第4章 第2節 2.海外における日本企業への支援 (1)日本企業支援の取組 外務省は、政府間での協議・交渉を通じたビジネス環境整備に加え、民間企業からの個別の照会や相談に応じるため、「日本企業支援窓口」を1999年からすべての在外公館に設置するとともに、2006年からは一部のアジア公館に「日本企業支援センター」(注1)を設置し、現地の日本企業からの問い合わせや要望に積極的に対応している。例えば、現地の情報提供、人脈形成への協力を始め、必要に応じて現地政府に対する行政・司法手続の是正等に関する申入れを行うとともに、ビジネス環境の改善・広報支援等種々の支援を行っている。 また、最近では、在外公館において日本企業との共催によるレセプションを開催するなど、在外公館施設を活用した日本企業支援にも積極的に取り組んでいる。具体例としては、日本企業の製品紹介のためのワークショップや展示会の開催、日本料理・日本酒の専門家による講習会の実施等、多彩な取組を行っている。 (2)知的財産権保護の強化 模倣品・海賊版による被害は、技術革新等を妨げ、世界の経済成長に悪影響を及ぼすだけでなく、消費者の健康や安全までも脅かしている。日本企業も、海外市場における潜在的な利益の喪失を被るなど、深刻な悪影響を受けている。 このため、外務省では、知的財産戦略本部において毎年策定される「知的財産推進計画」に沿って、様々な機会をとらえて知的財産権の保護強化及び模倣品・海賊版対策に関する施策に取り組んでいる。例えば、2005年3月以降、すべての在外公館において知的財産担当官を任命し、模倣品・海賊版被害を受けている日本企業を迅速かつ効果的に支援することを目的として、日本企業への助言や政府への照会、働きかけなどを行ってきている。相談内容は外務本省と共有され、必要に応じて二国間及び多国間協議(第3章第2節4.(4)「知的財産権保護の強化」を参照)の場で取り上げられるなど、外国政府への更なる働きかけが行われている。また、知的財産担当官の能力向上を図り、知財侵害対策をより一層深めるために、日本企業の模倣品・海賊版被害の多い地域を中心に知的財産担当官会議(注2)を開催している。さらに、相手国政府職員向けに日本企業が主催する、知的財産権保護セミナーへの支援等の取組も行われている。 そのほか、模倣品・海賊版対策における開発途上国の政府職員等の能力向上を図るため、JICAを通じて、専門家派遣、研修員受け入れなど、技術協力を行っている。 (3)規制改革・ビジネス環境改善 日本は、諸外国との間で、規制改革についての対話・協議を行い、ビジネス環境整備や消費者利益の向上に努めている。 米国との間では、「日米規制改革及び競争政策イニシアティブ」の下、在米日本企業から寄せられる意見を踏まえて米国政府に対し要望を申し入れてきており、7月、8年目の対話の成果として日米両首脳への報告書が公表された。同イニシアティブを通じて、例えば、日本から米国の各州によって異なる保険監督・規制の問題点を指摘し、その調和・統一を要望してきたことに関し、6月にオバマ米国大統領が金融規制改革案を発表し、全米保険局の設置を提案するなど、一定の進展がみられた。 EUとの間では、1994年から「日・EU規制改革対話」を開催しており、互いに規制改革及び規制協力に関する提案を交換し協議することにより、ビジネス環境の改善を通じた貿易・投資の促進を図っている。在欧州日本企業や関係団体等から広く募った意見を踏まえて、EUに対する提案を行っており、2009年は日本企業関係者の労働・滞在許可問題の緩和、非EU信用格付会社の拠点設置(LP)条件の緩和等に関して前進が得られた。 中国との間では、6月の「日中ハイレベル経済対話」等の協議の場において、知的財産の保護強化、ITセキュリティー製品の強制認証制度、鉱物資源の輸出規制の改善を含む、貿易投資上の諸課題に関する要望を中国側に提起し、協議を行った。 (4)租税条約/投資協定/社会保障協定/経済連携協定(EPA) 各条約・協定の締結交渉に関する2009年の進ちょくは、第3章2節4.「国際経済分野の法秩序」を参照。 イ 租税条約 経済のグローバル化の進展に伴い、日本企業や投資家による国際的な経済活動の規模が拡大する中、それらの企業や投資家が、より制約の少ない経済活動を展開できる環境を整備する必要性が高まっている。日本は以前から二重課税の回避等を目的とする租税条約を各国と締結しており、投資交流を促進するという観点から租税条約ネットワークの更なる拡大を図っている。 ロ 投資協定 投資協定をこれまで以上に積極的に推進し、戦略的に活用していくため、2008年12月に官民合同で立ち上げた対外投資戦略会議については、計4回の中南米、中東、アフリカ、中・東欧等の地域別の連絡会議を通じて、投資協定の締結・改正を含めた投資環境整備に関する問題点を整理し、2009年9月に第2回会合を開催した。同会議は、投資協定締結・改正を戦略的に進めるなど、投資促進を官民で包括的に検討していく枠組みとして引き続き活用される予定である。 ハ 社会保障協定 社会保障協定は、保険料の二重負担の問題や保険料掛け捨ての問題等の解消を目的とする協定である。社会保障協定の締結は、海外に進出する日本の企業や国民の負担を軽減し得るものであり、相手国との間の人的交流や経済交流を一層促進すること等にかんがみ、相手国の社会保障制度の成熟度や日本にとっての必要性も踏まえつつ、今後も優先度の高い国から順次締結交渉を行っていく考えである。 ニ 経済連携協定(EPA) 日本が締結しているEPAには、協定全般を扱う合同委員会や、ビジネス環境改善等の分野ごとの多くの小委員会の設置が規定されており、海外に進出している日本企業の要望などを踏まえて、EPAの活用、運用改善に取り組むとともに、定期的に協定の運用状況について見直すこととなっている。 ■コラム■ 観光地ハワイにおける日本人の安全・安心のために 皆さんは、「ハワイ」と聞くとどのようなイメージをお持ちでしょうか。青い空と青い海、ビッグ・ウェイブでサーフィンを楽しむ若者、大型ショッピング・センターでのショッピング。また、ビーチ・サイドのバーやクラブでのエキサイティングなひととき等々、ワイキキの街は夜遅くまで賑わっており、明るい南国のリゾート地そのままのイメージではないでしょうか。確かに、年間110万人を超える日本からの観光客が訪問するハワイはリゾート地の王道を行くようなところであり、街行く人々の満面の笑顔も輝いています。 しかし、その一方で観光客を狙った犯罪者の目が光っていることも事実です。ひったくりや置き引き、ホテルの客室侵入盗、レンタカーの車上荒らし、恵まれない人への寄付を装った詐欺などの被害に遭われた日本人観光客は少なくありません。これらの犯罪はビーチ、ショッピング・センター等の観光地に集中しており、明らかに観光客がターゲットになっています。 私が勤務する日本総領事館には、パスポートを盗まれた日本人の方が、毎日のように「帰国のための渡航書」の手続のため来訪されます。パスポートを盗まれると、この手続のため相当の時間が必要であり、予定どおりに帰国できなくなることもありますので、特にパスポートの管理は重要です。 ハワイは全米の中で最も治安の良いところの一つに挙げられており、確かに注意をしていればそれほど怖いところではないのですが、旅行中の解放感でつい注意をおろそかにしてしまいがちです。治安の良いハワイでも、日本国内とは違うということを肝に銘じ、「単独行動は控える」、「貴重品を持ち歩かない」、「荷物から目を離さない」、「パスポートをなくさないようしっかり管理する」などの基本的な注意を忘れないようにお願いします。そうすれば、皆さんのハワイ旅行は充実した楽しいものになることでしょう。 (在ホノルル総領事館 領事 新通(しんどおり) 昌徳) 領事シニア・ボランティアの男性(中央・左)とホノルル総領事館領事部において (注1)現在5公館(モンゴル大使館、タイ大使館、インド大使館、広州総領事館、ホーチミン総領事館)に設置。センター設置により企業からの照会、相談への対応を強化し、企業支援体制を一層充実させた。 (注2)1月には、シンガポールで ASEAN各国とインドの知的財産担当官を対象に、10月には、サンパウロで南米(アルゼンチン、ウルグアイ、チリ、ペルー、ブラジル、ボリビア)の知的財産担当官を対象にした知的財産担当官会議を開催した。