4 国際社会の安定に向けた取組 (1)国際連合(国連) ア 概観 2010年9月に開会した第65回国連総会には、菅総理大臣及び就任直後の前原外務大臣が出席した。菅総理大臣は一般討論演説において、国際社会が直面する課題を解決するために、「最小不幸社会」の理念を踏まえ、「開発途上国支援」、「地球環境」、「核軍縮・不拡散」、「平和維持・平和構築」の4分野において具体的な貢献を行う意思がある旨表明した。また、菅総理大臣は、実効的かつ効果的な国連の実現が必要である旨述べ、安全保障理事会が実効性を備えた機関であるためには、今日の国際社会を反映した、正統性を持つものでなければならず、改革が不可欠であるとの考えを示し、常任理事国として一層の責任を果たしたいとの決意を表明した。菅総理大臣は、一般討論演説を行った他、国際の平和と安全の維持における安保理の効果的役割に関する安保理首脳会合、ミレニアム開発目標(MDGs)国連首脳会合及び小島嶼(しょ)国開発ハイレベル会合開会式においても演説し、さらに、ダイス第65回国連総会議長、潘基文(パンギムン)国連事務総長、ラフモン・タジキスタン大統領、バトボルド・モンゴル首相などと会談を行った。前原外務大臣は、MDGs国連首脳会合ラウンド・テーブル、生物多様性ハイレベル会合、核軍縮・不拡散に関する外相会合、ソマリア・ハイレベル会合、安保理改革に関するG4外相会合、気候変動に関する閣僚級会合、G8外相会合などに出席した他、潘基文国連事務総長、クリントン米国国務長官、アシュトンEU外務・安全保障政策上級代表、ヘーグ英国外相などと会談を行った。 日本は、2009年1月から2年間の任期で安保理非常任理事国を務め、北朝鮮情勢、アフガニスタン情勢、イランの核問題など、国際の平和と安全の維持に関わる議論に力を発揮してきた。2010年4月には、日本が安保理議長国として、岡田外務大臣が議長を務め、「紛争後の平和構築」に関する安保理公開討論を開催し、安保理理事国の他、29の国・機関の参加を得て、平和構築戦略に関する包括的な議論を主導した。このように、日本は安保理理事国として、安保理における議論に積極的に参加してきており、今後も常任理事国を目指す国としてふさわしい役割を果たすことを通じ、安保理改革及び日本の常任理事国入りの早期実現に向けた機運をより一層高めていく考えである。 国連からの要人の来日については、8月に、潘基文国連事務総長が外務省賓客として来日し、菅総理大臣、岡田外務大臣との会談などを行った他、歴代の国連事務総長としては初めて、広島での平和記念式典への出席及び長崎訪問を行い、核兵器のない世界に向けた力強いメッセージを発信するとともに、地球規模の課題の解決に向けた日本と国連の協力関係を確認した。また、10月にはダイス第65回国連総会議長が同じく外務省賓客として来日し、菅総理大臣への表敬、前原外務大臣との会談などを行った他、生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)に出席した。また、広島では、広島及び長崎の「非核特使」との対話を行った。 第65回国連総会出席時の菅総理大臣(左)と潘基文(パンギムン)国連事務総長(9月24日、米国・ニューヨーク 写真提供:内閣広報室) イ 安全保障理事会(安保理)、安保理改革 (ア)安全保障理事会 安保理による国際の平和と安全の維持のための活動は、特に冷戦の終結以降、@PKOの設立、A多国籍軍の承認、Bテロ対策、不拡散に関する措置の促進、C制裁措置の決定など多岐にわたっている。安保理決議に基づくPKOや多国籍軍の活動(ゴラン高原、東ティモール、アフガニスタンなど)は多様さを増しており、その他にも大量破壊兵器の拡散、テロなどの新たな脅威への対処など、国際社会における平和と安全の確保のため、安保理が果たす役割は拡大している。 日本は、2008年10月に行われた安保理非常任理事国選挙において、加盟国中最多となる10回目の当選を果たし、2009年1月から2010年12月までの2年間、安保理非常任理事国を務めた。 (イ)安保理改革 安保理の構成は、その役割の拡大にもかかわらず、国連発足後65年がたつ現在も、基本的には変化していない。このような状況の中、国際社会では、安保理の「代表性改善」と「実効性向上」の二つの側面から、その構成を早期に改革すべきとの認識が共有されている。 日本は、常任・非常任議席双方の拡大を通じた安保理改革の早期実現と、日本の常任理事国入りを国連外交の最も重要な課題の一つと位置付け、@安保理理事国の構成を、今日の国際社会をより正確に反映し、国際社会を代表するにふさわしいものに改めること、また、A国際の平和と安全の維持に主要な役割を果たす意思と能力のある国が常任理事国となり、常に安保理の意思決定に参加することが必要であるとの立場を主張している。 日本はこれまでも平和の定着や国づくり、人間の安全保障、軍縮・不拡散などの様々な分野において国際社会への貢献を行ってきている。また、財政面における国連への貢献も世界第2位と極めて大きい。日本が常任理事国となることにより、安保理への信頼が向上し、国際社会の安定が増進されるとともに、日本が主要な国際問題に関する意思決定過程に深く、恒常的に関わることが可能となり、日本の国益をより一層効果的に確保することができる。 @G4外相会合 2010年9月24日、前原外務大臣は、安保理改革の早期実現のための政治的機運を高めることをねらいとして、安保理改革に関するG4(日本、ブラジル、ドイツ、インド)外相会合を開催し、同会合の議長を務めた。各国の大臣は、安保理が国際社会における正統性と実効性を引き続き維持するためには、@早期の安保理改革が不可欠であること、そのためにはAG4の結束が重要であること、また、B2011年9月までの第65回国連総会会期中に安保理改革についての具体的な成果を出すべく協力していくことで一致した。 A国連における動き 2010年9月の国連総会一般討論演説において、約100か国の首脳・外相などが安保理改革の必要性について発言を行った。国連総会非公式本会議においては2009年2月から安保理改革に関する政府間交渉が開始されており、第64回国連総会会期(〜2010年9月)までに、合計5ラウンドにわたり、国連加盟国間で議論が行われた。2010年5月、各国の見解を統合した文書を議長が提示し、交渉は新たな段階を迎えた。2010年9月からの第65回国連総会会期においても、同様の政府間交渉の第6ラウンドが開始され、改革の実現に向け、引き続き議論が行われている。 ウ 国連行財政 (ア)国連予算 国連の活動を支える予算は、各国に義務的に割り当てられる分担金(通常予算、PKO予算並びに旧ユーゴスラビア及びルワンダ国際刑事裁判所予算)と各国が政策的に拠出する任意拠出金から構成されている。2010/2011年度の国連通常予算33は、安全・保安に関する予算や特別政治ミッションに関わる経費増が承認された結果、2か年で約51.6億米ドル(前年度比約6%増)となり、過去最大規模となった。また、PKO予算については、2010/2011年度(7月〜翌年6月の単年予算)は、約72.4億米ドル(前年度比約6%減)となったが、年間ベースで通常予算の約3倍の規模で推移している。 日本は、厳しい財政事情の中、2010年国連通常予算分担金は約2.7億米ドル、2009年国連PKO予算分担金は約9.5億米ドルと、加盟国中2番目の財政貢献を行っており、主要財政負担国として、国連が限られた予算をより一層効率的かつ効果的に活用するよう働きかけを行っている。 (イ)当面の課題 2009年12月に決定した2010/2012年の国連通常予算分担率には、各国の経済規模の変化が反映され、日本の分担率は従来から約4ポイント減少し、12.530%となったが、日本は、引き続き加盟国中第2位の分担率を維持している。国際機関への財政貢献は、国際社会における日本の存在感と信頼を高め、日本自身の安全と繁栄の確保につながるものである。また、日本としては、国連通常予算分担率は支払能力の原則に基づき、新興国の経済成長などの世界経済の発展に応じた、より適切なものとなることが重要と考えている。 エ 国際機関で働く日本人 地球規模の課題への対応が国際社会にとってますます重要になっている中で、国際機関は重要な役割を果たしており、国連などの国際機関で働く職員の任務と責任も重要なものになっている。日本としては、国際機関において、人的資源の面で積極的な貢献を行っていくことが重要であると考えており、国際機関における日本人職員を増強するために取り組んでいる。 具体的には、国際機関で働くことを志望する者を政府の経費負担で、国際機関に派遣するJPO(Junior Professional Officer)派遣制度34の実施、国際機関による採用ミッションの招致、国連職員採用競争試験35の日本での実施、日本人職員の採用・昇進のための国際機関への働きかけなどを行っている。こうした取組の結果、国連関係機関の日本人職員(専門職)は736名(2010年)となり、2001年の485名から約5割増加している。また、選挙で選出された国際機関の長36などを始めとする幹部職員の数は、2001年の54名から67名と約2割増加している(図表「国連関係機関に勤務する日本人職員数の推移(専門職以上)」参照)。これら日本人職員は、国際機関本部に加え、イラク周辺やアフガニスタンなどの紛争地域、日本を含むアジアやアフリカなどの国々で、様々な分野において活躍している37。なお、国連の派遣するPKOミッションや政治ミッションにおける日本人職員(専門職)は31名(2010年9月末時点)である。外務省は、人材発掘や国際機関への働きかけなどを通じ、日本人職員の増強に取り組んでいくこととしている。 国連通常予算分担金の推移(支出純額) 2010年国連通常予算分担率 2010年PKO予算分担率 順位 国名 分担率(%) 順位 国名 分担率(%) 1 米国 22.000 1 米国 27.1743 2 日本 12.530 2 日本 12.5300 3 ドイツ 8.018 3 英国 8.1572 4 英国 6.604 4 ドイツ 8.0180 5 フランス 6.123 5 フランス 7.5631 6 イタリア 4.999 6 イタリア 4.9990 7 カナダ 3.207 7 中国 3.9390 8 中国 3.189 8 カナダ 3.2070 9 スペイン 3.177 9 スペイン 3.1770 10 メキシコ 2.356 10 韓国 2.2600 国連関係機関に勤務する日本人職員数の推移(専門職以上) (2)国際社会における「法の支配」 ア 「法の支配」の確立に向けた取組 国際社会における「法の支配」の第一の側面である国際ルールの形成においては、日本として、その構想段階から積極的に参画し、日本の理念や主張を反映させていくことが重要である。日本は、国連国際法委員会(ILC)及び国連第6委員会における国際法の法典化作業、ハーグ国際私法会議(HCCH)などにおける国際私法分野の条約作成作業といった、各種の国際的枠組みにおけるルール形成に積極的に参加している。また、アジア・アフリカ法律諮問委員会(AALCO)や欧州評議会における国際公法法律顧問委員会(CAHDI)といった地域の国際法フォーラムにも貢献している。 このようにして形成された国際ルールを実施し、紛争を国際法に基づき平和的に解決することが、「法の支配」の第二の側面を構成している。日本が締結した国際約束を適切に実施することは、日本外交の継続性と一貫性を維持し、日本外交に対する信頼感を高める重要な意義を有する。また、日本は、国際法に基づく紛争の解決を重視し、国際裁判所に対しては、国際司法裁判所(ICJ)、国際刑事裁判所(ICC)及び国際海洋法裁判所(ITLOS)に裁判官を輩出するなど、人材面を含む支援を通じて、その実効性と普遍性の向上に努めている。 さらに、日本は、アジア諸国を中心とした諸国への法制度整備支援のように「法の支配」に関する国際協力に積極的に取り組んでいる。これらの支援を通じて人間の安全保障(第3章第2節1「日本の国際協力」参照)の強化にも貢献している。 イ 刑事分野における取組 日本は、国際社会の関心事である最も重大な犯罪(集団殺害犯罪など)を犯した個人を、国際法に基づいて訴追・処罰する世界初の常設国際刑事法廷であるICCに対し、2007年10月の加盟以来、様々な貢献を行っている。日本はICCの最大の財政貢献国であり、尾赴v仁子判事を始め、人材面でも貢献している。 5月から6月に開催されたICCローマ規程検討会議では、第二次世界大戦以降長らく議論されてきた侵略犯罪の法典化が達成された。この会議においては、国家の侵略行為の存在を認定する国連安保理の権限と、個人の侵略犯罪に関するICCの管轄権行使との関係を始め、議論が政治的意見の対立に流される場面も多かったが、日本としてはICCローマ規程の厳格な法的解釈の必要性を主張し、法的論点を整理した上で解決策を提示するよう努めた。この会議で採択された改正規定におけるICCが管轄権を行使するための条件は、各国の意見の相違も反映し、極めて複雑で他に例を見ない特殊な規定となっている。なお、侵略犯罪をめぐりICCが実際に侵略犯罪に関して管轄権を行使するようになるのは早くても2017年以降とされている。 また、日本は、近年の国境を越えた犯罪の増加を受け、刑事司法分野における国際協力を推進する法的枠組みの整備に積極的に取り組んでいる。必要な証拠の提供などを一層確実に行えるようにするとともに、刑事事件の捜査及び手続の効率化及び迅速化を可能とする刑事共助条約(協定)の締結は、そうした取組の一例である。最近では、EUとの間で2011年1月2日に、ロシアとの間で2月11日に条約(協定)が発効した。 ウ 日本の外交・安全保障の基盤の枠組みの構築 日本の外交・安全保障の基盤を強化するためには、日米安全保障条約の円滑かつ効果的な運用が引き続き重要である。こうした観点から、現在、在日米軍駐留経費負担に係る新たな特別協定締結のための作業を進めている(2011年1月21日に署名)。また、東アジアの安全保障環境を整備する観点から、重要課題である日朝国交正常化や日露平和条約の締結などに向けた交渉に引き続き取り組んでいる。テロとの闘いも、日本の平和と安全の確保に当たって重要な課題である。日本は、テロに対して断固とした姿勢をとってきており、テロを防止・根絶するための国際的な枠組みの構築に取り組んでいる。その一環として、2010年9月に採択された国際民間航空不法行為防止条約(北京条約)及び航空機不法奪取防止条約追加議定書(北京議定書)に関する交渉に参画した。 エ 海洋を巡る諸問題 海洋国家である日本にとって、正当な海洋権益の確保は国の根幹に関わる問題であり、国連海洋法条約を始めとする海洋の国際法秩序の発展が日本の国益を守っていく上でも重要である。このような立場から、日本は国際海洋法裁判所(ITLOS)の役割を重視しており、裁判官の輩出(現在は柳井俊二判事)や財政面での貢献を通じて同裁判所の活動を支えている。 日本は、中国との間で排他的経済水域(EEZ)・大陸棚の境界が未画定である東シナ海において、資源開発についての協力に関する国際約束の締結に向けて中国側に働きかけている。また、韓国との間でも、EEZの境界画定交渉及び海洋の科学的調査に係る暫定的な協力の枠組み交渉を継続しており、これらの問題について、一貫して国連海洋法条約を始めとする国際法にのっとった解決を目指している。 オ 経済・社会分野における取組 貿易・投資の自由化及び人的交流の促進、日本国民・企業の海外における活動の基盤整備などの観点から、諸外国との間で経済面での協力関係を法的に規律する国際約束の締結・実施がますます重要となっている。2010年には、各国・地域との間で租税条約、社会保障協定、航空協定などを締結した他、インド及びペルーとの間で経済連携協定(EPA)の締結交渉が実質合意に至った。多国間の枠組みにおいても、再生可能エネルギーの利用促進、関連産業の国際競争力強化などの観点から、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)憲章を締結し、同機関の加盟国となった。 国民生活に大きな影響を及ぼす環境、人権などの分野においては、国際社会全体にとって有益な国際ルールの形成が求められており、日本の立場が反映されるよう交渉への積極的な参画が求められる。2010年には、生物多様性条約第10回締約国会議(於:名古屋)において日本は議長国として交渉を主導し、遺伝資源へのアクセス及び公正かつ衡平な利益配分(ABS)に関する名古屋議定書などが採択されるに至った他、気候変動に関する2013年以降の枠組みに係る交渉においても、全ての主要国が参加する公平かつ実効性のある包括的な国際的枠組みの構築に向けて努力している。 (3)人権 ア 国連における取組 (ア)国連人権理事会(HRC) 人権理事会は、国連の人権問題に対する対処能力の強化を目的に、2006年の国連総会決議により、従来の人権委員会に替えて新たに設立された国連総会の下部機関である。1年を通じて定期的に会合(少なくとも年3回、合計10週間以上)が開催され、人権及び基本的自由の保護促進に向けて、審議・勧告などを行う。また、全国連加盟国の人権状況を定期的に審査する、普遍的・定期的レビュー(UPR)を実施している。 2010年は、3月の第13回人権理事会ハイレベルセグメントに西村智奈美外務大臣政務官が出席し、新政権の人権分野での取組や人権理事会理事国としての日本の取組などについて紹介した。また、同理事会において、日本は北朝鮮の人権状況について調査・報告を行う北朝鮮人権状況特別報告者の任務を延長する決議案をEUと共同で提出し、賛成多数で採択された。9月の第15回人権理事会においては、それに先立つカンボジア政府との建設的な対話と協力を経て、同国の人権状況に関する協力決議案を提出し、全会一致で採択された。また、同人権理事会においては、日本が提出したハンセン病差別撤廃決議案が全会一致により採択された。この決議は、各国政府に対してハンセン病差別撤廃のための原則及びガイドラインに十分な考慮を払うよう促すことを主な内容とするものである。 なお、2006年に国連総会で採択された人権理事会の創設に関する決議は、国連総会は5年以内に人権理事会の地位を見直すこと、及び人権理事会はその創設から5年後にその作業及び機能について見直すことを規定している。2011年は創設5年目に当たることから、人権理事会見直しの議論が本格的に行われ、日本は、人権理事会が世界の人権状況改善のためにより効果的かつ機動的に対処し得るように、議論に積極的に貢献している。 国連人権理事会におけるハイチ復興プロセスに関する特別セッション(1月27日、スイス・ジュネーブ 写真提供:UN Photo / Jean-Marc Ferre) (イ)国連総会第3委員会 国連総会第3委員会は、国連総会の下部機関として設置されている6つの主要委員会のうちの1つであり、人権理事会と並ぶ国連の主要な人権フォーラムである。同委員会は社会開発、犯罪防止・刑事司法、女性、児童、青年、高齢者、人権、人種差別、難民と幅広いテーマを取り扱う。これらの人権・社会問題に関するテーマ別の決議は、第3委員会で採択された後、総会本会議に提出され、国際社会の意思や規範形成に寄与している。 10月から11月にかけて、ニューヨークで開催された第65回国連総会第3委員会において、日本はEUと共同で北朝鮮人権状況決議案を提出した他、主提案国として初めてハンセン病差別撤廃決議案を提出した。 北朝鮮人権状況決議は、6年連続で国連総会第3委員会及び12月の国連総会本会議で賛成多数で採択された。この決議は、北朝鮮における組織的で広範かつ重大な人権侵害に対して極めて深刻な懸念を表明し、北朝鮮に対して全ての人権と基本的自由を完全に尊重するよう強く要求するものである。特に拉致問題については、北朝鮮に対し、拉致被害者の即時帰国を含め、拉致問題の早急な解決を強く要求することが明記されている。 日本が国連総会第3委員会に初めて提出したハンセン病差別撤廃決議は、84か国の共同提案の下、全会一致で採択された。この決議は、各国政府などに対し、ハンセン病差別撤廃のための原則及びガイドラインに十分な考慮を払うことを促すもので、世界のハンセン病差別撤廃の取組に大きく寄与することが期待されている。同ガイドラインは、人権理事会諮問委員会において、日本の坂元茂樹委員が中心となって作成し、8月に採択されたものである。なお、同決議案は、12月の国連総会本会議においても全会一致で採択された。 (ウ)ジェンダー分野での取組 3月の国連婦人の地位委員会(CSW)は、1995年の第4回世界女性会議における北京宣言及び北京行動綱領の採択から15周年の記念会合として開催された。日本からは西村外務大臣政務官が出席し、ODAにおけるジェンダー配慮の基本政策である「ジェンダーと開発(GAD)イニシアティブ」の下での取組、第3次男女共同参画基本計画の策定やAPEC議長国としての各種取組などを紹介した。 7月には、国連ジェンダー関係の4機関を統合し、新たに「ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国連機関」(United Nations Entity for Gender Equality and the Empowerment of Women、略称:UN Women)を設立する決議が国連総会で採択された。11月に実施されたUN Women執行理事会理事国選挙において、日本は初代執行理事国に選出された。日本は執行理事国として、2011年1月から活動を開始した同機関の活動に積極的に貢献していく考えである。 10月には、女性・平和・安全に関する安保理決議第1325号採択10周年を記念して、女性・平和・安全に関する安保理閣僚級公開討論が開催された。日本からは菊田真紀子外務大臣政務官が出席し、女性の保護と参画の強化を通じた平和の実現のための日本の考え方や、日本が紛争中・紛争後の国に対するODAや人材育成事業の実施などを通して、決議第1325号の実施に取り組んでいることを紹介するとともに、今後とも国際社会の活動に積極的に参加していく決意を表明した。 イ 人権に関する諸条約に関する取組 2010年には、人権に関する諸条約に基づく日本の政府報告審査が2回開催された。審査を踏まえ、委員会が公表した最終見解には法的拘束力はないが、日本政府として適切に対処していく考えである。 まず、2月に日本が2008年8月に提出した「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」(人種差別撤廃条約、略称:ICERD)の第3回から第6回政府報告について、人種差別撤廃委員会(CERD)による審査が実施された。3月に採択された同委員会の最終見解の中には、国内人権機構の創設の検討、帰化の際の氏名の取扱い、教育制度における問題など多岐にわたる事項についての懸念事項及び勧告が含まれている。 また、5月には日本が2008年4月に提出した「児童の権利に関する条約」(児童の権利条約、略称:CRC)に関する第3回政府報告及び2つの選択議定書(「武力紛争における児童の関与に関する児童の権利に関する条約の選択議定書」及び「児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書」)第1回政府報告について、児童の権利委員会による審査が実施された。6月に採択された同委員会の最終見解の中には、国内人権機構の創設の検討、自殺・体罰・児童虐待の問題への対応、少年司法など多岐にわたる事項についての懸念事項及び勧告が含まれている。 その他の動きとして、「強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約」(強制失踪条約、略称:CPED。日本は2007年2月に署名し、2009年7月に批准書を潘基文(パンギムン)国連事務総長に寄託)が、12月23日に発効した。同条約は、拉致を含む強制失踪が犯罪として処罰されるべきものであることを国際社会として確認し、将来にわたって同様の犯罪が繰り返されることを抑止する意義がある。日本としても、拉致を含む強制失踪への国際的な関心を高めるとの見地から同条約を重視しており、同条約の発効を歓迎している。 また、人権に関する諸条約に基づく委員会では、日本人委員が活躍している。6月の女子差別撤廃委員会(CEDAW)委員選挙及び9月の自由権規約委員会(ICCPR)委員選挙で、それぞれ林陽子弁護士及び岩澤雄司東京大学教授が再選を果たした。 なお、日本は、人権に関する諸条約に設けられている個人通報制度については、それら条約の実施の効果的な担保を図るという趣旨から、注目すべき制度であると考えている。このような意義を念頭に置き、各方面から寄せられる意見も踏まえつつ、個人通報制度の受入れの是非について真剣に検討を進めている。外務省においては、4月に人権条約履行室を立ち上げた他、11月には、駐日EU代表部と連携の上、欧州から個人通報制度に詳しい有識者及び実務家を招き、セミナーを開催した。 ウ 二国間の対話を通じた取組 人権の保護・促進のためには、二国間の対話も効果的な手段であることから、日本は二国間の対話の実施を重視している。3月及び10月には日・EU人権対話を開催した。また、7月には第6回日中人権対話(於:北京)を、8月には第4回日・カンボジア人権対話(於:カンボジア)を、9月には第6回日・イラン人権対話(於:東京)を開催し、人権分野におけるそれぞれの国の取組や国連における人権分野での協力について意見交換を行った。その他、スーダンとの間でも、1月及び9月に人権に関する技術的協議(於:ハルツーム)を開催した。 エ 難民問題への貢献 国際貢献及び人道支援の観点から、2010年度から3年間のパイロットケース(試験的取組)として、第三国定住38によるミャンマー難民の受入れを開始し、第一陣となるミャンマー難民5家族27名が、9月から10月にかけ来日した。第三国定住による難民受入れはアジアでは初となる取組であり、国際社会からも高い評価と期待を集めている。 また、日本における難民認定申請者が近年増加傾向にある中、真に支援を必要としている人々へのきめ細かな支援に取り組んでいる。 第三国定住により訪日したミャンマー難民児童の授業風景(東京) オ 国際法模擬裁判 国際法に関心を有するアジア諸国の大学生の能力向上を支援するとともに、広く国際人権・人道法についての知識の普及及び理解の増進などの啓発を行うため、国際法模擬裁判を8月に東京で開催した。同裁判では、環境問題に関する人権をテーマに、アジア9か国(日本、インドネシア、シンガポール、タイ、中国、フィリピン、ベトナム、ネパール、マレーシア)から約40人の学生が参加し、英語による陳述書の作成及び弁論能力などを競い合った。 カ 国際的な子の連れ去り問題 国際結婚が増加してきた結果、近年、外国での結婚生活で困難に直面した夫婦の一方が、現地の法令などに反して子を母国に連れ去り、問題となる事案が発生している。外国で生活をしていた日本人親が(元)配偶者の同意なく自らの子を日本に連れ去る事案も発生しており、日本は、米国、英国、フランス、カナダなどから、このような個別事案への対応や「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)」の早期締結について申入れを受けている。 ハーグ条約は、監護権の侵害を伴う国境を越えた子の移動について、そのような移動自体が子の利益に反するとの考え、また、監護権の所在を決着させるための本案手続は移動前の常居所地国39で行われるべきとの考えに基づき、子を常居所地国に戻すための国際協力の仕組みなどを定めるものである。日本政府は、この問題の重要性を認識し、子の福祉の観点から、ハーグ条約を締結する可能性について検討を行うとともに、国際的な子の連れ去りに対する予防的な措置などを講じてきている。外務省は、5月から11月まで、当事者を対象とするアンケートを実施した他、7月には、ハーグ条約の実務に関するセミナーを日本弁護士連合会と共催し、幅広い方面からの意見も参考にしてこの問題に取り組んでいる。また、4月、6月、9月には子の親権問題に係る日米協議、6月、12月には子の親権に係る日仏連絡協議会を実施し、関係国間で生じている事案について現行の法制度の下での可能な解決を目指し、情報交換を行った。 33 国連の会計年度は偶数年の1月から翌奇数年の12月までの2年間。 34 国際機関で働くことを志望する者を、政府の経費負担で国際機関に派遣し、職務経験を積むことにより正規職員への道を開くことを目的とした制度で、世界25か国が実施している(2010年12月現在)。日本のJPOとして、2010年12月現在76名が国際機関に派遣されている。 35 国連事務局が実施する若手職員採用のための試験。この試験の合格者は、各地の国連事務局で正規職員として勤務することになる。 36 国際機関加盟国による選挙で選出された日本人の国際機関の長としては、天野IAEA事務局長及び田中伸男IEA事務局長などがいる(2010年12月現在)。 37 日本国内にも多くの国際機関が駐日事務所を有している。詳細は外務省ホームページ(http://www.mofa.go.jp/mofaj/link/kokusai/index.html)を参照。 38 難民が、庇護を求めた国から新たに受入れに合意した第三国に移動すること。 39 通常居住している場所。国際私法において、連結点として用いられ、住所及び居所とは異なる概念として、ハーグ国際私法会議により創出された。