第2章 第6節 4.イラク (1)イラク情勢 イラクの治安は、バグダッドにおける8月、10月、12月の官公庁を標的とした大規模爆破テロ事案等、散発的にテロ事件が発生しているが、全般的には2007年夏以降改善の傾向にあり、イラク人、米軍の死者数は共に2003年の対イラク武力行使以降最低レベルとなっている。1月に発効した駐留に関する協定に基づき、米軍戦闘部隊は、6月30日に都市部から撤収し、イラク18県すべての治安権限がイラク側に移譲された。オバマ米国大統領は、2010年8月末までに米軍の戦闘任務を終了し、2011年末までにすべての部隊を撤収するとしている。 政治面においては、1月31日に、イラク憲法制定後初の地方議会選挙が概(おおむ)ね平穏に実施され、国内の主要な勢力のすべてが参加した。また、7月25日には、クルディスタン地域大統領選挙及び議会選挙が実施された。2010年3月7日には、2006年5月のマーリキー政権発足後初の国民議会選挙が実施された。このように、治安・国内情勢の安定化が進展する一方、キルクーク等の係争地の帰属問題、クルドとの政治的緊張の継続、石油収入の配分を決定する石油・ガス法案等の重要法案が未成立であるなど、取り組むべき課題は依然として多い。 (2)日本の取組 イラクの安定は、中東地域ひいては国際社会全体の安定に不可欠であることから、日本は国際社会の責任ある一員としてふさわしい支援を行うため、ODA等で幅広い取組を行ってきた。イラクの安定化と発展に伴い、イラクに対する日本の協力は、無償資金協力から円借款事業によるインフラ整備、技術協力及び経済・ビジネス関係の強化に移行しつつある。1月28日には、日本とイラク間の長期的友好関係構築のため、日・イラク・パートナーシップ宣言が発出された。また、2009年は日・イラク外交関係開設70周年であり、6月にはズィーバーリー外相が訪日し、日本・イラク関係の更なる強化について両国で再確認した。 イ ODAによる支援 日本は、2003年10月、イラク復興支援のための「当面の支援」として、15億米ドルの無償資金、経済社会インフラ整備等中期的な復興ニーズに対する円借款を中心とする最大35億米ドルの支援からなる、最大50億米ドルのイラク復興支援を表明した。無償資金協力については、表明額(15億米ドル)を超える17億米ドルの支援を実施済みであり、円借款については、運輸、エネルギー、産業プラント及び灌漑(かんがい)等の分野の15案件(総額32.8億米ドル)に関する交換公文(E/N)を締結している。このほか、約67億米ドルの債務救済支援を実施している。さらに、2009年末までに3,500人以上のイラク人に研修を実施したほか、イラクの国民融和へ向けた努力への支援として、「イラク国民融和セミナー」を日本国内で3回(2007年3月、2008年3月、2009年3月)実施した。 ロ 経済・ビジネス関係の強化 イラクとの経済・ビジネス関係の強化を目的として、3月に外務省、経済産業省及び民間企業12社からなるイラク経済ミッションをバグダッドに派遣した。7月には東京でイラク投資セミナーを開催し、約270名が参加した。さらに、12月には、第2回日本・イラク経済フォーラムをバグダッドで開催した。本フォーラムには、イラク側からマーリキー首相、ズィーバーリー外相他関係閣僚、イラク国営・民間企業関係者約200名、日本側から武正外務副大臣、松下忠洋経済産業副大臣、渡文明経団連副会長を始め、官民あわせて100名以上が参加した。これは、2003年以降にイラク国内で開催された二国間経済フォーラムとしては最大規模となっている。