各論 1 シリア情勢 シリアでは、複雑な宗派・民族構成や長年の圧政の存在を背景として、2011年始めに中東・北アフリカ諸国を席巻した民主化要求運動(いわゆる「アラブの春」の動き)の影響を受け、2011年3月以降、各地で反政府デモが発生した。その後、当局と反政府勢力との間の暴力的衝突が激化しており、2012年末までの死者数は全土で6万人以上とも言われている。各地での戦況は一進一退を続け、今後の状況も予断を許さない。また、シリア国内の人道危機は深刻な状況であり、早急な国際社会の支援が必要であるにもかかわらず、治安の悪化により援助関係者の活動も大きな制限を受けている。シリア国外に流出した難民は、国連によると2012年12月までに45万人以上に上り、今後も増加していくと予測されている。 シリア反体制派については、複数のグループが国内外に存在し、内部対立などにより一枚岩になりきれていないとの指摘がなされていた。しかし、11月にカタールにおいて新しい統一組織である「シリア国民連合」が設立され、同組織は、12月にマラケシュで開催された有志国によるシリア・フレンズ閣僚級会合において「シリア人の正当な代表」と認められるなど、国際社会の多くから支持される組織となりつつある。 日本を含む多くの国は、これまでシリア政府に対して、弾圧の即時停止や改革を強く要請し、アサド大統領を含む政府関係者に対する経済制裁措置を講じるなどの圧力をかけてきた。一方、国連安保理の対シリア制裁決議案がロシア及び中国の拒否権の行使により計3度否決されるなど、安保理は、シリア問題への対応に関して有効に機能できていない。そのような中、国際社会の一致した支持を背景にアナン前国連事務総長が2月から国連・アラブ連盟共同特使として精力的に仲介活動を行うとともに、4月末からは、現地に国連シリア監視団(UNSMIS・非武装)が派遣された。しかし、現地における著しい治安の悪化を受け、同監視団及びアナン特使は8月に任務を終了した。その後、アナン特使の任務はブラヒミ元アルジェリア外相に引き継がれている。 日本は、計1,550万米ドルの人道支援を行いつつ、国際社会と連携して累次の経済制裁を実施し、また、11月末に東京でシリア制裁ワーキング・グループ会合を主催した。同会合には、初参加国を含めた複数のアジア諸国の参加も得て、これまでで最高となる67の国・国際機関が参加し、会合後の共同声明においてシリア体制側に対し強いメッセージを発するとともに、シリアの人々に対する国際社会の連帯の意を改めて示した。 第5回シリア制裁ワーキング・グループ会合に出席する玄葉外務大臣(中央)(11月30日、東京)