各論 1 サブサハラ・アフリカの地域情勢 (1)スーダン・南スーダン情勢 1956年の独立の前年から長期にわたる内戦が行われていたスーダンでは、2011年7月9日に南部スーダンが南スーダン共和国として独立した。南スーダン独立に伴ってスーダン・南スーダン両国間に課題が残った。両国政府は、その後、アフリカ連合(AU)による仲介の下での協議の結果、2012年9月に、アジスアベバ(エチオピア)において、両国国境付近の治安措置、南スーダン産石油のパイプラインなどの施設利用料などを始めとする諸課題に関する一連の合意文書に署名した。その一方で、両国が共に領有を主張するアビエ地域の帰属、その他の係争地の問題などについては、両国の主張の隔たりは依然大きく、協議が継続されている。 スーダン南部の南コルドファン州や青ナイル州においては、2011年6月以降、スーダン政府と反スーダン政府武装勢力(スーダン人民解放運動北部勢力(SPLM-N))間の衝突が断続的に発生している。スーダン政府が両州の反スーダン政府武装勢力の支配地域内における人道支援の実施を認めていないこともあり、同地域の人道状況は大幅に悪化し、2011年6月以降、17万人以上の難民が南スーダンに流入した。 2012年4月には、南スーダン国軍がスーダン南部の油田地帯を一時占拠したことなどにより、スーダンと南スーダンとの間で軍事的緊張が高まった。これを受け、同年5月、国連安保理は、スーダンと南スーダンの双方に対し、敵対行為の即時停止や両国が抱える懸案解決のための速やかな合意などを求める国連安保理決議を採択した。さらに、同年9月、ニューヨークにおいて国連とAUの共催により、スーダン、南スーダン、日本を含む主要国や関係国の政府代表などの出席の下で第5回スーダン・南スーダン協議フォーラムが開催された。このように、国際社会は、両国間の和平を推進するための働きかけや支援を積極的に行っている。そのような中、日本は、国際社会全体における責任ある一員としてスーダン及び南スーダン両国に対し和平推進のための働きかけを行うとともに、両国における平和の定着を支援するため、2005年以降、7億4,000万米ドル以上の支援を実施している。さらに、南スーダンにおける平和構築に貢献するため、2012年1月から、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)に自衛隊施設部隊を派遣している。 アラブ系遊牧民族とアフリカ系農耕民族との間で長年にわたる対立が続いていたスーダン西部のダルフール地域では、2010年12月以降、スーダン政府と反政府勢力「自由・正義運動(LJM)」がドーハ(カタール)で対話を行ってきた。2011年7月には、両者は「ダルフール和平に関するドーハ文書(DDPD)」の受入れに合意したが、DDPD未署名派の反政府勢力とスーダン国軍(SAF)との間の衝突が継続している。 南スーダンの国造り支援最前線 2011年7月9日に南スーダン共和国が独立しました。日本は、同日に同国と外交関係を樹立するとともに、同年11月には国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)への自衛隊要員の派遣を開始しました。世界で最も新しい独立国で二国間関係の深化やアフリカ全体の平和と安定のために活動する在ジュバ日本国政府連絡事務所とUNMISSに派遣されている自衛隊の活動の調整を行う現地支援調整所の活動について紹介します。 赤松武 在ジュバ日本国政府連絡事務所長 2011年7月に独立したばかりの南スーダンは、現在国を挙げて「国造り」に取り組んでいます。日本は2012年1月に首都ジュバに日本国政府連絡事務所を立ち上げ、現在では私を含め7人の外務省員が勤務しています。 「連絡事務所」の業務は、ほぼ大使館と変わりません。特に経済協力の面では国際協力機構(JICA)やジュバに派遣されている自衛隊、国連機関などと連携しつつ、南スーダンの国造りに対する支援を行っています。 「ナイル架橋」、「河川港整備」、「水供給システム改善」といった大型プロジェクトに加え、JICAや自衛隊とも連携しながら市内のコミュニティ道路整備を進めており、南スーダン支援の新たな協力の形として国連などからも高い関心が寄せられています。 街に出れば「ニーハオ」と声をかけられることも多いのですが、笑顔で「こんにちは」と応え、少しでも「日本が来ている」ことをアピールすることも事務所員の重要な仕事の一つとなっています。 生田目(なまため)徹防衛省統合幕僚監部運用部運用第2課国際地域調整官(前南スーダン現地支援調整所長) 長年にわたる内戦を経て独立した南スーダンでは、あらゆる分野で国造りの努力が続けられており、支援ニーズも多種多様かつ膨大です。一方、1度にできることは限られるので、どのような支援をどういった順番で行うかを考え、ワークプランに基づいて機材や資金などのリソースを計画的に運用し成果を積み上げることが大切です。 UNMISSに参加している日本隊は、インフラ整備に関わる任務(タスク)についてUNMISS本部と協議する現地支援調整所と決定したタスクを実行する施設隊から構成されています。これにより、数か月先を見据えた準備と日々の着実な施工とのバランスを取りながら、実効性のある活動を行うことを目指しています。 日本隊は国連の一員として多国間協力の枠組みで活動していますが、日本の政府開発援助(ODA)など長期的な視点から南スーダンを支援している二国間援助とも連携できれば、更に日本の存在感を高めることができるはずです。在ジュバ日本国政府連絡事務所とはこのような思いを共有し、日々連絡を取り合い、自分たちに何ができるのかを考えています。 リアク・マシャール副大統領と共に式典に参加する赤松所長(右) 在南スーダン国連世界食糧計画(WFP)代表ニコイ氏と生田目所長(右) 天皇誕生日レセプションに参加する生田目所長(左)、赤松所長(中央)、松木信孝施設隊長(右) (2)東部アフリカ情勢 過去60年間で最悪の干ばつに見舞われた「アフリカの角」地域では、引き続き深刻な食糧危機が発生している。日本は、ジブチ、エチオピア、ケニア及びソマリアに対し、国際機関を通じた人道支援を行った。 1991年以降、全土を統一的に支配する政府の不在が続いたソマリアでは、国際社会の協力もあって、新暫定憲法の採択、新連邦議会による新大統領の選出などを経て、2012年に統一政府が樹立された。依然として、イスラム過激派組織のアル・シャバーブの抵抗は継続しているが、ウガンダ軍、ブルンジ軍などから構成されるアフリカ連合ソマリア・ミッション(AMISOM)及びソマリア国軍の攻撃により、同組織が最大拠点キスマヨから撤退するなど、ソマリアの情勢は好転しつつある。日本は、国際社会と協調し、ソマリアの治安能力強化、人道支援、インフラなどの分野を中心に対ソマリア支援を実施している。9月の国連総会の際のソマリア・ミニ・サミット会合には玄葉外務大臣が出席し、ソマリアにおける統一政府樹立に向けた政治的進展を歓迎するとともに、日本が今後とも国際社会と協力してソマリアの国造りに必要な支援を実施していく考えを表明した。 日・ウガンダ外交関係樹立50周年の機会を捉えて、2012年6月には、秋篠宮同妃両殿下が同国を御訪問になった。 エチオピアでは、8月に、日本の戦後の経済発展などに強い関心を有し、5回にわたり訪日していたメレス首相が在任中に逝去した。その後、ハイレマリアム副首相兼外相が新首相に就任した。 マダガスカルでは、2009年3月以降憲法手続にのっとらない形で発足した暫定政府の統治が続いているが、8月に、国民暫定独立選挙委員会が2013年中の大統領選挙の実施を発表するなど政治危機の打開に向け進展が見られる。 御訪問になったウガンダで、「あしながウガンダ」を御視察になる秋篠宮同妃両殿下(6月13日) (3)南部アフリカ情勢 南アフリカ共和国では、8月に、鉱山労働者による賃上げストライキが過熱化し、群衆を制止しようとした警官が発砲するなどにより計46人が死亡する事件が発生した。12月には、与党アフリカ民族会議(ANC)の総裁選挙が行われ、ズマ大統領が総裁に再選された。 モザンビークについては、日・モザンビーク外交関係樹立35周年に当たる2012年、両国間の要人往来が活発化した。アリ首相の訪日時に行われた日・モザンビーク首脳会談では、モザンビークへの投資促進のための二国間投資協定締結交渉の開始に合意した。 レソトでは、5月に総選挙が行われた結果、全バソト会議(ABC)を中心とした連立政権が成立し、タバネABC党首が首相に就任した。 マラウイでは、ムタリカ大統領の急逝を受け、バンダ副大統領が新大統領に就任した。バンダ大統領は、アフリカ大陸ではリベリア大統領に続く2人目の女性国家元首である。 アンゴラでは、8月、大統領選挙が行われ、現職のドス・サントス大統領が再選された。 ナミビアについては、7月に訪日したヌヨマ外相が玄葉外務大臣との間で会談を行った。両大臣は、貿易投資促進や経済協力に関する政策対話の立ち上げについて合意した。 ジンバブエでは、2012年7月に、チャンギライ首相が訪日し、野田総理大臣との会談において日・ジンバブエ関係の活性化に合意した。2013年1月、ジンバブエでは民主化の鍵となる新憲法の草案について、主要政党間で基本合意に至り、今後、新憲法の是非を問う国民投票を経て、2013年中に選挙が行われる見通しとなっている。 ザンビアについては、サタ大統領及びルビンダ外相が訪日し、協力関係強化に向け、首脳・外相会談に加え各種協議などを行った。 (4)中部アフリカ情勢 コンゴ民主共和国(コンゴ(民))では、2012年4月以降同国東部の北キブ州において、コンゴ(民)国軍を離反した反政府勢力「3月23日運動(M23)」と国軍との間で衝突が断続的に発生し、同年11月には、M23が北キブ州の州都ゴマに侵攻する事態となった。これに対し、国連安保理は、M23を非難する決議を全会一致で採択し、ゴマからの即時撤退、侵攻停止、即時かつ恒久的な武装解除を求めた。その後、M23はゴマから撤退したが、引き続き不安定な情勢が続いている。また、こうした情勢を受け、同国東部では数十万人規模の国内避難民や難民が発生している。さらに、ルワンダ、ウガンダがM23に対して武器や兵士の供給などの支援を行っているとの国連の専門家グループが指摘しており、コンゴ民主共和国とルワンダの関係についても緊張が高まっている。 中央アフリカにおいても反政府勢力の動きが活発化している。2012年12月の北部の街の制圧を発端として、反政府勢力「セレカ」(Seleka)は首都がある南部へ進軍を続け、緊迫した状況が生じていた。しかし、中部アフリカ諸国経済共同体(ECCAS)の仲介により、2013年1月11日に政府とセレカとの停戦合意と政治合意がなされ、安定化に向けた取組が前進している。 (5)西部アフリカ情勢 マリでは、2012年1月にマリ北部地域において、複数の国軍キャンプがリビアからの帰還兵を含むトゥアレグ族の武装集団「アザワド地方解放国民運動」(MNLA)により襲撃された。 2月には、北部地域におけるマリ政府及び国軍の対応に不満を持った市民によるデモが首都バマコ市で発生した。首都以外でも、トゥアレグ族に対し他のマリ人が攻撃などを行ったため、一部トゥアレグ族住民が周辺国へ難民として流出した。 3月には、トゥアレグ族の武装勢力との戦いのために動員された国軍兵士らの一部が、任務の負担や待遇に不満を持ち反乱を起こしたのを発端に、首都バマコの大統領宮殿が襲撃され、トゥーレ大統領は辞任に追い込まれた。このような事態の発生を受け、トラオレ国民議会議長が憲法の規定に従って暫定大統領に就任した。 マリ北部では、首都バマコでの混乱に乗じ、トゥアレグ族の武装集団が勢力を伸張させ、4月にマリ北部地域の独立を宣言するとともに、トゥアレグ族武装勢力「アンサール・ディーン」がイスラム原理主義に基づく統治を行うなど、人道・治安状況が悪化した。 トラオレ暫定大統領はディアラ暫定首相を任命し、暫定政府は憲法秩序の回復と次期大統領選挙・国民議会選挙の実施に向けた取組を行っていた。しかし、5月にはトラオレ暫定大統領自身が大統領府で暴行を受けて負傷し、パリで一時入院した。その後も、12月にはディアラ暫定首相が国軍兵士に拘束された後辞任し、新たにシソコ暫定首相が大統領令によって任命されるなど混乱が続いた。 西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は、事態の収拾に向け、ECOWAS加盟国を中心としたアフリカ諸国による多国籍部隊をマリに派遣することを検討してきた。12月には、国連安保理で多国籍部隊の派遣を承認する決議が全会一致で可決された。 2013年1月、マリ北部でイスラム過激派とマリ国軍の戦闘が発生した。マリ政府の要請を受け、フランスは軍を派遣し、イスラム原理主義武装集団への攻撃を行った。 マリ政府は、ECOWASに対しても、軍の派遣を要請した。ニジェール、ブルキナファソ、セネガル、ベナン、ナイジェリア、ギニア、トーゴ、チャド等が派遣要請に応じる旨発表した。また、英国、米国、ドイツ、ベルギー、デンマーク、スペイン、イタリア、カナダ、オランダ等が輸送機の派遣等の支援を発表した。 2月上旬までに、フランス軍は、マリ国軍やマリ近隣国から派遣された軍とともにマリ北部主要都市を奪還した。 また、ギニアビサウでは、4月に国軍の一部グループが、直後に控えていた大統領選挙決戦投票の有力候補であったゴメス前首相等を拘束した。その後、ECOWASの仲介により暫定政府が設立されたが、ゴメス前首相派の合意がなく、国際的にも国内的にもこの暫定政府を認めないグループが存在し、不安定な状態が続いている。 ナイジェリアでは、昨年に引き続き、イスラム過激派組織「ボコ・ハラム」による銃撃や爆弾テロ事件が発生している。当局は、掃討作戦を強化しているが、情勢は依然として不安定である。 3月のセネガルの大統領選挙では、3選を目指した現職のワッド大統領が元首相のサル候補に敗れ、同大統領側が同投票結果を受け入れた結果として、民主的な政権交代が実現した。また、民主主義の定着が進んでいるガーナ(12月)、2002年まで内戦が続いていたシエラレオネ(11月)においても、平和裏に大統領選挙が実施され、それぞれ現職大統領が再選された。 (6)地域機関・準地域機関との協力 アフリカ54か国・地域が加盟するアフリカ連合(AU)は、アフリカにおける平和と安全保障の枠組みの構築を進めている。スーダンやソマリアへの平和維持部隊の派遣に加え、スーダンと南スーダンとの間の諸課題の調停など、各種仲介活動を行い、平和と安全保障の分野で積極的な役割を果たしている。また、AUは2010年1月に、アフリカの開発のための枠組みであるアフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)を統合し、これ以降開発分野でも積極的な取組を行っている。2008年からAU委員長を務めていたピン氏に代わり、7月にはズマ氏が新たな委員長に選出された。日本からは、1月と7月にエチオピアで開催されたAU閣僚執行理事会に山根外務副大臣が出席し、第5回アフリカ開発会議(TICADX)に向けた決意や対アフリカ外交を力強く推進するとのメッセージを表明した。 また、ECOWAS、南部アフリカ開発共同体(SADC)、政府間開発機構(IGAD)などの地域機関も、平和や安全保障の分野や経済分野で積極的な役割を果たしている。 アフリカ連合(AU)総会に出席する松山政司外務副大臣(2013年1月27日、エチオピア・アディスアベバ) アフリカにおける主要紛争地域の動向(2013年1月現在)