各論 1 朝鮮半島 (1)北朝鮮(拉致問題を含む。) 日本は、2002年9月の日朝平壌宣言にのっとり、拉致問題、核・ミサイル問題といった北朝鮮との諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算し、日朝国交正常化を図ることを基本方針とし、韓国、米国を始めとする関係国と緊密に連携しながら、引き続き様々な努力を行っている。 ア 内政・経済 (ア)内政 北朝鮮では、2011年12月の金正日国防委員長の死去を受け、同氏の三男とされる金正恩氏を中心とした後継体制の確立が進んでいる。金正恩氏は、2011年12月に朝鮮人民軍最高司令官に就任、金日成(キムイルソン)主席生誕100周年を迎えた2012年4月には朝鮮労働党第一書記及び国防委員会第一委員長に就任し(1)、7月には「共和国元帥」の称号を付与された。また、2012年は幹部要職の人事にも大きな動きが見られた(2)。 (イ)経済 北朝鮮は、社会主義圏崩壊以降の厳しい経済難から、1990年代中盤以降、部分的な経済改革に着手するなど、近年は経済復興に努めてきたとされる(3)。2012年8月頃から北朝鮮メディアは、あらゆる分野を対象とした「革新」措置が実施されていると報道しており、何らかの経済政策が既に実施されていることを示唆する一方、中国型の「改革・開放」については強く否定している。現在のところ、北朝鮮は、新たな経済政策について公式に発表しておらず、内容の詳細・進捗状況などについては明らかになっていない。 2011年の北朝鮮の経済成長率は、0.8%(韓国銀行推計値)であり、マイナス成長を記録した2009年及び2010年と比べ持ち直したものの、資金やエネルギーの不足、生産設備の老朽化、技術水準の後れなどの構造的な問題が依然として産業全体に存在しているものと見られる。食糧事情についても、近年、慢性的な肥料不足などの影響で穀物総生産量が低調な水準で推移しており、2012年は前年に比べ生産量の増加が見られたとされるものの(4)、依然として厳しい状況が続いていると見られる。 北朝鮮は、近年中国との経済関係を急速に拡大しており、経済的に中国に依存する傾向が顕著になっている。2011年の北朝鮮の対中貿易額は、総額で約56.3億米ドルに上り(大韓貿易投資振興公社(KOTRA)推計値)、北朝鮮の対外貿易の約7割を占めている。 イ 安全保障上の問題 (ア)近年の経緯 2009年、日本を含む国際社会が強く自制を求めたにもかかわらず、北朝鮮はミサイル発射や核実験を強行した。これに対し、国連安保理が新たな制裁を課す決議第1874号を全会一致で採択するなど、国際社会は北朝鮮に挑発的行為の自制と状況改善のための前向きな行動をとるよう働きかけてきた(5)。しかし、北朝鮮は2010年3月に韓国哨戒(しょうかい)艦沈没事件(6)、同11月には韓国の延坪島(ヨンピョンド)に対する砲撃事件(7)を引き起こすなどの挑発的行為を繰り返してきた。 2012年、北朝鮮は4月と12月の2度にわたって「人工衛星」と称するミサイル発射を強行し、2013年2月には3回目の核実験を実施するなど(下記(イ)参照)、依然として核・ミサイル開発を継続している。北朝鮮の核・ミサイル開発は、地域のみならず国際社会全体にとっての脅威であり、日本は関係国と緊密に連携しつつ、北朝鮮に対し、六者会合共同声明や累次の国連安保理決議に従って非核化などに向けた具体的行動をとるよう強く求め続けている。 (イ)ミサイル発射及び核実験 2012年3月16日、北朝鮮は金日成主席生誕100周年に際して「実用衛星」を打ち上げると発表した。日本を含む関係各国は発射の自制を強く求めたが、4月13日、北朝鮮はミサイルの発射を強行した。これに対し、日本政府は、直ちに北朝鮮に抗議するとともに、発射を非難する官房長官声明を発出した。国連安保理は同月16日、同発射について、関連する国連安保理決議の深刻な違反であるとして非難するとともに、更なる発射又は核実験の場合には、国連安保理が行動をとる決意を表明する議長声明を発出した。 12月1日、北朝鮮は同月10日から22日の間に再び「実用衛星」を打ち上げると発表し、これに対して、日本を含む関係各国は発射の自制を強く求めたが、北朝鮮は12日にミサイル発射を強行した。これを受け、日本政府は、直ちに北朝鮮に抗議するとともに、発射を非難する官房長官声明を発出した。2013年1月22日、国連安保理は決議第2087号を全会一致で採択し、同発射について、関連する国連安保理決議違反として非難し、制裁を強化する措置を決定するとともに、更なる発射又は核実験の場合には、国連安保理が重要な行動をとる決意を表明した。 2013年2月12日、北朝鮮は第3回目の核実験を実施した。これを受け、日本政府は、直ちに北朝鮮に抗議するとともに、核実験を非難する内閣総理大臣声明を発出した。3月7日、国連安保理は決議第2094号を全会一致で採択し、国連憲章第7章に言及した上で、2月の核実験を、関連する国連安保理決議違反として非難し、制裁を追加・強化する措置を決定した。 ウ 日朝関係 (ア)日朝政府間協議 2012年8月、北京で日朝赤十字会談が開催され、戦後、北朝鮮に残された日本人遺骨の問題に関して意見交換が行われた。会談終了後、日本政府は日本赤十字社から報告を受け対応を検討した結果、政府レベルで更に協議を深める必要があるとの結論に達した。その後の日朝間における調整の結果、同月、日朝政府間協議の開催に向けて、課長級予備協議を北京で開催し、実務的で率直かつ突っ込んだ議論を行った。 同年11月、予備協議での議論に基づき、ウランバートル(モンゴル)で約4年ぶりとなる日朝政府間協議を開催した。同協議では、日朝平壌宣言にのっとって日朝関係の前進を図るべく、双方が関心を有する諸懸案について、幅広い意見交換を真剣な雰囲気の下で行い、双方は、協議が有益であったとの認識の下、できるだけ早期に次回協議を行うことで一致した。その後、2回目の協議は12月上旬に開催する予定としていたが、北朝鮮による「人工衛星」と称するミサイル発射の予告(上記イ(イ)参照)を受け、日本政府は、諸般の事情を総合的に勘案し協議を延期することを北朝鮮側に伝達した。 (イ)拉致問題に関する取組 2012年は、日朝平壌宣言10周年、拉致被害者5人の帰国から10年という節目の年であった。日本政府は、日朝平壌宣言にのっとって、拉致問題を含めた諸懸案を包括的に解決すべく、決意を新たにして取り組んでいる。 現在、日本政府が認定している日本人拉致事案は、12件17人であり、そのうち12人がいまだ帰国していない。北朝鮮は、12人のうち、8人は死亡し、4人は入境を確認できないと主張しているが、そのような主張について納得のいく説明がなされていない以上、日本政府としては、安否不明の拉致被害者は全て生存しているとの前提で問題解決に向けて取り組んでいる。北朝鮮による拉致は、日本の主権や国民の生命と安全に関わる重要な問題であり、日本政府としては、その解決を最重要の外交課題の1つと位置付け、全ての拉致被害者の安全の確保と即時帰国、拉致に関する真相究明、拉致実行犯の引渡しを北朝鮮側に対し強く要求している。 2012年11月の日朝政府間協議(上記(ア)参照)では、拉致問題について突っ込んだ意見交換を行い、これまでの経緯やそれぞれの考え方についての議論を踏まえた上で、更なる検討のため今後も協議を継続していくことで一致した。また、その他の拉致の疑いが排除されない方々の件についても日本側から提起し、議論を行った。 (ウ)対北朝鮮措置 日本政府は、これまでに広範な対北朝鮮措置(8)を実施してきている。また、2013年3月までに採択された国連安保理決議第1695号、第1718号、第1874号、第2087号及び第2094号に基づく様々な措置についても、関係各国と連携しながら着実に実施している(9)。 エ 国際社会の協力と取組 (ア)各国の取組 北朝鮮問題に関して、日米韓3か国は従来から緊密な連携を維持している。2012年には7月(於:カンボジア・プノンペン)及び9月(於:ニューヨーク)に日米韓外相会合を開催し、3か国協力を更に深めていくことを確認した。また、首席代表者レベルの会合も、1月(於:ワシントン)、5月(於:ソウル)、10月(於:東京)及び12月(於:ワシントン)に実施している。 米国と北朝鮮は、2012年2月に第3回米朝対話を実施し(10)、北朝鮮側が長距離ミサイル発射、核実験、ウラン濃縮活動を含む寧辺(ヨンビョン)での核関連活動のモラトリアムなどを実施し、米国側が栄養支援パッケージなどを実施することに合意した。しかし、4月の北朝鮮によるミサイル発射を受け、米国側は、北朝鮮の行動が米朝合意に違反し、栄養支援などを前に進めることができなくなったとの認識を表明した。一方、北朝鮮側は、国連安保理議長声明を受け、米朝合意にもはや拘束されないとの声明を発表した(11)。 韓国と北朝鮮との関係は、金正恩体制移行後も膠(こう)着状態が続いており、北朝鮮は韓国の李明博政権に対する非難を繰り返してきた。2012年4月には韓国に対し、「特別行動」を開始すると警告し、同年9月には北朝鮮の漁船が南北間の事実上の海洋軍事境界線である北方限界線(NLL)を越えたため、韓国軍が警告射撃を行うなど、南北関係が緊迫する場面が見られた。 一方、韓国政府は、人道主義の観点から2012年2月と8月に離散家族再会に関する南北赤十字間の実務接触を開催することを提案したが、北朝鮮側は、韓国側がまずは「5.24措置」(12)を解除しなければならないなどとして、同提案を事実上拒否した。また、韓国政府は、同年夏の北朝鮮における集中豪雨などによる被害への支援なども提案したが、北朝鮮側は一部の受入れを拒否した。 中国と北朝鮮との間では、2012年4月、金永日(キムヨンイル)朝鮮労働党国際部長が訪中し、胡錦濤(こきんとう)中国国家主席等と会談した。また、8月には、張成澤(チャンソンテク)国防委員会副委員長が訪中して胡錦濤中国国家主席、温家宝(おんかほう)中国国務院総理などと会談し、中朝の伝統的友好協力関係の発展や共同開発プロジェクトの推進などについて意見交換を行った。ロシアと北朝鮮の間では、9月に北朝鮮がロシアに対して負っている旧ソ連時代の債務110億米ドルのうち、9割を免除する協定に署名した。 (イ)国際社会との連携 日本は、各種の国際会議、首脳・外相会談などの外交上のあらゆる機会を捉え、拉致問題を含む北朝鮮問題を提起し、諸外国からの理解と協力を得ている。例えば、2012年5月の日中韓サミットでは、北東アジア情勢に関し、3か国が緊密に連携し、北朝鮮の更なる挑発行為の自制を求めていくことで一致した。また、野田佳彦総理大臣は、拉致問題に関する韓国及び中国による支持・協力に感謝の意を表した。 同じく5月にキャンプデービッド(米国)で行われたG8首脳会合では、野田総理大臣から、4月のミサイル発射の際のG8の対応を評価しつつ、国際社会が一致して北朝鮮に確固たる意思を伝える必要性を指摘し、各国から賛同する発言があった。また、野田総理大臣は、拉致問題に関し、G8各国による支持を改めて要請し、キャンプデービッド宣言には拉致問題を含む北朝鮮における人権侵害に対する憂慮が盛り込まれた。 9月、野田総理大臣は国連総会の一般討論演説において、北朝鮮の核・ミサイルの問題が世界全体に対する現下の深刻な脅威であり、国連やIAEAにおける各国の協調が欠かせないと指摘した。また、北朝鮮による拉致問題は、基本的な人権の侵害という普遍的な問題であり、国際社会の重大な関心事項であること、全ての被害者の1日も早い帰国に向けて全力を尽くすことを強調した。さらに、日朝関係についても、日本の基本的な方針を改めて表明し、引き続き北朝鮮の前向きな対応を求めた。 12月には、国連総会本会議において、日本とEUが共同提出してきている北朝鮮人権状況決議が、3月の人権理事会における北朝鮮人権状況特別報告者マンデート延長決議に続き、初めて無投票でコンセンサス採択された(決議の採択は、8年連続8回目)。これは、拉致問題を含む北朝鮮の人権状況に対して国際社会全体が強い懸念を共有していることを示し、北朝鮮に対して国際社会が明確なメッセージを改めて打ち出したものである。 オ その他 北朝鮮から逃れた脱北者は、滞在国当局の取締りや北朝鮮への強制送還などを逃れるため潜伏生活を送っており、日本政府としては、こうした脱北者の保護及び支援について北朝鮮人権法の趣旨を踏まえ、人道上の配慮、関係者の安全、脱北者の滞在国との関係などを総合的に勘案しつつ対応している。なお、日本国内に受け入れた脱北者については、関係省庁間の緊密な連携の下、定着支援のための施策を推進している。 (2)韓国 ア 日韓関係 (ア)二国間関係一般 日韓両国は、自由と民主主義、基本的人権などの基本的な価値と利益を共有する重要な隣国同士であり、北朝鮮問題を始め、平和構築、核軍縮や不拡散、気候変動、貧困などの地域や地球規模の様々な課題について連携して協力していくことで一致している。2012年の北朝鮮による「人工衛星」と称するミサイル発射の際には、すぐさま日韓外相会談を行うなど、日韓両国は緊密に意思疎通を行った。(13) 日韓間には、困難な問題も存在するが、大局的な観点から協力し、未来志向で重層的な関係を構築することが重要である。2012年5月の日中韓サミットに参加するため北京を訪問した野田総理大臣は李明博大統領と首脳会談を行い、現下の東アジア情勢を背景に、日韓の安全保障分野での協力や北朝鮮問題などについて意見交換を行った。2012年9月、ニューヨークにおいて玄葉光一郎外務大臣と金星煥(キムソンファン)外交通商部長官との間で行われた日韓外相会談では、日韓間には双方が提起する難しい問題があり、こうした問題について双方が主張すべきことは主張しながらも、大局的な観点から、経済、人的交流、文化交流、安全保障など様々な分野で日韓両国が協力していくことが大切であるとの点で認識が一致した。同年12月に岸田外務大臣と金星煥外交通商部長官との間で行われた日韓外相電話会談では、外交当局間で緊密に意思疎通を行うことの重要性と協力できる案件について緊密な協議をしていく方針が確認された。 (イ)交流 日韓両国民の相互理解と交流の流れは着実に深化し、拡大してきている。近年日韓両政府が両国民の交流環境の整備のための施策を講じていることもあって(14)、国交正常化当時には年間約1万人であった両国間の人の往来は、2011年に初めて500万人を超え、2012年には東日本大震災の影響が依然あったものの約556万人に達した。(15)日本では「K-POP」や韓国ドラマなどの「韓流」が世代を問わず幅広く受け入れられ、また、韓国において日本の漫画・アニメや小説を始めとする日本文化が人気を集めており、日韓間における人の往来は今後更に増加する傾向にあると考えられる。 2012年に8回目を迎えた「日韓交流おまつり」は、日韓両国で毎年開催される文化交流事業である。2012年は、「東日本大震災復興祈願」をテーマに9月28日に東京で、また、「元気な日本と韓国」をテーマに10月3日にソウルで開催され、東京では約2.4万人、ソウルでは約4万人が観覧した。 震災復興を目的に実施された「アジア大洋州地域及び北米地域との青少年交流(キズナ強化プロジェクト)」(16)では、2012年3月までに韓国から約1,000人の青少年を日本に招へいするとともに、被災地を中心に約600人の日本の青少年を韓国に派遣するなど、2012年度を通して日韓間の交流を深化・拡大させるための様々な取組が実施された。 (ウ)竹島問題 日韓間には竹島の領有権に関する問題があるが、竹島は歴史的事実に照らしても国際法上も明らかに日本固有の領土であるという日本政府の立場は一貫している。2012年8月10日、李明博大統領が韓国の大統領として初めて竹島に上陸したことを受けて、日本政府は韓国側に強く抗議した。その後、8月21日、日本政府は、韓国政府に対して、竹島問題を、国際法にのっとり、平和的に紛争を解決する方針に基づき、国際司法裁判所へ合意付託すること及び日韓紛争解決交換公文(17)に基づく調停を行うことについて提案したが、同月30日、韓国政府はこの提案を拒否した。 また、竹島問題に関し、日本政府は、様々な媒体で日本の立場を対外的に周知するとともに(18)、韓国閣僚や国会議員の竹島上陸、韓国による竹島やその周辺での建造物の構築などについては、韓国政府に対して累次にわたり抗議を行ってきている。日本は、竹島問題の平和的解決のため、今後も粘り強い外交努力を行っていく方針である。 (エ)その他の問題 なお、日韓間の過去に関する問題について、慰安婦問題、朝鮮半島出身者の遺骨問題(19)、在サハリン「韓国人」支援(20)、在韓被爆者問題への対応(21)、在韓ハンセン病療養所入所者への対応(22)など、多岐にわたる分野で日本は真摯に取り組んできた。 排他的経済水域(EEZ)境界画定交渉については、日韓両国間で協議を重ねており、同時に、海洋の科学的調査に関する暫定的な協力の枠組み交渉も韓国側と行っている。 イ 日韓経済関係 日韓の経済関係は、緊密に推移している。2012年の日韓間の貿易総額は、約8.14兆円であり、韓国にとって日本は第2位、日本にとって韓国は第3位という相互に主要な貿易相手国である(ただし、東日本大震災などの影響により、日本の韓国からの輸入が大幅に伸びた2011年との比較では、貿易総額は3.6%の減少)。なお、韓国の対日貿易赤字は、前年比23.5%減の約1.7兆円となった(財務省貿易統計)。また、日韓間の投資額は、まず日本からの対韓直接投資額が約3,206億円(前年比64.9%増)で、日本は韓国への第1位の投資国となっており、韓国からの対日直接投資は約445億円(前年比188%増)で大幅な伸びを見せた(財務省対外・対内投資統計速報値)。 このように、日韓の間では、相互に貿易・投資が増大しており、製造業におけるサプライチェーンの一体化の進展とともに、第3国への日韓企業の共同進出など、新たな協力関係が進みつつある。特にアフリカや大洋州などでの発電所関連工事受注や鉄鉱山プロジェクトへの出資など、第3国における資源開発やインフラ整備などの分野での日韓企業の連携が、2012年にも新たに数多く発表されており、これは最近の新たな動きとして注目される。 日本政府は、こうした緊密な日韓経済関係を一層強固にし、また日韓両国としてアジア地域の経済統合に主導的な役割を果たすためにも、日韓経済連携協定(EPA)の締結は重要であると考えている。2011年10月の日韓首脳会談で、可能な限り早期に日韓EPA交渉再開に合意できるよう、交渉再開に必要な実務作業を本格的に行っていくことで一致したことを受け、2012年年初から、実務レベルの調整や協議を断続的に行っている。 通商関係以外の分野でも、日韓間では様々な協力が進められている。環境分野については、12月に佐賀県において第15回日韓環境保護協力合同委員会を開催し、気候変動、生物多様性、域内の大気・海洋汚染に関する共同対応など、関連分野における日韓協力について議論を行った。あわせて、この委員会の機会を捉えて佐賀県が取り組む地球温暖化対策や海岸漂着ゴミ清掃事業について韓国側出席者に説明が行われ、こうした分野での地方と政府との連携についても議論が行われた。 エネルギー・原子力分野では、2012年1月、「原子力の平和的利用における協力のための日本国政府と大韓民国政府との間の協定」が発効し、両国間で移転される原子力関連資機材などの平和的利用などが法的に確保され、原子力安全の強化などに関し、協定に基づく協力の促進が可能となった。 ウ 韓国情勢 (ア)内政 李明博政権が任期最後となる5年目を迎えた2012年、韓国では、国会議員選挙(4月11日)と大統領選挙(12月19日)の双方が行われた。 4月11日に行われた第19代国会議員総選挙では、当初、野党側において、最大野党である民主統合党と統合進歩党が選挙協力を行い勢いを増す一方で、与党セヌリ党にとっては相当厳しい結果になるだろうとの予想が多かった。しかし、与党セヌリ党は、朴(パク)槿(ク)恵(ネ)非常対策委員長の下で、党名をハンナラ党からセヌリ党に変更するなど積極的に党刷新を行い、イメージ改善に努め、接戦の末、過半数を獲得した。(23) 12月19日に行われた第18代大統領選挙では、朴槿恵セヌリ党候補が、次期大統領に選出された。選挙戦は、11月に安哲(アンチョル)秀(ス)候補(無所属)が出馬辞退を宣言したことで、朴槿恵候補と文在(ムンジェ)寅(イン)民主統合党候補との事実上の一騎打ちとなったが、その結果、朴槿恵候補が、ソウル及び全羅道地域を除く全地域で文在寅候補を上回り、特に劣勢といわれていた首都圏で互角の戦いを行った結果、得票率51.6%(過半数超え)を得て勝利した。(24) 韓国新政権は、大統領就任式が行われた2013年2月25日に発足したところ、今後の政権運営が注目される。 (イ)韓国外交 李明博政権は、2010年にG20ソウル・サミットを開催したほか、2012年3月には核セキュリティ・サミットを開催するなど、国際社会においてリーダーシップを発揮した。 韓国と米国の関係については、2009年に合意された「同盟未来ビジョン」(25)の下、安保同盟のみならず、経済分野を含め全般的な関係を強化・発展させてきた。特に、北朝鮮の核・ミサイル問題について、韓米両国は緊密に連携することを確認している。また、韓米自由貿易協定(FTA)は2012年3月15日に発効した。 また、李明博政権の下、韓国と中国関係は「戦略的協力パートナーシップ関係」と位置付けられ、経済を中心に関係が発展してきた。2012年5月には韓中FTA交渉を開始した。また、2012年は韓中国交正常化20周年を迎え、20周年という節目の年を記念した様々な文化行事などが開催された。一方、韓中間には、EEZ境界画定問題などの懸案も存在している。 (ウ)経済 2012年、韓国のGDP成長率は2.0%を記録し、前年の3.6%よりも低下を示した。これについて、韓国政府は、欧米の景気低迷に加え、中国経済の低迷などによる輸出環境の悪化が主な原因であると分析している。総輸出額は、前年比1.3%減の約5,482億米ドルであり、総輸入額は、前年比0.9%減の約5,195億米ドルとなったため、貿易黒字は約286億米ドルとなった(韓国銀行統計)。 国内的な経済政策としては、韓国政府は、6月に「下半期経済政策方向と課題」を発表し、「韓国経済の活力向上」と「庶民生活の安定」重視の方針を表明した。対外通商分野では、3月に韓米FTAが発効し、5月には中国とのFTA交渉が開始された。 12月の大統領選挙にて選出された朴槿恵大統領は、「経済民主化」を掲げ、大企業の中小企業に対する不公正取引の根絶などの方針を打ち出した。また、1月には、大統領職引継委員会は、外交通商部から通商機能を知識経済部に移管し、産業通商資源部に改編するなどの案を発表した。 1 金正日国防委員長は「永遠の総書記」及び「永遠の国防委員会委員長」とされた。 2 4月12日の朝鮮労働党代表者会では、金正日国防委員長の妹の金慶喜(キムギョンヒ)氏が党書記に、その夫の張成澤(チャンソンテク)氏が党政治局員に選出され、張成澤氏に近いとされる崔竜海(チェリョンヘ)氏が党政治局常務委員、党中央軍事委員会副委員長に就任した。崔竜海氏は別途、次帥、国防委員、軍総政治局長にも就任した。7月には、李英鎬(リヨンホ)軍総参謀長が解任され、後任に玄永哲(ヒョンヨンチョル)氏が就任した。 3 2002年7月には、価格体系や配給制度の変更を含む「経済管理改善措置」を実施し、一定範囲で利潤の追求を認めた。また、2003年には公の管理の下に、総合市場を全土に300か所余り設置したとされ、個人や企業が農産品や消費財を販売している。2010年には、第三国からの投資呼び込みを目的として「国家開発銀行」を設立したり、中朝国境地帯に経済貿易地帯を設置するなど、外資誘致を目指す動きも見せた。 4 国連食糧農業機関(FAO)及び国連世界食糧計画(WFP)合同で実施された「作物・食糧安全保障評価ミッション」の調査結果によると、2012年11月から2013年10月までの推定食糧生産量(脱穀後)は492万トンで、昨年比10%増。 5 日本では、この決議を受け、貨物検査特措法が2010年5月28日に成立。 6 2010年3月26日、韓国海軍哨戒艦「天安(チョナン)」号が黄海・白(ペンニョン)島の近海で沈没し、乗組員104名のうち46名(6名の行方不明者を含む。)が犠牲となった。5月20日、米国、英国、オーストラリア、スウェーデンの専門家を含む軍民合同調査団は、その調査結果報告において、「天安」号は北朝鮮製魚雷による外部水中爆発によって沈没し、この魚雷は北朝鮮の小型潜水艇から発射されたものであると結論付けた。 7 2010年11月23日、北朝鮮は海洋上の軍事境界線である北方限界線(NLL)に近接した海域に位置する韓国の延坪島に向けて砲撃を行った。これにより、韓国軍人2名が死亡、15名が重軽傷を負っただけでなく、民間人2名が死亡し、3名が負傷した。 8 2006年7月5日の北朝鮮によるミサイル発射を受け、万景峰(マンギョンボン)92号の入港禁止を含む9項目の対北朝鮮措置を即日実施し、同年10月9日の北朝鮮による核実験実施の発表を受け、同11日、全ての北朝鮮籍船の入港禁止及び北朝鮮からの輸入禁止を含む4項目の対北朝鮮措置を発表した。2009年には、4月5日の北朝鮮によるミサイル発射を受け、同10日に@北朝鮮を仕向地とする支払手段などの携帯輸出について届出を要する下限額を100万円超から30万円超に引き下げること、A北朝鮮に住所などを有する自然人などに対する支払について報告を要する下限額を現行の3,000万円超から1,000万円超に引き下げることを発表した。また、2009年5月25日の北朝鮮による核実験実施発表を受け、6月16日に@北朝鮮に向けた全ての品目の輸出を禁止、A「北朝鮮の貿易・金融措置に違反し刑の確定した外国人船員の上陸」及び「そのような刑の確定した在日外国人の北朝鮮を渡航先とした再入国」を原則として許可しないことを発表した。さらに、6月13日に採択された国連安保理決議第1874号を受け、7月6日に@北朝鮮の核関連、弾道ミサイル又はその他の大量破壊兵器関連の計画などに貢献し得る活動に寄与する目的で行う資産移転などの防止及びA北朝鮮の拡散上機微な核活動などに係る専門教育・訓練の防止などを発表した。2010年5月28日には、日本が実施する貨物検査などに関する特別措置法案が成立するとともに、韓国の哨戒艦沈没事件を受け、@北朝鮮を仕向地とする支払手段などの携帯輸出について、届出を要する下限額を30万円超から10万円超に引き下げること、A北朝鮮に住所などを有する自然人などに対する支払について報告を要する下限額を1,000万円超から300万円超に引き下げること、B措置の執行に当たり、第三国を経由する迂(う)回輸出入などを防ぐため、関係省庁間の連携を一層緊密にし、更に厳格に対応していくことを発表した。@及びAについては、2009年4月10日に、北朝鮮のミサイル発射を受けて発表された措置を更に厳格化したもの。 9 日本政府は累次の安保理決議に基づく措置を着実に実施してきている。これに加え、2012年12月のミサイル発射を受けて採択された安保理決議第2087号に基づき、2013年2月6日、同決議で指定された4個人、6団体に対する資産凍結などの措置を新たに講じた。 10 1回目は2011年7月、2回目は同年11月に行われた。 11 外務省声明(2012年4月17日)。 12 韓国政府は、2010年3月の天安艦沈没事件後、宗教や文化の分野における交流は限定的に認めているが、それ以外の南北間の交流や協力は中断している。 13 2012年4月13日及び12月12日の北朝鮮による「人工衛星」と称するミサイル発射を受けて、いずれも同日中に日韓外相電話会談を行い、その後の対応について協議した。 14 2006年3月1日から短期滞在査証免除措置の無期限延長を実施した。また、2005年8月1日から羽田―金浦(キンポ)間の航空便は倍増し、1日8便が運航しているが、2010年10月以降、1日当たり最大12便とすることに合意している。 15 2012年の渡航者数 訪韓邦人数:351万8,792人(日本・国際観光振興機構(JNTO)発表)、訪日韓国人数:204万4,300人(韓国・観光公社(KTO)発表) 16 東日本大震災からの復興のため、青少年交流を通じた日本再生に関する外国の理解増進及び風評被害に対して効果的な情報発信を行うことで日本産品の信頼の回復や向上などを図ることを事業の目的とする。 17 日本国と大韓民国との間の紛争の解決に関する交換公文(昭和40年条約第30号)抜粋 「……両国政府は、別段の合意がある場合を除くほか、両国間の紛争は、まず、外交上の経路を通じて解決するものとし、これにより解決することができなかった場合は、両国政府が合意する手続に従い、調停によって解決を図るものとする。……」 18 2008年2月、外務省は「竹島 竹島問題を理解するための10のポイント」と題するパンフレットを作成した。現在、日本語、英語、韓国語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ポルトガル語、アラビア語、ロシア語、中国語の10言語版が外務省ホームページで閲覧可能。 19 第二次世界大戦終戦後、日本に残された朝鮮半島出身の方々の遺骨返還問題。韓国政府から返還要請があった遺骨について、可能なものから順次返還を進めている。 20 第二次世界大戦終戦前、様々な経緯で旧南樺太(サハリン)に渡り、終戦後、ソ連による事実上の支配の下、韓国への引揚げの機会が与えられないまま、長期間にわたり、サハリンに残留を余儀なくされた朝鮮半島出身者に対し、日本政府は、一時帰国支援、永住帰国支援を行ってきている。 21 第二次世界大戦時に広島又は長崎に在住して原爆に被爆した後、日本国外で居住している方々に対する支援の問題。これまで日本は、被爆者援護法に基づく手当や被爆者健康手帳などに関連する支援を行ってきている。 22 第二次世界大戦終戦前に日本が設置した日本国外のハンセン病療養所入所者が、「ハンセン病療養所などに対する補償金の支給などに関する法律」に基づく補償金の支払を求めていたが、2006年2月に法律が改正され、新たに国外療養所の元入所者も補償金の支給対象となった。 23 2012年4月の国会議員総選挙の結果を踏まえ、2013年1月現在の各党の議席数は、セヌリ党(与党)154、民主統合党127、進歩正義党7、統合進歩党6、無所属6(計300議席)となっている。 24 投票率は前回(2007年)及び前々回(2002年)の選挙を上回り、75.8%(暫定値)という高い数字を記録。 25 2009年6月に韓米間で合意された「同盟未来ビジョン」は、韓米間の包括的同盟の構築、経済・貿易関係の深化、朝鮮半島の平和的統一の実現、北朝鮮の核、ミサイル計画の破棄と北朝鮮の人権尊重のための協力を含む。