5 大洋州 (1)オーストラリア ア 概要・総論 日本とオーストラリアは、基本的価値と戦略的利益を共有するアジア太平洋地域における戦略的パートナーである。近年、日・オーストラリア関係は、貿易・投資を中心とした相互補完的で良好な経済面のみならず、安全保障・防衛協力の分野においても急速に進展している。2012年は、日・オーストラリア外務・防衛閣僚協議(「2+2」)の約2年半ぶりの開催を含め、閣僚級の訪問や国際会議の機会などを捉えた首脳レベルの会談も活発に行われ、両国関係が更に強化された。 イ 安全保障分野での協力 日本とオーストラリアは、2007年3月の安全保障協力に関する日豪共同宣言において、両国の関係を「戦略的パートナーシップ」と位置付け、二国間協議の定例化、部隊間の人的交流、共同訓練などの強化を決定しており、二国間の安全保障・防衛協力は急速に発展してきている。 具体的には、自衛隊とオーストラリア軍が共同訓練を実施したり(2009年以来、5回)、多国間の共同訓練に参加する機会が増えている。また、日本とオーストラリアは共に米国の同盟国であり、日米豪の外交当局間の戦略対話や自衛隊と米豪軍による共同訓練などの三国間の協力も進んでいる。 さらに、日・オーストラリア共同訓練、PKOや国際緊急援助活動における協力を促進する「日・オーストラリア物品役務相互提供協定(ACSA)」が、2013年1月に発効したほか、2012年5月には玄葉外務大臣と訪日中のカー外相が、日豪政府間で交換する国家の安全保障のための秘密情報を保護する手続などを定めた「日豪情報保護協定(ISA)」を署名し、同協定は2013年3月発効した。 9月に実施された第4回「2+2」では、地域情勢や日豪間の安全保障協力について共通のビジョンと目標を共有しつつ、アジア太平洋地域における平和と安定のための協力、国際的な安全保障問題に関する協力、二国間・三国間防衛協力等の分野における一層高いレベルの協力関係の構築に向けて議論を行い、「共通のビジョンと目標」と題する共同文書を発表した。 ウ 経済関係 日本とオーストラリアの相互補完的な経済関係は、主として日本が工業品を輸出し、オーストラリアから資源や農産物などを輸入する形で着実に発展してきている。2012年10月には、日本とオーストラリアの民間企業で構成される「日豪経済合同委員会」の50周年記念会合が、ギラード首相も参加してシドニーで開催された。 日本とオーストラリアは互いに最大の貿易相手国の一つであり、日本からオーストラリアへの投資も着実に増加している。また、オーストラリアは、日本にとって最大のエネルギー供給元であり、日本企業による「イクシス・プロジェクト」(西オーストラリア沖合の天然ガス田の開発プロジェクト)やレアアース鉱山などへの投資により、今後更なる資源供給の増加が見込まれるなど、オーストラリアの重要性は一層高まっている。こうした緊密な経済関係を更に強化するために、日本は2007年からオーストラリアとEPA交渉を開始している。これまでに16回の交渉会合が開催されており、幅広い分野において有益な議論が行われている。 さらに、両国はWTOなどの多国間の枠組みや、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)等の広域経済連携の取組についても、緊密に協力している。 エ 「アジアの世紀におけるオーストラリア」白書 オーストラリアの日本語学習者数は、世界第4位であり、100件を超える姉妹都市交流があるなど親日的な土壌を有している。2012年10月にギラード首相が発表した「アジアの世紀におけるオーストラリア」白書でオーストラリアの生徒が習得すべきアジア言語の1つとして日本語が指定されたことは、今後の文化・人的交流の強化の契機となると期待される。 オ 国際社会における協力 日本とオーストラリアは、地域の安定的な発展に積極的な役割を担うため、様々なレベルでの協力を強化してきている。2012年は、PALM6、EAS、ARFなどの地域協力枠組みにおける協力を一層強化した。また、2012年8月からは、日本が自衛隊の部隊などを派遣している国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)において、自衛隊とオーストラリア軍との協力が始まった。 オーストラリアは、2013年からの2年間国連安保理の非常任理事国に選出されており、国際社会の平和と安定に対して大きな責任を有する国連安保理の場における協力についても緊密な意見交換を行っている。 カ 捕鯨 捕鯨は、日本とオーストラリアとの間で立場が大きく異なる問題である。日本の調査捕鯨をめぐっては、2010年5月にオーストラリア政府が日本をICJに提訴し、審理が続いている。また、反捕鯨団体シー・シェパードによる妨害行為については、日本は、シー・シェパード船舶の旗国及び寄港国であるオーストラリアなど関係国に対し、妨害行為の再発防止に向け実効的な措置を講じるよう、日・オーストラリア外相会談などの機会に要請している。 (2)ニュージーランド ア 概要・総論 日本とニュージーランドは、民主主義、市場経済などの基本的価値を共有するアジア太平洋地域のパートナーとして長年良好な関係を維持している。両国が外交関係樹立60周年を迎えた2012年には、オープンスカイ(航空自由化)に関する取極や新租税条約の署名、人的交流の促進などを通じて、両国関係の更なる強化へ向けた基盤が整備された。 イ 二国間関係 2012年は、ハイレベルの相互訪問が積極的に行われ、日本からは5月に中野譲外務大臣政務官がニュージーランドを訪問し、同国からは6月にマカリー外相、9月にキー首相、11月にイングリッシュ副首相が来日した。キー首相は、訪日の際、野田総理大臣との会談において、二国間関係の更なる促進と地域・国際場裏での協力の強化を確認したほか、東日本大震災被災地である宮城県七ヶ浜町を訪問し、災害・復興状況を視察した。 クライストチャーチ地震2周年追悼式典に出席し、献花を行う城内実外務大臣政務官(2013年2月22日、ニュージーランド) ウ 経済関係 日本とニュージーランドは、主として日本が工業品を輸出し、ニュージーランドから食料品を輸入する相互補完的な関係を有しており、日本はニュージーランドの最大の貿易相手国の1つである。2012年にはオープンスカイに関する取極や新租税条約が新たに署名され、両国の経済関係の更なる強化が期待される。また、両国は、WTOなどの多国間の枠組みやRCEPなどの広域経済連携の取組についても、緊密に協力している。 エ 国際社会における協力 日本とニュージーランドは、PALM6、EAS、ASEAN地域フォーラム(ARF)などの地域協力枠組みにおける協力を一層強化するとともに、アフガニスタンや太平洋島嶼国・地域において経済開発協力を行うなど、地域の安定と発展のために積極的な役割を果たしている。 オ 人的交流 2012年においても、様々なレベルでの人的交流があった。特に、「アジア大洋州地域及び北米地域との青少年交流(キズナ強化プロジェクト)」では、約140人の高校生・大学生がオーストラリアの高校生・大学生約270人と共に、東日本大震災の被災地を訪問し、住民との交流や農作物の安全管理対策の視察・確認などを通じて、被災地の復興状況について理解を深めた。 (3)太平洋島嶼国 ア 概要・総論 太平洋島嶼国には日本に友好的な国が多く、これらの国は、国際社会での協力や天然資源の供給の面でも日本にとって重要なパートナーである。2012年5月に日本が第6回太平洋・島サミット(PALM6)を開催しており、このような機会や要人往来などを通じて日本と太平洋島嶼国の関係が一層強化された。 イ 太平洋・島サミットの開催 太平洋・島サミットは、太平洋島嶼国・地域が直面する様々な問題について首脳レベルで率直に意見交換を行うことによって緊密な協力関係を構築し、日本と太平洋島嶼国・地域の絆を強化するための会合であり、1997年から3年に1度開催されている。同会議は、日本が太平洋島嶼国・地域との友好関係を強化し同地域の発展に共に取り組む上で、重要な役割を果たしている。 2012年5月には、PALM6が沖縄県で開催され、13の太平洋島嶼国・地域の首脳などに加え、オーストラリア、ニュージーランドのほか、今回初めて米国からも政府高官が参加した。同サミットでは、野田総理大臣とクック諸島のプナ首相による共同議長の下、(1)東日本大震災の経験を踏まえた防災協力、(2)環境・気候変動、(3)持続可能な開発と人間の安全保障、(4)人的交流、(5)海洋問題を協力の5本柱として盛り込んだ「沖縄キズナ宣言」を採択した。また、日本は、今後3年間で最大5億米ドルの援助を行うべく最大限努力することを表明した。さらに、野田総理大臣は、同サミットに出席した全ての首脳と二国間会談を行い、これら各国との二国間関係の一層の強化を図り、地域・国際社会の課題解決に向け緊密に協力することでそれぞれ一致した。さらに、野田総理大臣から各国の首脳に対して東日本大震災に際して各国から寄せられた支援に謝意を表明した。また、今回のサミットでは、高校生による「高校生太平洋・島サミット」(Young PALM)が宮古島市で開催され、若者同士の交流が図られたほか、PALM6親善大使に任命された福島県いわき市スパリゾートハワイアンズ・ダンシングチーム「フラガール」による広報活動が震災からの復興努力を印象付けるなど、首脳レベルの交流にとどまらない成果があった(詳細についてはコラム参照)。 AFDP太平洋島嶼国首脳・経済人会議フォローアップ実務者会議で発言する村越祐民外務大臣政務官(10月16日、東京) ウ 太平洋諸島フォーラム(PIF)との関係 2012年8月、クック諸島において、太平洋島嶼国(14か国・地域)、オーストラリア及びニュージーランドから構成されるPIF加盟国と米国、中国、フランスなどの主要援助国が参加するPIF域外国対話が開催された。日本からは、中野外務大臣政務官が出席し、PALM6で採択された「沖縄キズナ宣言」を日本が着実に実施し、太平洋島嶼国の持続的な経済開発などを支援していくことを表明した。また、中野外務大臣政務官は、PALM6の共同議長を務めたプナ・クック首相を始めとする太平洋島嶼国首脳との間で二国間関係などについて意見交換を行った。また、クリントン米国務長官と懇談し、このPIF域外国対話の機会に両国が発表した太平洋島嶼国における日米援助協調に関する共同文書に基づき、両国が協力していくことを確認した。 エ 要人往来 2012年3月、トゥポウ5世トンガ国王陛下が崩御され、常陸宮同妃両殿下が国葬に参列された。5月、中野外務大臣政務官がサモア独立50周年記念式典に出席するとともに、トゥイラエパ・サモア首相を表敬した。6月、トゥポウトア・ウルカララ・トンガ皇太子殿下が初めて訪日し、秋篠宮同妃両殿下、常陸宮同妃両殿下及び彬子女王殿下と会見になるとともに、玄葉外務大臣とも懇談されたほか、東日本大震災の被災地の1つであるいわき市を視察した。8月、中野政務官がフィジーを訪問し、ナイラティカウ大統領を表敬したほか、ボレ外相代理やサイェド=カイユーム司法長官と会談し、二国間関係について意見交換を行った。 オ フィジー情勢 フィジーは、憲法を廃止し非民主的な政権が続いているとして、PIFや英連邦から加盟資格を停止されているが、日本は、粘り強い対話を通じて同国の民主制復帰を働きかけてきている。フィジーは、2012年5月のPALM6には参加しなかったが、野田総理大臣は、フィジーの民主化を後押しするため対話を継続していくことを表明した。8月に、中野外務大臣政務官がフィジーを訪問した際、日本は、2014年の総選挙実現に向けた民主化の一層の進展に期待するとともに、両国間のハイレベル訪問を促進し対話を強化することで未来志向の協力関係を築いていきたいとする総理大臣親書をボレ外相代理に手交した。 こうした粘り強い対話と働きかけもあって、フィジーでは民主化プロセスが着実に進みつつあり、2012年には、総選挙に向けた選挙人登録が完了し、また、新憲法草案が大統領に提出されるなど、民主化の進展が見られた。 第6回太平洋・島サミット親善大使「フラガール」 〜第6回太平洋・島サミット親善大使「フラガール」が広げるキズナの輪〜 日本は3年に1度、太平洋の島国の首脳等を招待して、太平洋・島サミットを開催しています。太平洋には多くの島嶼国があり、これらの国々や地域は親日的で、日本の食卓に上るかつおやマグロがたくさん獲れる地域でもあります。 2012年5月に沖縄で開催された第6回太平洋・島サミットに向けて、太平洋の島国に対する関心が高まるよう、様々な取組が行われました。2011年11月に、玄葉外務大臣が、映画『フラガール』でも知られる福島県いわき市の「スパリゾートハワイアンズ」の専属ダンシングチーム「フラガール」に、サミットの親善大使就任をお願いしたこともその一つです。 「フラガール」は、ハワイのフラダンスだけでなく、太平洋島嶼地域をルーツとする様々なダンスを取り入れており、サミットに参加する国々と深い関係があります。「フラガール」の活動拠点である「スパリゾートハワイアンズ」も東日本大震災の被害を受けましたが、「フラガール」は、被災者を勇気づける復興のメッセージを発信するために、日本各地で活動を行っていました。 親善大使となった「フラガール」は、サミット開催まで様々な広報活動を行い、2012年4月に、事前広報のため、開催予定地の沖縄県を訪問しました。仲井眞沖縄県知事や下地宮古島市長を表敬し、また、沖縄県及び宮古島市主催のイベント(注:宜野湾(ぎのわん)市、那覇市、南風(はえ)原(ばる)町、宮古島市で開催)でダンスパフォーマンスを行って、地元の温かい歓迎を受けました。さらに、県内の新聞社やテレビ局を通じて同サミットを紹介し、復興へのメッセージを発信しました。私は、親善大使「フラガール」の活動をサポートする中で、笑顔を絶やさない華やかなパフォーマンスには、太平洋の島国と日本をつなぐ思いだけではなく、被災地の復興への強い願いも込められていると感じました。 こうした「フラガール」による活動もあって、第6回太平洋・島サミットは、和やかな雰囲気の中で一連の日程を終えることができました。サミット後に改めて面会した玄葉外務大臣は、親善大使「フラガール」に対し、第6回太平洋・島サミットは親善大使の協力もあり、「沖縄キズナ宣言」を採択して成功裏に終了し、日本は太平洋の島国との協力関係を更に強化することができた、とお礼を述べました。「フラガール」の皆さんの笑顔をいかして、震災からの一日も早い復興が進むよう祈るとともに、これからも太平洋島嶼国との友好関係を一層深めていければ、と思います。 アジア大洋州局大洋州課事務官 秋山ゆり子 仲井眞沖縄県知事を表敬するフラガール 広報活動の様子(写真提供:宮古島市) カ 人的交流 2012年には、「アジア大洋州地域及び北米地域との青少年交流(キズナ強化プロジェクト)」として、太平洋島嶼国から高校生・大学生が300人以上来日し、東日本大震災の被災地の視察を通じて住民と交流し、被災と復興の状況についての理解を深めた。このほか、10月にはPALM6関連行事のフォローアップとして、太平洋島嶼国の産業振興に携わる若手行政官12人が来日し、沖縄を含む日本企業関係者などと意見交換などを行った。