第3章 第1節 3.国連 (1)概観 9月に開会した第64回国連総会には、就任直後の鳩山総理大臣及び岡田外務大臣が出席した。鳩山総理大臣は一般討論演説において、日本が、「友愛」精神に基づいて、世界経済・金融危機への対処、気候変動、核軍縮・不拡散、平和構築・開発・貧困、東アジア共同体の構築の分野で、世界の「架け橋」としての役割を果たし、安保理常任理事国入りを目指すとの決意を表明した。また、鳩山総理大臣は、国連気候変動首脳会合、核不拡散・核軍縮に関する安保理首脳会合においても演説し、新政権の外交政策を世界に向けて力強く発信した。さらに、鳩山総理大臣は、潘基文(バンギムン)事務総長、オバマ米国大統領、メドヴェージェフ・ロシア大統領、ブラウン英国首相等と会談を行った。岡田外務大臣はG8外相会合に出席したほか、クリントン米国国務長官、ミリバンド英国外相、スミス・オーストラリア外相、ヨー・シンガポール外相、モッタキ・イラン外相等と会談を行った。 日本は、2009年1月から加盟国中最多となる10回目の安保理非常任理事国の任期を務め、北朝鮮、イランの核問題、アフガニスタンなど、国際の平和と安全の維持にかかわる議論に力を発揮してきた。特に、北朝鮮問題については、5月の核実験を受け、すべての加盟国による北朝鮮との武器の取引の禁止の強化や、核・弾道ミサイル、またはそのほかの大量破壊兵器の開発に関連する資産の凍結など、北朝鮮に対する制裁措置を強化する安保理決議(第1874号)の採択に向けた議論を全面的に主導した(第2章第1節1.(1)イ 「北朝鮮による核・ミサイル問題」参照)。また、国連からの要請にこたえ、2010年2月からハイチのPKOミッションに自衛隊を派遣している。このように、日本は、安保理理事国として安保理における議論に積極的に参加・主導することで常任理事国を目指す国としてふさわしい役割を果たし、そうした努力も通じて安保理改革及び日本の常任理事国入りの早期実現に向けた機運をより一層高めていく考えである。 6月に、潘基文国連事務総長が実務訪問賓客として来日し、麻生総理大臣、中曽根外務大臣との会談を行った。また、8月には、デスコト第63回国連総会議長が外務省賓客として訪日し、中曽根外務大臣との会談等を行ったほか、広島と長崎の平和記念(祈念)式典、長崎での平和市長会議総会に出席し、献花・挨拶やスピーチを行った。 日本が国連・国際機関を通じた外交を力強く推進していくためには、国連の役割や日本の取組に関する国民の理解が不可欠であり、広報活動にも積極的に取り組んでいく考えである。 第64回国連総会出席時の鳩山総理大臣(左)と潘基文国連事務総長(9月23日、米国・ニューヨーク 写真提供:内閣広報室) (2)安全保障理事会 安保理による国際の平和と安全の維持のための活動は、特に冷戦の終結以降、 [1]PKOの設立、[2]多国籍軍の承認、[3]テロ対策、不拡散に関する措置の促進、[4]制裁措置の決定等多岐にわたっている。安保理決議に基づくPKOや多国籍軍の任務は、停戦監視等を中心とした活動(ゴラン高原等)から、民主的統治、復興、警察支援等(ハイチ、東ティモール、アフガニスタン等)まで、多様さを増している。また、大量破壊兵器の拡散、テロ等の新たな脅威に有効に対処するため、下部機関を設置し、各国による関連安保理決議の実施を支援している。このように、国際社会における平和と安全の確保のため、安保理が果たす役割は拡大している。 日本は、2008年10月に行われた安保理非常任理事国選挙において、加盟国中最多となる10回目の当選(注1)を果たし、2009年1月から2年間の任期で安保理非常任理事国を務めている。 安保理議場において、日本政府を代表して中東問題についてステートメントを行う伊藤外務副大臣 (5月11日、米国・ニューヨーク) (3)安保理改革 安保理の構成は、その役割の拡大にもかかわらず、国連発足後60年以上の間、基本的には変化していない。このような状況の中、国際社会では、安保理の「代表性改善」と「実効性向上」の二つの側面から、その構成を早期に改革すべきとの認識が共有されている。 安保理改革は、各国の利害・思惑(わく)の対立が絡み、調整が困難な課題であるが、改革実現に向けた機運は継続しており、国連においては、現在総会非公式本会議で、政府間交渉が継続している。 日本は、常任・非常任議席双方の拡大を通じた安保理改革の早期実現と日本の常任理事国入りを国連外交の重要課題の一つと位置付け、[1]安保理理事国の構成を今日の国際社会をより正確に反映し、国際社会を代表するにふさわしいものに改めること、また、[2]国際の平和と安全の維持に主要な役割を果たす意思と能力のある国が常任理事国となり、常に安保理の意思決定に参加することが必要との立場を主張している。 日本が常任理事国となることにより、主要な国際問題に関する意思決定過程に深く、かつ恒常的にかかわることが可能となり、日本の国益をより一層効果的に確保できる。日本はこれまでも平和の定着や国づくり、人間の安全保障、軍縮や不拡散等の様々な分野において国際社会への貢献を行ってきており、また、財政面における国連への貢献も世界第2位と極めて大きい。常任理事国となることにより、日本は、これらの貢献にふさわしい地位を確保するとともに、日本独自の外交理念を一層推進し、国際の平和に更なる貢献をすることが可能になる。 イ 安保理改革の早期実現に向けた各国への働きかけ 日本は、2009年も様々な機会をとらえ、各国の首脳・外相等に対し、安保理改革の早期実現の必要性を訴え、各国の理解と支持を広げる努力を行った。9月には鳩山総理大臣が第64回国連総会一般討論演説において、安保理の常任・非常任議席双方の拡大と日本の常任理事国入りを目指し、そのための安保理改革に関する政府間交渉に積極的に取り組んでいくとの決意を表明した。さらに、様々な国際会議や二国間首脳・外相会談において、安保理改革の必要性につき認識が共有され、改革の早期実現に向け、各国と協力を継続していくことを確認した。 ロ 第63回国連総会会期(〜2009年9月)における動き 2009年2月から、国連総会非公式本会議で政府間交渉が開始され、[1]拡大する議席の種類、[2]拒否権、[3]地域代表性、[4]拡大後の規模、D安保理の作業方法及び安保理と総会との関係などについて、合計3ラウンドにわたり会合が開催され、加盟国間で活発な議論が行われた。中でも、[1]に関しては、発言国のうち大多数が常任・非常任双方の議席拡大を支持しており、安保理の実質的な改革を求める声が強いことが明らかになっている。9月の会期末には、第64回国連総会でも引き続き政府間交渉において安保理改革の議論を行っていくことを決定した。 ハ 第64回国連総会会期(2009年9月〜)における動き 9月23日から29日まで国連総会においては、191か国の首脳・外相等が一般討論演説において、約100か国が安保理改革の必要性について発言を行った。また、11月に開催された安保理改革に関する総会審議においても、常任・非常任議席双方の拡大を支持する発言が多くの国から行われた。12月には、政府間交渉の第4ラウンドが開始され、改革の実現に向け、引き続き議論が行われている。 日本としては、引き続き政府間交渉に積極的に参加するとともに、様々な機会をとらえて主要国を始め各国と意見交換を行いつつ、安保理改革の早期実現及び日本の常任理事国入りを目指す考えである。 (4)国連行財政 イ 国連予算 国連の活動を支える予算は、各国に義務的に割り当てられる分担金(通常予算、PKO予算、旧ユーゴスラビア及びルワンダICC予算)と各国が政策的に拠出する任意拠出金から構成されている。 2008/2009年度の国連通常予算(注2)については、インフレ・為替変動、イラクやアフガニスタンの特別政治ミッション等の経費増により2年間で約47.9億米ドルとなった。2010/2011年度の国連通常予算については、当初、前年度予算に対し約17%増の予算案が提示されたが、国連総会(第5委員会)による綿密な審議の結果、国連職員の安全・保安強化に関する提案等、喫緊かつ優先度の高い経費増を認めた上、総額約51.6億米ドル(前年度比約6%増)の予算が決定され、過去最大規模となった。また、PKO予算については、国連中央アフリカ・チャド・ミッション(MINURCAT)等の大規模ミッションの予算増により、2009/2010年度(7月〜翌年6月の単年予算)は同じく過去最大規模の約77.3億米ドル、1年当たりでは通常予算の約3倍となった。 日本は、厳しい財政事情の中、2009年国連通常予算分担金は約4.1億米ドル、2008年国連PKO予算分担金は約12.6億米ドルと加盟国中2番目の財政貢献を行っており、主要財政負担国として、国連が限られた予算をより一層効率的かつ効果的に活用するよう働きかけを行っている。 ロ 国連分担率交渉 2009年は、3年ごとに決定される国連通常予算分担率及び9年ぶりの見直しとなるPKO分担率の交渉年という重要な一年であった。国連の分担率は、基本的には各加盟国の支払能力に基づくものとされており具体的な算出方法については3年前の交渉の結果、国民総所得(GNI)の加盟国計に対する各国の比率に各種調整を行った算定方式が適用されている。日本政府は今回の分担率交渉に当たって、支払能力の原則に照らして衡平な分担率を目指し、これを実現するため算定方式の見直しの議論に臨んだ。EUグループが経済成長著しい新興経済国(BRICs)の負担増を求める提案を行う一方、金融・経済危機の影響を受けている途上国グループ(G77+中国)が米国の分担率上限(シーリング、22%)の引上げを求める提案を行うなど、各国の主張と利害が交錯し、交渉は難航を極めた。最終的には、2010/2012年の次期3年間に適用される国連通常予算分担率は、現行算定方式に基づく分担率とし、算定方式の要素について可能な限り早期に見直しを行うことで合意が得られた。その結果、日本の新たな国連通常予算分担率及びPKO分担率は12.530%となり、従来の16.624%から約4ポイント減少(加盟国中最大の引下げ)することとなった。なお、日本は米国に次いで引続き加盟国中第2位の分担率となっている。 主要国の国連通常予算分担率 国連通常予算の推移 (5)国際機関で働く日本人 国際社会では、政治・安全保障体制を脅(おびや)かすテロや紛争に加え、急速なグローバル化の進展に伴って深刻化してきた環境破壊、人権侵害、貧困、感染症等、地球規模の諸問題への対応がますます重要になってきている。 こうした中で、国際機関の果たすべき役割は更に重くなり、国連等の国際機関で働く国際公務員の任務と責任も重要なものになっている。国際社会の主要国である日本としては、国際機関においてもその地位に見合った役割を果たしていきたいと考えており、その一つの方法として、国際機関における日本人職員を増強するため、優秀な人材の発掘や、日本人職員の採用・昇進に向けての国際機関に対する働きかけを行っている。 具体的な取組としては、外務省の国際機関人事センター(注3)を通じたJPO(Junior Pro-fessional Officer)派遣制度(注4)の実施、国際機関による採用ミッションの積極的招致、日本国内における広報活動等を行っている。こうした取組の結果、国連関係国際機関の日本人職員(専門職以上)は708人(2009年)となり、2001年の481名から5割近く増加しており、また、その中には、選挙で選出された国際機関の長(注5)を始めとした幹部職員がいるが、その数は53名から65名と2割以上増加している(図表「国連関係機関に勤務する日本人職員数の推移(専門職以上)」参照)。これらの日本人職員は、本部に加えイラク周辺やアフガニスタン等の紛争地域のほか、日本を含むアジアやアフリカなどの国々で、様々な分野において活躍しており(注6)、外務省は、引き続き、更なる人材発掘と国際機関への働きかけを行っていく方針である。 国連関係機関に勤務する日本人職員数の推移(専門職以上) (注1)2009年10月に行われた選挙で、ブラジルも日本と並んで加盟国中最多となる10回目の当選を果たしている。 (注2)国連の会計年度は偶数年1月から翌年12月までの2年間。 (注3)国際機関人事センターホームページ http://www.mofa-irc.go.jp/ (注4)国際機関で働くことを志望する者を日本政府の経費負担で原則2年間、国際機関に派遣し、職務経験を積むことにより正規職員への道を開くことを目的とした制度。2009年1月現在で98名が派遣されている。 (注5)国際機関加盟国による選挙で選出された国際機関の長では、天野之弥IAEA事務局長及び田中伸男IEA事務局長等がいる(2009年12月現在)。 (注6)日本国内にも多くの国際機関が駐日事務所を有している。詳細は外務省ホームページ参照 http://www.mofa.go.jp/mofaj/index.html