第2章 第3節 2.中南米諸国との関係強化と協力 日本は、中南米に対し、経済関係の強化、安定的発展に対する支援及び国際社会での連携強化を重視した外交を行っている。また、2009年から2010年にかけて日本・メキシコ交流400周年を始めとした周年事業が行われ、さらに、2010年1月には、中南米18か国、アジア16か国が参加した第4回アジア中南米協力フォーラム(FEALAC)外相会合が東京で開催され、交流が強化された。また、同月に発生したハイチの大地震に際し、日本は復旧・復興に向けて積極的に取り組んでいる。 (1)経済関係の強化 日本は、ブラジル、メキシコ等の近年成長著しい新興国を多く含む中南米地域をグローバル経済における生産・輸出拠点、資源の一大供給地及び有望な市場として重視し、経済関係の強化に重点的に取り組んでいる。 中南米では経済における政府の役割が大きく、また、近年一部の国では資源国家管理の傾向が強まっていることから、官民一体となった取組がますます重要となっている。日本政府は、EPA、投資協定、租税協定等の締結推進、官民合同の協議枠組みの創設等ビジネス環境の整備に努めている。具体的には、コロンビアと4月に投資協定締結交渉を、ペルーと5月にEPA交渉を開始、12月に投資協定が発効した。また、既に発効済みのメキシコ、チリとのEPAの効果的運用により、これらの国々との貿易・投資関係も強化されている。官民合同の協議枠組みとしては、9月にブラジルとの間で日・ブラジル戦略的経済パートナーシップ賢人会議や日・ブラジル合同貿易投資促進委員会を開催して、貿易・投資の促進に努めた。 また、資源・食料の安定的確保に向けた取組も進めている。石油を始めとするエネルギー資源の豊富なベネズエラとの間では、4月にチャベス大統領が訪日した際に、エネルギー分野での協力拡大を確認し、7月に、その具体的な協力について協議するためのエネルギー協力ワーキングチーム第1回会合を開催した。また、鉱物資源に富むボリビアとの間では、日本の官民が一体となり、同分野でのボリビア政府との協力強化に向けた取組を行っている。 経済分野における大規模な案件も進行中である。デジタルテレビの方式採用に関しては、日本の強みである高度な技術力を生かすとともに、域内主要国であるブラジルと緊密に連携して、「日・ブラジル方式」としてペルー、アルゼンチン、チリ、ベネズエラに拡大し、南米における方式普及の飛躍の年となった。また、ブラジルでリオデジャネイロとサンパウロを結ぶ高速鉄道の整備計画について検討が進められており、高速・安全・安定輸送を誇る日本の新幹線方式の導入に向けて官民一体となった働きかけが行われている。 アモリン・ブラジル外相と会談する吉良外務大臣政務官(左)(2010年1月20日、ブラジル) 主要な動き(各国・地域別) (2)地域の安定的発展への貢献 日本は、中南米各国が、民主主義を堅持しながら、貧困や社会格差是正といった社会的課題への取組を通じ、安定的な発展を遂げることを重視しており、その努力を支援していく方針である。 このような観点から、特に教育や保健・医療等の社会開発、産業インフラ整備、各種研修や専門家派遣等の人材育成の分野などにおいて、ODAを通じた積極的な支援を行っている。また、メキシコ、ブラジル、アルゼンチン及びチリとの間では、パートナーシップ・プログラムを通じて、第三国に対する三角協力を行っている。中南米地域はハリケーンや地震といった自然災害に対して脆弱な地域であり、日本は、災害時の被災者救援のため、緊急援助物資や緊急無償資金協力の供与による迅速な支援に努めている。 また、4月にメキシコで新型インフルエンザが発生した際には、サーモカメラなど約100万米ドルの緊急支援を行った。 2010年1月13日に発生したハイチ大地震に対し、日本はJDR(医療チーム及び自衛隊部隊)を派遣し医療活動等を行い、延べ3,488名の診療を行った。また、総額約7,000万米ドル(緊急支援2,500万米ドル超、復興支援約4,500万米ドル)の支援を打ち出した。さらに、国連平和維持活動(PKO)(国連ハイチ安定化ミッション(MINUSTAH))に自衛隊施設部隊(約350名)を派遣した。 (3)国際社会での協力 民主主義と市場経済が定着した中南米諸国は、基本的な価値の共有を基盤として、国際社会の諸課題に具体的に協力して取り組んでいくことができるパートナーである。メキシコとは、11月にシンガポールで開催されたAPEC首脳会議の機会に首脳会談を、2010年1月には外相会談をそれぞれ実施し、戦略的パートナーシップの強化について確認するとともに、気候変動問題などの地球規模課題について意見交換した。さらに2010年1月から2月にかけて、カルデロン・メキシコ大統領が公式実務訪問賓客として訪日し、鳩山総理大臣と首脳会談を行った(外相会談も併せて実施)。両首脳は「21世紀における戦略的グローバル・パートナーシップ及び経済成長促進に関する共同声明」を発表した。また、ブラジルとは、7月のG8ラクイラ・サミット(於:イタリア)の際に首脳会談を、9月の国連総会の際には外相会談を行い、国連安保理改革、気候変動等の分野で両国が緊密に連携していくことを確認した。 そのほか、9月の国連総会の機会に岡田外務大臣とメキシコ、チリ、ドミニカ共和国、アルゼンチンの外相との会合が行われ、各国から日本の環境イニシアティブに対する高い評価を得た。 2010年1月に東京で中南米18か国、アジア16か国が参加した第4回FEALAC外相会合が開催された。日本は、主催国としてアジアと中南米の「架け橋」としての役割を担い、特に環境分野において熱帯雨林の保全、環境ビジネスの促進等5分野を柱とする「FEALAC岡田グリーン・イニシアティブ」(FROGイニシアティブ)を提示した。会合の成果として、環境・持続可能な発展、世界経済・金融危機の克服及び社会的包摂等両地域が直面する共通課題について、経験共有と相互学習を通じた協力を進めることを謳った「東京宣言」が採択された。 第4回アジア中南米協力フォーラム(FEALAC)外相会合後の共同記者会見に臨む、左からタイアナ・アルゼンチン外相、岡田外務大臣、マルティ・インドネシア外相(2010年1月17日、東京) FROGイニシアティブ概要 (4)交流の強化 2009年は、複数の国との間で周年を祝賀し、活発な要人往来が行われた。 メキシコとの間では、両国民が交流して400周年に当たる2009年から2010年にかけて、日本・メキシコ交流400周年を祝賀し、様々な分野で両国間の交流を促進した。3月に伊藤信太郎外務副大臣がメキシコを訪問し、同国での周年事業の開会式典に参加した。また、9月には、交流の原点となった千葉県御宿町で、「日本メキシコ交流400周年」名誉総裁に就任された皇太子殿下の御臨席及び武正公一外務副大臣の出席の下、記念式典が開催された。メキシコにおいても、日本ブランド展、大統領官邸における桜の記念植樹、レフォルマ通り(メキシコ市)における日本・メキシコ祭等が開催され話題になった。 キューバとの間では、2009年は日・キューバ外交関係開設80周年に当たり、日本及びキューバで様々な記念行事が実施された。10月には日・キューバ技術協力協定が署名された他、12月にはロドリゲス・キューバ外務大臣が訪日し、第10回日・キューバ政策対話が実施されるなど、両国間の幅広い交流が実現した。 さらに、2009年はパラグアイとの外交関係開設90周年であり、両国で記念行事が行われた。 ペルー及びボリビアとの間では、2009年は日本人移住110周年に当たり、様々な記念行事が行われ、移住者のこれまでの努力が日本と両国との良好な関係の礎(いしずえ)となっていることが確認された。6月には、常陸宮同妃両殿下が両国を御訪問になったほか、ペルーからは2月にガルシア・ベラウンデ外務大臣、11月にはガルシア大統領が訪日した。また、ブラジルについては、2009年は日本人アマゾン移住80周年であり、アマゾン地域の各地で盛大に記念式典が開催された。9月のトメアスー、ベレン及びマナウスにおける記念式典では、風土や環境が全く異なる厳しい地での日本人移住者や日系人の長年にわたる努力と貢献が讃えられた。 さらに、2009年はコロンビアとの間でも日本人移住80周年であり、各地で様々な記念行事が行われた。 日本・メキシコ交流400周年記念式典でお言葉を述べられる皇太子殿下(9月26日、千葉県御宿町 写真提供:千葉県)