2 海外における日本企業への支援 (1)日本企業支援の取組 ア 日本企業支援窓口 外務省は、政府間の協議・交渉を通じたビジネス環境の整備に加え、民間企業から寄せられた個別の照会や相談に応じるため、1999年から「日本企業支援窓口」を全ての在外公館に設置するとともに、2006年からはアジアに所在する一部の公館に「日本企業支援センター」4を設置し、現地の日本企業からの問い合わせや要望に積極的に対応している。例えば、現地の情報提供、人脈形成への協力を始め、必要に応じて現地政府に対する行政・司法手続の是正などに関する申入れを行うとともに、ビジネス環境の改善・広報支援といった種々の支援を行っている。 また、最近では、在外公館において日本企業と共催でレセプションを開催するなど、在外公館の施設を活用した日本企業支援にも積極的に取り組んでいる。具体例としては、日本企業の製品紹介のためのワークショップや展示会の開催、日本料理や日本酒の専門家による講習会の実施など、多彩な取組を行っている。 シンガポールで開催された和食を紹介するイベント(2011年2月25日〜27日 シンガポール) イ 投資協定/租税条約/社会保障協定の活用 (ア)投資協定 投資の保護、促進及び自由化について規定する投資協定は、日本企業の海外での活動を支援する効果がある。政府は、より戦略的な優先順位をもって投資協定の交渉・締結方針を検討していくことを目的とし、政府・民間団体・関係機関が意見交換を行うための場として、2008年に対外投資戦略会議を設置した。同会議は、これまで3回の本会議に加え、より具体的な内容について議論を行う連絡会議を7回開催した。同会議では、海外展開する日本企業を支援するためのビジネス環境の整備や投資協定の活用についての意見交換も行われ、投資促進の方法を官民で包括的に検討していく枠組みとして引き続き活用される予定である。 (イ)租税条約 経済のグローバル化の進展に伴い、日本企業や投資家による国際的な経済活動の規模が拡大する中、これらの企業や投資家が、より制約の少ない経済活動を展開できる環境を整備する必要性が高まっている。日本は以前から二重課税の回避などを目的とした租税条約を各国と締結しており、投資交流を促進するという観点から租税条約ネットワークの更なる拡充を図っている。 (ウ)社会保障協定 社会保障協定は、保険料の二重負担の問題や保険料掛け捨ての問題などの解消を目的とする協定である。社会保障協定の締結は、海外へ進出する日本企業や国民の負担を軽減し得るものである。また、相手国との間の人的交流や経済交流を一層促進する効果なども期待されることから、日本は、相手国の社会保障制度の成熟度や日本にとっての必要性なども踏まえつつ、今後も優先度の高い国から順次締結交渉を行っていく考えである。 (エ)経済連携協定(EPA) 日本が締結しているEPAには、協定全般を扱う合同委員会や、ビジネス環境の整備などの分野ごとに多くの小委員会の設置が規定されており、海外に進出している日本企業の要望などを踏まえ、EPAの活用、運用改善などに取り組むとともに、協定の運用状況について定期的に見直すこととなっている。 (2)模倣品・海賊版対策 模倣品・海賊版は、技術革新などを妨げ、世界の経済成長に悪影響を及ぼすだけでなく、消費者の健康や安全まで脅かしている。日本企業も、海外市場における潜在的な利益の喪失を被るなど、深刻な悪影響を受けている。 このため、外務省は、知的財産戦略本部において毎年策定される「知的財産推進計画」に沿って、様々な機会を捉えて知的財産権の保護強化及び模倣品・海賊版対策に関する施策に取り組んでいる。例えば、2005年3月以降、全ての在外公館において知的財産担当官を任命し、模倣品・海賊版被害を受けている日本企業を迅速かつ効果的に支援することを目的として、日本企業への助言や相手国政府への照会、働きかけなどを行っている。日本企業から在外公館への相談内容は外務本省に報告され、必要に応じて二国間及び多国間協議(第3章第3節4(3)「知的財産権保護の強化」を参照)の場で取上げられるなど、外国政府への更なる働きかけが行われている。また、知的財産担当官の能力向上を図り、知財侵害対策をより一層深めるために、日本企業の模倣品・海賊版被害の多い地域を中心に知的財産担当官会議5を開催している。さらに、相手国政府職員向けに日本企業が主催する、知的財産権保護セミナーへの支援などの取組も行われている。 その他、模倣品・海賊版対策における開発途上国の政府職員などの能力向上を図るため、JICAを通じて、専門家派遣、研修員受入れなど、技術協力を行っている。 (3)ビジネス環境改善、貿易・投資の円滑化 日本は、主要な貿易・投資相手国との間で、ビジネス環境の改善などのための協議を行っている。 例えば、EUとの間では、1994年に開始した「日・EU規制改革対話」を通じ、互いに規制改革及び規制協力に関する提案を交換・協議することにより、ビジネス環境の改善を通じた貿易・投資の促進を図っている。EUに対しては、在欧州日本企業や関係団体などから広く募った意見を踏まえて提案を行っており、例えば2010年は、非EU信用格付会社関連の規制を含む金融サービスの他、知的財産権や情報通信技術に関する規制などに関する要望を提起している。 米国との間では、11月、横浜APEC首脳会議の機会に行われた日米首脳会談を受け、「日米経済調和対話」が立ち上げられた。本対話は、貿易の円滑化、ビジネス環境の整備、個別案件への対応、共通の関心を有する地域の課題などについて、日米両国が協力をして取り組んでいくために開催するものであり、これにより両国の取組の調和を促し、両国の経済成長に貢献することを目指している。2011年2月には、東京において事務レベル会合を開催した。 中国との間では、8月の「第3回日中ハイレベル経済対話」などの場において、知的財産の保護強化、レアアースの輸出規制の改善を含む、貿易、投資上の諸課題に関する要望を中国側に提起し、協議を行った。 4 現在5公館(在モンゴル大使館、在タイ大使館、在インド大使館、在広州総領事館、在ホーチミン総領事館)に設置。センター設置により企業からの照会、相談への対応を強化し、企業支援体制を一層充実させた。 5 2011年1月には、ニューデリーで南アジア(インド、スリランカ、ネパール、パキスタン、バングラデシュ)の知的財産担当官を対象とした知的財産担当官会議を開催した。