利用した行為に対する従来の国際法の適用の問題や行動規範の策定といったルール作り、能力構築、信頼醸成などの取組を進めている。特に、ルール作りにおいては、サイバー空間を利用した行為に対しても従来の国際法が当然適用されるとの立場の下に、国際場裏での議論に参画している。 多国間の枠組みでは、2012年4月のG8外相会合で、主要な議題の1つとしてサイバー安全保障についての議論が行われた。また、日本は、2011年11月のサイバー空間に関するロンドン会議や2012年10月のブダペスト会議(於:ハンガリー)に政府代表団を派遣するとともに、15か国で構成している国連のサイバー安全保障に関する政府専門家会合にも、2012年以降外務省のサイバー政策担当大使を派遣している。アジア地域においても、ARFやASEAN+3会合などの枠組みでサイバー分野に関する議論が始まっており、日本も関連する会合などに積極的に参加し、アジア地域のサイバー・セキュリティの向上に努めている。また、日本は、サイバー犯罪に対する国際協力を進めるためのサイバー犯罪条約を2012年7月に締結するとともに、条約委員会での議論に積極的に参加するなど、アジア地域初の締約国としてこの条約の普及に努めている。 二国間の取組としては、サイバー分野に特化した協議や対話を米国、英国、インドとの間で実施しているほか、そのほかの国、北大西洋条約機構(NATO)や欧州評議会(CoE)などとも意見交換を行っている。2012年10月に玄葉外務大臣が英国のヘーグ外相との間で実施した外相戦略対話でもサイバー安全保障を主要議題の1つとして取り扱い、国際場裏の議論において引き続き両国が緊密に連携していくことを確認した。米国とは、2011年に安全保障分野におけるサイバー・セキュリティに関する日米戦略政策対話を開催し、日米双方のサイバー・セキュリティ政策、サイバー空間における脅威認識等について意見交換を行ったほか、2012年4月の日米首脳会談において、二国間の連携をより深化させるため、サイバー分野に関する「政府一体となった関与を一層強める枠組み」を構築することで一致している。 日本としてこのような取組を引き続き推進するとともに、国際社会との連携や官民協力を促進し、サイバー安全保障上の課題への取組を強化していく。 (6)宇宙 近年、宇宙利用国の増加に伴って宇宙空間の混雑化が進んでいる。宇宙ゴミ(スペースデブリ)対策や衛星同士の衝突の回避、さらには衛星破壊(ASAT)実験のような行為の制限が必要となるなど、国際的な規範作りの必要性が高まっている。また、宇宙技術は、日本の安全保障を確保していく上で有益な手段の1つである。このように宇宙空間の外交・安全保障上の重要性は近年ますます高まっている。外務省は、宇宙に係る外交政策を総括する部署として、2012年4月5日付けで総合外交政策局に宇宙室を設置した。 ア 宇宙空間の活用に関する国際的規範作り 宇宙空間の混雑化に伴う課題や他国による不透明な宇宙活動に対処し、日本にとって安全な宇宙環境を醸成するためには、宇宙の活動に関する国際的な規範の確立が必要である。 2012年1月、玄葉外務大臣は、欧州連合(EU)が提案する衛星衝突及びスペースデブリのリスク軽減、ASAT実験及びその行為の抑制などに関する「宇宙活動に関する国際行動規範」の作成に向けた議論に積極的に参加すると表明した。その後、日本は6月にウィーン(オーストリア)で開催された同行動規範に関する多国間会合に参加し、タイ、インドネシア、マレーシア、ベトナムといったASEAN諸国に対して議論への参加の働きかけを行うなど、同行動規範の採択に向けて積極的な活動を行った。また、12月にはクアラルンプール(マレーシア)において「宇宙環境保全ワークショップ」を主催し、さらに国連軍縮研究所(UNIDIR)と共に地域セミナー「アジア太平洋地域にとっての安全かつ持続可能な宇宙利用の確保:行動規範の役割」を共催するなど、宇宙環境の保全や規範作りの重要性についてのアジア太平洋地域諸国の意識向上に努めた。 このほかに、国連の枠組みでの国際的な規範作りも進められている。国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)は、宇宙条約を始めとする宇宙に関する様々な国際的枠組み策定の場となってきた。現在、COPUOSの科学技術小委員会では、宇宙活動の長期的持続可能性を確保するためのガイドラインについての議論が進んでおり、日本はこの議論にも積極的に貢献している。また、2012年6月には、堀川康独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)技術参与(外務省参与)が日本人として初めてCOPUOSの議長に就任した(詳細についてはコラム参照)。 イ 宇宙をめぐる国際協力の推進 日本は、衛星本体のみならず、技術的知見の移転や人材育成も含めた宇宙関連システムをパッケージとして、諸外国に提供してきている。11月に行われた日・ASEAN首脳会議では、防災目的の衛星利用に関する協力強化等のため、ASEAN防災ネットワーク構築構想の下、「宇宙から僻(へき)地」に至るネットワークの構築を促進していくことが確認された。 また、4月には、英国との間で宇宙分野の協力に関する覚書を作成し、協力案件の発掘などを行うこととなった。同月、米国との間でも日米首脳会談を機に、宇宙に関する包括的対話の立上げや二国間の宇宙協力の具体的方向性について一致した。 ウ 安全保障政策の一環としての宇宙政策の推進 安全保障上、宇宙の開発利用は極めて重要であり、日本は特に米国との間で安全保障分野に関する宇宙協力を推進している。2012年4月の日米首脳会談では、宇宙のような国際社会が共有する空間の安全保障の向上の必要性について確認がなされた。9月には3回目となる安全保障分野における日米宇宙協議を開催し、同分野での日米間宇宙協力について幅広い意見交換を行った。 1 2006年9月、第60回国連総会において全会一致で採択。「テロとの闘い」における加盟国及び国連の能力を強化するための具体的かつ実践的なテロ対策措置を包括的にまとめたもの。また、同戦略実施に当たっては、国連事務総長が設置した国連テロ対策実施タスクフォース(CTITF)が国連関係機関間の調整及び加盟国への支援を行う。 2 テロ対策に係る新たな多国間の枠組みとして米国により提唱され、2011年9月に設立。実務者間の経験・知見・ベストプラクティス(成功事例)の共有や「法の支配」、国境管理、暴力的過激主義対策などの分野における能力向上支援の実施などを目的とする。G8を含む29か国及び欧州連合(EU)がメンバー(国連はパートナー)。 3 テロ防止関連諸条約についてはhttp://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/terro/kyoryoku_04.htmlを参照。日本は13のテロ防止関連条約を締結している。 4 2006年、米国・ロシアの両国大統領が核テロリズムの脅威に国際的に対抗していくことを目的として提唱。参加国は、核テロ対処能力を強化するためのセミナー、ワークショップなどを実施。2012年12月現在、85か国及びオブザーバー(4機関(EU、IAEA、国際刑事警察機構(ICPO-interpol)、国連薬物犯罪事務所(UNODC))が参加。 5 2011年5月のG8ドーヴィル・サミット(於:フランス)において、エジプト・チュニジア、モロッコ、ヨルダン、リビアなどを支援するために、@民主化移行・政治改革への支援及びA持続的成長に向けた経済的枠組みを2本の柱とする「ドーヴィル・パートナーシップ」を立上げ。 6 1989年のG7アルシュ・サミット(於:フランス)において、国際的なマネーロンダリング対策の推進を目的に招集された国際的な枠組み。日本を含め、経済協力開発機構(OECD)加盟国を中心に34か国・地域及び2国際機関が参加。現在では、テロ資金対策についても指導的役割を果たしている。 7 「バリ・プロセス」の活動に関する広報及び啓蒙活動を目的としてバリ・プロセス・ウェブサイトの維持運営支援を実施している。なお、同ウェブサイトには参加各国の取組や域内協力に関する情報、専門家会合の成果物などが掲載されている。 8 アフガニスタンのケシ栽培及びヘロインの不正取引対策のため、アフガニスタン及び周辺国の国境管理や法執行の強化を支援していく国際枠組み。日本を含む70以上の国・国際機関が加盟している。 9 ダブリングループは、主要先進国間で薬物関連援助政策などについて相互理解を深め、政策の調整を図ることを目的に90年ダブリンで発足。全体会合は年2回ブリュッセルで開催され、日本、米国、カナダ、オーストラリア、ノルウェー、EU加盟国のうち25か国及びUNODCが参加。ダブリングループのメンバーは所属地域の議長としてミニ・ダブリングループ会合を各国で主催し、薬物事情について情報交換などを行っている。日本はオーストラリアと隔年で東南アジア・中国地域の議長を務め、2012年は日本が議長役を担った。