第3章 第2節 2.環境・気候変動 (1)気候変動問題 気候変動問題は、先進国、開発途上国を問わず、国境を越えて人間の安全保障を脅かす急を要する課題であり、国際社会による一致団結した取組の強化が急務となっている。2007年11月の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書統合報告書は、各国が現在の政策を継続する場合、世界の温室効果ガス排出量は今後20〜30年の間増加し続け、21世紀末には20世紀に観測されたものより大規模な温暖化がもたらされると予測しており、この問題の深刻さと速やかな対応の必要性を指摘している。 2007年12月にバリ(インドネシア)で開催された気候変動枠組条約第13回締約国会議(COP13)において、気候変動枠組条約の下に次期枠組みについて議論する新たな作業部会が設置され、2009年12月のデンマークにおけるCOP15において、次期枠組みにつき合意を得ることとされた。これを受けて2009年は、12月のCOP15に向けて、気候変動交渉が様々な場において集中的に行われた。 2009年6月には、麻生総理大臣が、温室効果ガスの排出削減に関する中期目標について、2005年比で15%削減との目標を発表した。 7月に開催されたG8ラクイラ・サミット(於:イタリア)においては、2008年7月の北海道洞爺湖サミットにおいて合意された、世界全体の温室効果ガス排出量を2050年までに少なくとも50%削減するとの目標が再確認されるとともに、この一部として、先進国全体として、2050年までに80%又はそれ以上削減するとの目標が支持された。また、主要新興経済国は、特定の年までに、対策を採らないシナリオと比較して、世界全体として大幅に排出量を削減するため、数量化可能な行動を採る必要があることで一致した。 G8サミットとともに開催された主要経済国フォーラム(MEF)首脳会合(於:イタリア)においては、G8各国に、ブラジル、中国、インド、メキシコ、南アフリカ共和国などの新興国が加わり、議論がなされた。同首脳会合においては、適応、緩和、測定・報告・検証(MRV)及び技術につき活発な議論が行われた。また、産業化以前の水準と比較した、世界全体の平均気温の上昇が摂氏2度を超えないようにすべきとの科学的見解が共有された。 鳩山総理大臣は、9月22日にニューヨークで開催された国連気候変動首脳会合に出席しスピーチを行った。このスピーチの中で、鳩山総理大臣は、すべての主要国による公平かつ実効性のある国際枠組みの構築と意欲的な目標の合意を前提に、日本は、2020年までに1990年比で25%の排出削減を目指すとの目標を表明した。また、同スピーチの中で気候変動問題における開発途上国支援の必要性を指摘し「鳩山イニシアティブ」を表明した。 12月7日から19日まで、コペンハーゲン(デンマーク)においてCOP15が開催された。COP15には、気候変動に関する国際社会の高い問題意識を背景に、鳩山総理大臣を含め110か国以上の首脳が参加し、2013年以降の次期枠組み構築に向けた大枠を定める政治合意を得ることを目指して、連日厳しい交渉が行われた。 交渉の過程では、激しい対立の中でしばしば議論が中断したが、会期終盤に行われた30近くの国・機関の首脳レベルの協議・交渉の結果、今後の法的枠組み構築の基盤となる「コペンハーゲン合意」が作成された。鳩山総理大臣は、10数時間もの間、自ら交渉に参加し、「コペンハーゲン合意」の作成に貢献した。 「コペンハーゲン合意」は、COP全体会合において後発開発途上国(LDC)や島嶼国を含む多くの国の賛同を得たものの、全会一致には至らず、最終的には同合意に留意するとの決定が採択された。参加国間で立場に大きな相違がある中、COP15において「コペンハーゲン合意」がまとめられたことは重要な成果であるとともに、同合意には先進国及び開発途上国の削減目標・行動の提出や、その実施の透明性を図っていくこと等が明記されており、内容面でも今後の交渉に向けて意義あるものである。 また、COP15会期中の12月16日、日本は開発途上国支援に関する「鳩山イニシアティブ」の具体的内容として、すべての主要国による公平かつ実効性のある国際的枠組みの構築と意欲的な目標への合意を前提に、排出削減等の気候変動対策に取り組む開発途上国や、気候変動の悪影響に対して脆弱な開発途上国を広く対象に、2012年末までの約3年間で、官民合わせて約1兆7,500億円(概(おおむ)ね150億米ドル)規模の支援を行う旨を発表した。このうち、公的資金は1兆3,000億円(概(おおむ)ね110億米ドル)を予定している。開発途上国支援について大きな方向性を打ち出せたことは、「コペンハーゲン合意」に至った主たる要因の一つであるが、日本の「鳩山イニシアティブ」の具体策の発表はそのような動きを後押しするものとなった。 2010年は、2013年以降の法的枠組みの合意に向けて再び厳しい交渉が継続されるが、日本としては、すべての主要国による公平かつ実効性のある国際枠組みの構築と意欲的な目標の合意を目指し、引き続き国際的な議論に貢献していく。 気候変動枠組条約第15回締約国会議(COP15)において、鳩山イニシアティブ発表のための記者会見に同席する福山外務副大臣(左)(12月16日、デンマーク・コペンハーゲン) 「コペンハーゲン合意」の主たる内容 (2)生物多様性 生物多様性は地球の生態系を支えている重要な要素であり、そのバランスが崩れれば、地球全体の環境及び人々の生活にも多大な影響を与えかねない。人類はほかの生物を食料、医療、科学等の分野において幅広く利用しており、近年、生物多様性の保全と生物資源の持続可能な利用の重要性が注目されている。 日本は、2010年10月に愛知県名古屋市で開催される、COP10に向けた準備を進めている。国際的な議論においても、7月のG8ラクイラ・サミットで、「生物多様性保全に向けての2010年以降の世界目標(ポスト2010年目標)」の策定や、遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS:Access and Benefit Sharing)に関する交渉作業の完了などを支持することで一致した。 この関連で、日本は、COP10で決定される予定の「ポスト2010年目標」について、議長国として積極的な貢献を行うため、有識者、NGOなどとの意見交換や国民からの意見募集を行いつつ、日本の提案を作成し、2010年1月に条約事務局に提出した。また、ABSについては、生物多様性条約第9回締約国会議(COP9)(2008年5月、於:ドイツ)で決定された作業行程に基づき、4月及び11月にそれぞれ作業部会が開催され、COP10に向けて、国際的枠組みの策定のための具体的なテキスト案に関する交渉が行われた。 里山は人と環境が共存する場のモデルとして注目されている(写真提供:PANA) (3)森林 持続可能な開発、気候変動の緩和と適応、生物多様性の保全を始めとする地球規模の課題に効果的に対処していく上で、森林の果たす役割の重要性に大きな注目が集まっている。また、世界全体の人為的な温室効果ガスの排出量の約2割を占める森林減少・劣化に由来する排出の削減(REDD:Reducing Emissions from Deforestation and Forest Degradation)は、早急に取り組むべき気候変動対策の一つであり、早期の行動は将来的なコストの削減に寄与し得る。 日本は、以前から違法伐採対策を含む持続可能な森林経営を世界規模で促進することを重視しており、2009年においても、引き続き、アジア・アフリカなどでの緊急気候変動対策を始めとする二国間ODAの実施や、国際熱帯木材機関(ITTO)等の国際機関に対する拠出を通じて、開発途上国の関連する取組を積極的に支援するとともに、国連森林フォーラム(UNFF)第8回会合及び第9回特別会合(4〜5月及び10月、於:ニューヨーク(米国))、アジア森林パートナーシップ(AFP)第8回実施促進会合(5月、於:バリ(インドネシア))、チャールズ・英国皇太子のイニシアティブを受けて設置された非公式作業グループ等を通じて、持続可能な森林経営やREDDに関する取組の更なる促進に向けた議論に積極的に貢献した。 (4)オゾン層保護 地上10〜50kmの成層圏におけるオゾン層がフロンガス等のオゾン層破壊物質(ODS:Ozone Depleting Substances)により破壊されると、地上に達する有害な紫外線の量が増加し、人体への被害及び自然生態系に対する悪影響がもたらされると考えられている。日本は「オゾン層の保護のためのウィーン条約」及び「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」を締結し、オゾン層保護の取組に積極的に貢献してきている。 2009年11月、オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書第21回締約国会合(MOP21)がエジプトで開催され、オゾン層を破壊しないが温室効果の高い代替フロンであるハイドロフルオロカーボン(HFC)の扱いや、ODSのバンク(注1)対策について、更に検討を進めることとなった。 (5)有害化学物質、有害廃棄物の国際的管理 人の健康及び環境にとって有害な化学物質は、その製造や使用、廃棄の過程で国境を越えて取引され、また、大気や水といった環境中に放出されることによって、地球規模での環境汚染を引き起こす恐れがある。 日本は、バーゼル条約、ロッテルダム条約、ストックホルム条約(POPs条約)等の有害化学物質及び有害廃棄物の規制に関する多国間条約(注2)に加入し、その義務を国内において確実に履行するとともに、必要に応じて条約の規制対象物質の追加を国際的に協調しつつ支持している。2009年5月のPOPs条約第4回締約国会合(COP4)(於:ジュネーブ(スイス))では、新たに9種の化学物質を附属書に掲載する決定がなされた。これら3条約はいずれも、有害な化学物質及び廃棄物を規制し、環境汚染を未然に防止するとの共通の目的を持っている。そのため、3条約が相互に連携し、一貫性を持った取組を展開していくべきとの国際世論の高まりを受けて、3条約のシナジー(協働体制の構築と協力の促進)強化の議論が進行しており、日本も積極的に議論に参加している。 また、2009年2月に、国際的な水銀管理に関する条約の策定に向けて、国連環境計画(UNEP)の下で、2010年から政府間交渉委員会を開催することが決定された。 (注1)市中に既に出回っている冷凍空調機器の冷媒等として使用・貯蔵されているものや、これらが廃棄物として回収され、若しくは税関等で没収されたものの破壊されずに放置されているもの。 (注2)3条約の正式名称はそれぞれ、「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」、「国際貿易の対象となる特定の有害な化学物質及び駆除剤についての事前かつ情報に基づく同意の手続に関するロッテルダム条約」、「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」。