3 イラン 2009年9月、イランによる新たなウラン濃縮施設建設により、同国に対する国際社会の批判が高まった。こうした中、2009年10月、イランとEU3+38が協議を実施し、医療用アイソトープを製造するテヘラン研究用原子炉(TRR)への燃料供給のため、イランから低濃縮ウランを一旦国外に移送し、国外で燃料に加工した後で、同国に戻す案などについて原則的な合意に至ったとされた。その後、イランが同国内における低濃縮ウランと核燃料の同時交換を主張したため、結局、イランの低濃縮ウランの国外移送とTRRの燃料供給の具体的な在り方をめぐって合意は形成されなかった。 こうした中、国際社会は、対話と圧力のアプローチに基づき、対話の扉は開いておくとしながらも、イランに対する圧力の検討を開始した。イランは、この動きに不快感を示し、2010年2月に、TRRの燃料を独自に生産するとして、濃度約20%のウラン濃縮活動を開始した。 イランは、同国に対する新たな国連安保理決議の採択に向けた議論が進められる中、5月にTRRの燃料供給のための同国の低濃縮ウランの国外移送について、新たな提案につきトルコ及びブラジルと合意したと発表し(テヘラン合意)、関係国など(米国、ロシア、フランス及び国際原子力機関(IAEA))に対してテヘラン合意を検討するよう要請したが、これまでの制裁措置を伴う国連安保理決議9に続き、6月に資産凍結対象などを追加する措置を含む国連安保理決議第1929号が日本を含む賛成多数で採択された。これに対しイランは、同安保理決議は受け入れられないとして、その後も前向きな対応を示さなかった。 国連安保理決議第1929号の採択後、米国では、7月に、1996年に成立した「イラン・リビア制裁法」が強化されるとともに、イランのイスラム革命ガード(IRGC)などと取引のある外国金融機関に対する制裁を新たに定める制裁法が成立した。さらに、日本、EU、オーストラリア、カナダ、韓国は、安保理決議の履行に付随する措置ないし独自の措置を実施し、資産凍結の対象などを拡大した。国際社会によるイランへの圧力が高まる中、12月、約1年2か月ぶりとなるEU3+3とイランとの協議がジュネーブにおいて再開され、2011年1月末にもトルコにおいて会合が実施された。 国内経済面では、アフマディネジャード政権は、インフレ、失業率の高止まりや核問題を背景とする海外企業の投資減少及び銀行決済の問題などの影響から、困難な経済状況にあるものの、ガソリンや小麦などへの生活物資に対する補助金を削減し、貧困層に直接給付することを主な内容とする補助金合理化政策を12月から段階的に実施するなど、強気の経済運営を続けている。その一方、政治面では、人事などを巡って保守派内部で大統領に批判的な勢力との対立が深刻化した。 日本は、中東地域の大国であるイランが同地域や国際社会の平和と安定のために建設的な役割を果たすよう、同国との独自の伝統的な信頼関係に基づき活発な働きかけを行っている。特に核問題については、国際的な核不拡散体制を堅持する必要があるとの立場から、8月に安保理決議第1929号の決定事項を履行する措置を実施したのに続き、9月に資産凍結対象の追加などの金融措置を中心とする同決議に付随する措置を実施するなど、安保理決議を厳格に履行している。その一方、2月のラリジャニ国会議長の訪日、3月の日・イラン外相電話会談、5月、7月及び12月の日・イラン外相会談の機会を含め、度重なる会談や次官級協議などの様々なレベルや分野における重層的な二国間対話を通じて、安保理決議の遵守、国際原子力機関(IAEA)との完全な協力など、イランによる建設的な対応を強く働きかけている。 なお、エジプト、チュニジアの情勢を受け、2011年2月14日以降、イランにおいてもデモが発生した。 第3回バリ民主主義フォーラム出席時に、モッタキ・イラン外相(左列奥から3番目)と会談する前原外務大臣(右列奥から3番目)(12月9日、インドネシア・バリ) 8 イランの核問題に対し、EU3か国(英国、フランス、ドイツ)と米国、中国、ロシア3か国を合わせた6か国による対話の枠組み。 9 2006年12月の安保理決議第1737号、2007年3月の安保理決議第1747号及び2008年3月の安保理決議第1803号。