各 論 1 外交実施体制の整備 (1)機動的な外交の促進(在外公館タスクフォースと新興国外交を含む) 外務省は、限られた資源を優先度の高い業務に投入し、国内外の情勢変化に応じた機動的な外交を進めるため、外交実施体制の整備に取り組んでいる。 近年、いわゆる新興国が台頭し、国際社会における影響力を増している。先進主要国と新興国によるG20サミットが定期的に開催されることとなった他、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の首脳会合やIBSA(インド、ブラジル、南アフリカ)の首脳・外相会合などが定期的に開催されるなど、新興国間の連携も強まっている。新興国の台頭は、政治・経済の両面で国際関係に影響を与えており、国連改革、核軍縮・不拡散、環境・気候変動、世界貿易機関(WTO)ドーハ・ラウンドなどでの交渉を通じた地球規模の課題に対処する上で、これら新興国との協力は欠かせない。こうした動向に的確に対応し、積極的な新興国外交を展開する必要があるとの認識を踏まえ、8月に外務省総合外交政策局内に「新興国外交推進室」を設置した。 また、外務省は、日本経済の回復に向けた経済外交の推進を日本外交の柱の一つとして据えている。第3章第3節「経済外交」で詳説したように、経済外交の「五つの柱」の取組を推進すべく、12月に省内に前原外務大臣を本部長とする経済外交推進本部を立ち上げるとともに、在外公館においてインフラプロジェクト専門官の指名を行うなどの体制整備を進めている。 在外公館は、海外において国を代表するとともに、情報収集、邦人保護、外交関係促進などの分野で重要な役割を果たす外交の基盤インフラである。2010年度末の日本の在外公館(実館)数は、203公館(大使館133、総領事館63、政府代表部7)であり、この数は、米国の266公館、中国の246公館と比べると依然として少ないが、2010年度においては、政府全体の予算の見直し方針を踏まえ、在外公館の新設を行わなかった。しかし、日本の国益増進のためには外交実施体制の強化が引き続き不可欠との考えの下、6月以降外務省において在外公館タスクフォースを開催し、事業仕分けや行政事業レビューの結果も踏まえながら、今後の在外公館の在り方に関する検討を行い、8月にその結果を今後の方針として発表した。この方針に基づき、2011年度は、新たに在ジブチ大使館、東南アジア諸国連合(ASEAN)日本政府代表部及び西安出張駐在官事務所を設置する予定である。また、より効果的かつ効率的な体制を目指し、新興国、資源国、新設公館所在国などへの人員再配置に取り組んでいる。 定員については、2010年度においては、重点外交政策などに沿った事項に基づき本省及び在外公館で計37人の増員を行い、定員数は合計5,740人(外務本省2,186人、在外公館3,554人)となった。この人員数は、例えば、英国、ドイツの約7,000人の体制と比較していまだ十分とは言えないため、政府全体での厳しい予算・定員事情の中で、今後も事務合理化による定員の再配置も進めつつ、人員体制の整備を行っていく。なお、2011年度においては、合計24人(外務本省14人、在外公館10人)の定員の増員を行う予定である。 以上のような外交実施体制を支えるため、外務省は、2010年度予算において、@平和構築・テロ対策、貧困の根絶と国家の再建、A環境・気候変動問題への対応、Bアジア太平洋外交の推進、C核軍縮・不拡散に向けた努力、D国連外交を重要外交課題と位置付け、6,572億円(対前年度比1.9%減)を計上した。 また、2010年度の第2次補正予算では、経済対策を推進するための経費(@政府開発援助(ODA)を活用したインフラ海外展開の基盤整備支援、日本の環境・エネルギー技術の海外展開支援、A新成長戦略のための海外PR、ブランド戦略の強化)、追加財政需要に対応するための経費(アフガニスタン支援、世界エイズ・結核・マラリア対策基金への拠出金、アフリカなどにおける災害対策などを含む人道支援など)として総額2,071億円を計上し、緊急性が高い項目に対応した。 外務省としては、2011年度も政府全体の予算編成方針にのっとって、引き続き、更なる合理化努力を行いつつ、他の主要国に劣らぬ外交実施体制の水準を確保できるように努めていきたいと考えている。 在外公館タスクフォースの検討結果(2010年8月) 1 日本が承認している国は192か国であるのに対し、大使館を設置している国は133か国。この数は、他の主要国と比べると依然として少ない。日本の外交プレゼンス強化のために2015年までに主要国並みの体制の構築を目指し、その一環として、2011年度は在ジブチ大使館とASEAN代表部の新設要求を行う。 2 邦人数や日系企業数が増加している中国やインドなどの新興国においては、総領事館などによる支援の拡充が必要となっている。そのようなニーズの増大に対応するため、新興国における在外公館の体制を強化する。 3 より効果的かつ効率的な人員配置を目指し、これまで以上に、新興国などに人的資源を投入する。 4 厳しい財政状況を踏まえ、既存の在外公館のニーズを見直し、ニーズの減少が見られる公館については体制のスリム化などを行う。また、在外公館の新設に要する経費は、可能な限り既存の経費を縮減して捻出するとともに、必要に応じて新規に予算要求も行う。 5 在外公館の拠点としての性格を強化すべく、JICA、国際交流基金、日本貿易振興会(JETRO)などの他の政府関係機関の在外事務所との連携を強化し、オールジャパンとしての取組を一層促進する。また、「新成長戦略」の下、原子力を始めとするエネルギーや新幹線などのインフラ整備支援に官民と関係省庁・期間が連携して取り組み、重点国を中心に在外公館に「インフラプロジェクト専門官」を指名する。 主要国との在外公館数・職員数比較 2010年度重要外交課題関連予算 (単位:億円) 1.平和構築・テロ対策、貧困の根絶と国家の再建 2,182.1  @ 平和構築・テロ対策 530.7  A ミレニアム開発目標(MDGs)の達成・人間の安全保障の推進 1,651.4 2.環境・気候変動問題への対応 486.5  @ 地球温暖化対策の推進、環境分野などの技術革新で世界をリード 466  A エネルギーの安定供給体制の確立 20.5 3.アジア太平洋外交の推進 742.1  @ 2010年日本APECの成功に向けた取組強化 97.1  A アジア太平洋外交の推進 645 4.核軍縮・不拡散に向けた努力 103.2  @ 核兵器廃絶に向けた努力 83.8  A 大量破壊兵器問題への対応 19.5 5.国連外交 695.9  @ 国連を重視した世界平和の構築の推進 445.2  A 国連平和維持活動(PKO)を通じた平和構築 250.7 2010年度外務省所管予算(2010年1月現在) (2)国民の理解と支持の下に進める外交(事業仕分け・行政事業レビュー・いわゆる「密約」問題に関する調査) 民主国家における外交の基盤は国民の理解と支持にあり、それがあって初めて外交は力強さを備えることができる。そのような認識の下、外務省においては事業仕分け、行政事業レビューなどを通じて着実に予算の節約を進めるとともに、いわゆる「密約」をめぐる問題についての調査、外交記録公開の推進を行った。 2010年4月、5月に実施された、独立行政法人・公益法人を対象とした事業仕分け第2弾においては、外務省が所管する2独立行政法人(JICA・国際交流基金)、3公益法人(国際協力推進協会(APIC)、日本国際協力センター(JICE)、国際開発高等教育機構(FACID))が、11月の事業仕分け第3弾においては、青年海外協力隊事業、JICAの取引契約関係、国際機関職員派遣信託基金(JPO)拠出金の3件が対象となった。いずれについても指摘事項を着実にフォローアップするとともに、事業仕分けの結果を踏まえ、2011年度予算に削減額を反映した。 2010年4月から6月に実施した行政事業レビューにおいては、外務省が所管する約700事業を対象に、計11回、26時間にも及ぶ、全部局を対象とした徹底したレビューを行い、結果を平成23年度予算に反映した。 2010年には、いわゆる「密約」問題を契機として、外交記録公開に関して大きな進展が見られた。いわゆる「密約」については、外務省内の調査チームが約4,500冊のファイルを調査した結果、2010年3月に、4点の「密約」の存否・内容に関する報告書が提出された。さらに、同報告書を検証した「いわゆる『密約』問題に関する有識者報告書」で、外交記録公開及び文書管理について改善する必要があるとの指摘があったことを受け、外交記録公開・文書管理対策本部を立ち上げた他、外交記録公開の円滑かつ迅速な実施を推進する目的で、外部有識者を含めた委員から構成される外交記録公開推進委員会を設置した(委員長:西村外務大臣政務官(第1回会合)、山花外務大臣政務官(第2回・第3回会合)。さらに、7月には情報公開と外交記録公開の連携・調整を強めつつ、適切な文書管理体制を整え、外交記録公開を進めていくことを目的として、省内の文書担当部門を統合した「外交記録・情報公開室」が発足した。 こうした体制面での整備を踏まえて、作成・取得から30年以上経たファイルは原則として公開するとの方針の下、6月、10月及び12月と外交記録公開推進委員会を3度にわたって開催し、外交記録公開の方針や公開優先順位、公開のスケジュールに関する検討を行った他、沖縄返還交渉や日米安全保障条約改定交渉関連を含む約1,500冊の外交文書ファイルの公開を承認した。承認を得たファイルは外交史料館において順次公開を行っている。