3 科学技術・宇宙外交 科学技術は、国防・経済・産業など様々な分野において国力の源であり、経済成長を支える基盤である。また、2011年8月に閣議決定された「第4期科学技術基本計画」は、科学技術外交の新たな展開の必要性をうたっている。こうした認識の下、日本は世界最高水準の科学技術をいかして、持続可能な成長や、気候変動、防災、感染症、エネルギー、水・食料などの地球規模の課題の解決に向けた外交を推進するとともに、日本と世界の科学技術を発展させるための外交に取り組んでいる。また、宇宙の分野では、宇宙の開発と利用を行う国・機関の増加や民間の参入による活動主体の多様化に伴い、国際的なルール作りや協調・協力が必要になってきている。日本はこうした国際的な活動の場に積極的に参画し、知的貢献に努めている。 (1)各国・地域との科学技術協力 日本は、二国間又は多国間で平和目的のための科学技術分野の協力を推進してきている。二国間では、協力活動の形態や協力により生ずる知的所有権の扱いを定める二国間の協定又は取極を締結している(1)。 2011年はEU、英国など7か国・機関とそれぞれ科学技術協力協定に基づく合同委員会(2)を開催し、科学技術協力の現状、今後の協力の方向性や在り方などを協議した。また、EU及びスペインとの科学技術協力協定がそれぞれ発効した。さらに、著名な日本人科学者や専門家を、オーストリア、フランス、カナダ、トルコ及びシンガポールの5か国に派遣し、日本の優れた科学技術力を紹介するとともに、現地の科学技術関係者とのネットワークを強化する事業を実施した。開発途上国との間では、地球規模の課題に関する共同研究などを進めるためのODA(3)を推進した。 多国間でも協力の推進に努めてきている。例えば、2010年に日本が提案した「東アジア・サイエンス&イノベーション・エリア」構想を推進し、地域に共通した課題の解決に資する研究開発を共同で実施し、人材育成や人材交流を促すとともに、その一環として「e-ASIA共同研究プログラム」の創設を支援している。 また、日本は、分野を特定した多国間協力も実施しており、例えば、熱核融合実験炉を建設・運用する「イーター(ITER)計画」をEU、米国等と共に主導し、イーター機構(本島修機構長)を支援している。6月に青森、11月にカダラッシュ(フランス)でイーター理事会が開催され、参加7か国・機関は東日本大震災の影響を踏まえ、実験炉の運転開始時期を予定より1年遅れの2020年11月とすることで合意した。 毛利日本科学未来館館長による講演会(カナダ) (2)宇宙分野における協力 近年、通信、測位、地球観測等の分野で、宇宙の研究や利用に携わる国が増えている。各国が知見を共有することで、より大きな成果が期待できる一方で、各国の利害が対立する可能性があることから、宇宙分野での国際協力の重要性が増しており、日本は以下のような分野で協力を進めている。 宇宙では、運用を終了した人工衛星などの宇宙ごみ(スペースデブリ)が急増し、宇宙活動の実施に支障が生じつつある。このため、宇宙環境の保全は各国・機関にとり大きな関心事となっている。日本は、国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)(2012年6月に堀川康宇宙航空研究開発機構(JAXA)技術参与が議長に就任予定)における国際協力や法的問題等の議論に積極的に貢献し、宇宙環境の保全などのルールづくりを始めとする主要な議論において主導的な役割を果たしている。また、EUが策定を提唱し、民生及び安全保障の両面に関わる「宇宙活動に関する行動規範案」の作成にも参画している。 9月の米国地球観測衛星「UARS」、10月のドイツX線天文観測衛星「ROSAT」及び2012年1月のロシアの火星探査機「Phobos-Grunt」の大気圏再突入に際しては、米国との連携の下、落下衛星の情報収集に努めた。 衛星測位分野においては、米国のGPS以外にロシア、EU、中国、インド等で衛星測位システムが整備されつつある。日本も実用準天頂衛星システム(4)の構築を推進しており、9月に衛星航法システムに関する国際委員会(ICG)第6回会合を東京で開催した。今後も衛星測位に関する協調・協力に関し、関係各国間で協議を継続していく予定である。 日米間ではGPSに関して定期的な協議を継続している。また、9月の日米外相会談において、日米間の宇宙開発利用協力の実施手続を簡素化し、協力を拡大すべく、日米宇宙枠組協定の締結交渉を開始することが合意された。 また、日本は、人工衛星を含む宇宙システムのパッケージ型海外展開を官民が一体となって推進している。2011年は、日本企業がトルコ国営衛星通信会社から通信衛星を受注した。ベトナムには、日本政府が地球観測衛星の調達、衛星運用開発に関する施設の建設及び機材整備に対し、円借款を供与した。 1 日本は、32の科学技術協力協定を署名又は締結しており、47か国・機関に適用されている。 2 2011年は、ポーランド、オランダ、EU、ベトナム、イタリア、ウクライナ、英国との間で合同委員会を開催した。 3 開発途上国のニーズを踏まえ、外務省、文部科学省、JICA、科学技術振興機構(JST)が連携し、対象国・地域の大学・研究機関と環境・エネルギー、生物資源、防災、感染症対策などの分野で共同研究や能力向上支援を行う「地球規模課題対応国際科学技術協力事業」を実施するとともに、外務省、文部科学省、JICA、日本学術振興会(JSPS)が連携し、対象国・地域の人材育成を目的として、当該国・地域の大学・研究機関等へ科学技術全般の分野で共同研究を行う日本側研究者を派遣する「科学技術研究員派遣事業」を実施している。 4 日本のほぼ真上(天頂)を通る軌道を持つ衛星システム。山間部や都市部の高層ビル街などでの測位可能時間を延長するほか、GPS測位の精度と信頼性を向上させる機能等を提供。日本は、2010年代後半をめどにまずは4機体制を整備し、将来的には、持続測位が可能となる7機体制を目指すことを9月に閣議決定した。