平成22年版外交青書の要約 (2009年の国際情勢と日本外交の展開) 冷戦後の国際関係を規定する軸の多様化・複雑化、情報通信技術の急速な進展やグローバル化に伴う地球規模課題への関心の高まり、近年のアジア諸国を始めとする新興国の台頭等を受け、国際社会としての合意形成・意思決定のメカニズムを再構築する動きが顕在化している。特に、2009年9月のG20ピッツバーグ・サミットでは、G20を国際経済協力の第一のフォーラムとし、今後定例化することが決まったことが注目される。 21世紀に入りグローバル化が進む一方で、地域単位での協力・統合に向けた動きも見られるようになった。2009年12月には、リスボン条約が発効し、欧州の統合がますます深化することとなった。日本も、鳩山由紀夫総理大臣が「東アジア共同体」構想を長期的ビジョンとして掲げ、地域協力の強化に向けて積極的に貢献していく考えを示した。 国際社会が協調して取り組む必要がある地球規模の課題をめぐっては、1月のオバマ米国大統領就任を一つのきっかけとして、新たな協調の時代を迎えた。 12月の気候変動枠組条約第15回締約国会議(COP15)では、最終的に「コペンハーゲン合意」に留意するとの決定がなされたことは一定の前進といえる。日本は、鳩山総理大臣が、すべての主要国による公平かつ実効性のある国際的枠組みの構築及び意欲的な目標の合意を前提とし、2020年までに1990年比で言えば25%の削減を目指すという野心的な目標を発表するとともに、開発途上国支援についての「鳩山イニシアティブ」を表明した。 核軍縮・不拡散分野でも、4月のオバマ米国大統領による「核兵器のない世界」演説等を機に、核軍縮・不拡散に向けた国際的機運が高まった。9月には、国連安全保障理事会で史上初めて核不拡散・核軍縮をテーマとした首脳会合が開催され、日本からは鳩山総理大臣が出席した。12月には日本が毎年国連総会に提出している核軍縮決議案が圧倒的多数の支持を得て採択され、米国も初の共同提案国として賛成に回った。 冷戦後に生じた安全保障環境の変化として、国際テロや海賊事案の増加が挙げられる。2009年も日本は引き続き、テロの脅威に対処するため、アフガニスタン・パキスタン支援に力を入れるとともに、近年、急増するソマリア沖・アデン湾での海賊問題への対処を実施している。 また、伝統的な脅威も依然として存在し続けており、北朝鮮によるミサイル発射や核実験といった日本の安全に対する重大な脅威や、イランによる核開発問題などに対し、国際社会が積極的に取り組んだ。 冷戦後も日本を取り巻く安全保障環境には、不確実・不安定要因が存在しており、引き続き日米同盟を日本外交の基軸とし、日本の防衛のみならず、アジア太平洋地域の平和と繁栄を支える公共財として、更に深化させていく必要がある。 日本は、国際社会が直面する様々な課題の解決に向けて、より一層積極的に行動し、リーダーシップを発揮する。そのためにも国民の理解と信頼に支えられた力強い外交を展開していく。このような観点から、岡田克也外務大臣は9月の就任当日に、いわゆる「密約」をめぐる問題についての調査を行うよう命じ、2010年3月9日、その調査結果を有識者委員会からの報告書とともに発表した。今回の作業を外交に対する国民の信頼回復につなげ、国民とともに歩む外交を実践していく方針である。 (アジア・大洋州) 豊かで安定し開かれたアジア・太平洋地域の実現は、日本の平和、安全、繁栄にとって不可欠である。日本は日米同盟を外交の基軸としつつ、「東アジア共同体」構想を長期的ビジョンとして掲げ、アジア外交を積極的に推進していく。 アジア外交の柱である「東アジア共同体」構想は、貿易・投資、金融、環境、エネルギー、災害救援、教育、人の交流、感染症対策など可能な分野から開放的で透明性の高い地域協力を積み重ねた先に実現することを目指している。 2015年までの共同体の実現を目指している東南アジア諸国連合(ASEAN)は、統合努力を加速化させている。日本としても、結束したASEANが地域協力で重要な役割を果たすことは、日本とASEAN、さらには、東アジア全体の安定と繁栄にとって重要であるとの考えの下、10月の日・ASEAN首脳会議において、域内格差是正や「連結性強化」といった取組への積極的貢献を表明し、また11月の日本・メコン地域諸国首脳会議では、開発や環境・気候変動等に関するイニシアティブが発表された。 韓国は、地理的に最も近いだけでなく、自由と民主主義、基本的人権等の基本的価値を共有し、共に米国との同盟関係にあり、政治、経済、文化といったあらゆる面で極めて密接な関係にある重要な隣国である。韓国とは過去の歴史を直視した上で、「シャトル首脳外交」等を通じ、成熟したパートナーとして未来志向の日韓関係を強化していく。日韓両首脳は、引き続き未来志向の日韓関係を強化していくことで一致している。 中国は急速な経済発展を背景に、東アジア地域を含め、国際社会の中で政治的・経済的なプレゼンスを高めている。中国が国際社会と協調しつつ安定的に発展することは、日本や地域の国々にとっても一つの機会であり、日本は中国が国際社会でより一層責任ある役割を果たすことを期待している。中国との間でも2009年も引き続き、国際会議の場を含めて頻繁に首脳会談を実施し、首脳間の緊密な意思疎通を図った。また、両国首脳は、地域や国際社会の諸課題に共に取り組み、「戦略的互恵関係」の内容を一層充実、具体化していくことで一致している。同時に、食の安全や東シナ海資源開発などの両国間の懸念について、引き続き取り組んでいく必要がある。 北朝鮮については、日本は関係国と協力しつつ、拉致(らち)、核、ミサイルといった問題を包括的に解決し、不幸な過去を清算して国交正常化を図るという基本方針の下、朝鮮半島の非核化と拉致問題を含む日朝関係の双方が共に前進するよう、最大限の努力を行っている。今後とも六者会合などの場を通じ、関係国とも緊密に連携・協力しながら、日朝協議に真剣に取り組み、北朝鮮に対し、拉致問題を含む諸懸案の包括的解決に向けた具体的な行動を求めていく。 グローバルパワーとして台頭するインドとの間では、2005年以降、首脳の年次往来が重ねられている。2009年12月には鳩山総理大臣がインドを訪問し、シン・インド首相との間で、安全保障や経済等幅広い分野で連携し、両国間の「戦略的グローバル・パートナーシップ」を更に強化・発展させることを確認した。 オーストラリアとニュージーランドは、アジア太平洋地域において日本と基本的価値を共有する重要な国々である。特に、オーストラリアとの関係は経済を中心とする二国間関係から深化し、国際社会の平和と安定のために共に取り組む戦略的パートナーシップへと発展している。 日本にとって重要なパートナーである太平洋島嶼(しょ)国については、2009年5月に北海道で第5回日・太平洋諸島フォーラム(PIF)首脳会議(太平洋・島サミット)を開催した。 東アジア首脳会議(EAS)において記念撮影に臨む鳩山総理大臣(右から4番目)(10月25日、タイ 写真提供:内閣広報室) 日中韓外相会議に臨む、左から柳明桓(ユミョンファン)・韓国外交通商部長官、楊潔(ようけつち)・中国外交部長、岡田外務大臣(9月28日、中国・上海) (北米) 日米両国は普遍的価値及び戦略的利益を共有する同盟国であり、日米同盟は日本外交の基軸である。冷戦終結後も依然として不安定な要素が存在しているアジア太平洋地域において、日米同盟は日本及び同地域の平和と繁栄の礎(いしずえ)として不可欠な役割を担っている。 日米関係は、政治、安全保障、経済、文化等の幅広い分野において極めて密接であり、日米両国は二国間の課題に適切に対処するとともに、アジア太平洋地域の平和と繁栄の確保や国際社会が直面する地球規模の課題について、様々な機会をとらえて緊密に協力することによって、日米関係を絶えず強化してきた。日米安全保障条約締結50周年を記念する2010年は、二国間関係はもとより、アジア太平洋地域や地球規模の課題における日米協力を強化し、日米同盟を21世紀にふさわしい形で深化させていくことが大きなテーマとなっている。 日本とカナダは、基本的価値を共有するアジア太平洋諸国のパートナー及びG8のメンバーとして、政治、経済、安全保障、文化等様々な分野で緊密に協力している。さらに、7月には、天皇皇后両陛下が初めてカナダを御訪問になり、日系人を含むカナダ国民から大きな歓迎をお受けになるなど、日加両国要人の活発な交流が行われ、カナダ国内における日本に対する関心も一層高まった。 首脳会談に臨む鳩山総理大臣(左)とオバマ米国大統領 (9月24日、米国・ニューヨーク 写真提供:内閣広報室) (中南米) 中南米地域は、4.2兆米ドルの域内総生産と5.6億人の人口を有し、経済成長率もここ5年間は、5%前後の成長を維持するなど、経済面での存在感を一層高めている。 日本は中南米との間で、伝統的に友好関係を有している。また、中南米諸国における民主主義の定着と経済発展を支援し、関係の緊密化を進めてきた。今日、中南米諸国は、日本にとって国際社会における重要なパートナーとなっている。日本は、[1]経済関係の強化、[2]地域の安定的発展の支援、[3]国際場裏(じょうり)における協力推進を三つの柱として同地域に対する外交を展開している。 日本は、経済連携協定(EPA)や投資協定などの法的枠組みの整備や相手国政府との協議などを通じ、日本と中南米における経済関係の一層の活発化を図っている。また、各国に根強く残る貧困や社会格差問題の解決のため、資金・技術協力を通じて、各国政府による取組を積極的に支援し、持続的な経済発展の実現に向けて協力している。ブラジルやメキシコなど、国際政治・経済に存在感を増大させている新興国等33か国を擁する中南米は、国際連合等での意思決定に大きな影響力を有していることを踏まえ、日本は中南米諸国との間で、地球規模課題への取組等において更なる連携・協調を図っている。 (欧州) 日本と欧州は、ユーラシア大陸の両端に位置しつつ、民主主義、人権、法の支配等の基本的価値を共有し、国際社会の安定と繁栄に向けて主導的な役割を果たすパートナーである。英国、フランス、ドイツ、イタリアといったG8参加国を擁し、世界の国内総生産(GDP)の約30%を占める欧州との関係強化は、経済・金融危機、気候変動問題、テロや大量破壊兵器の拡散等の地球規模課題に効果的に対応していく上で極めて重要である。特に、欧州連合(EU)は、新基本条約であるリスボン条約の発効により、国際社会での発言力の更なる増大が見込まれている。さらに、北大西洋条約機構(NATO)はその性格を冷戦時のものから変容させ、平和と安定に向けた活動領域を欧州・大西洋地域を越えてアフガニスタンなどにも広げている。日本は、EUやNATOとの間で多くの関心分野・地域を共有しており、協調・協力の意義は大きい。また、中・東欧諸国やバルト諸国との間でも、政治及び経済分野での対話と協力の拡大を進めている。 9月に新政権が発足すると、鳩山総理大臣は、総理就任から3か月余りで2度の欧州訪問を行ったほか、ナポリターノ・イタリア大統領、ブラウン英国首相、フィッシャー・オーストリア大統領、ラスムセン・デンマーク首相、バルケネンデ・オランダ首相、ショーヨム・ハンガリー大統領等との会談を行った。また、11月にファン=ロンパイ欧州理事会議長が選出された直後に電話会談を行い、日・EU関係の重要性について確認した。 (ロシア、中央アジアとコーカサス) ロシアは、アジア太平洋地域との関係強化を目指す方針をとっており、特に2009年9月の鳩山政権発足以降、日露関係の前進に強い意欲を示している。両国首脳間では、アジア太平洋地域における新たな日露関係を切り拓く意思を確認し、両国が同地域でパートナーとして行動すべきことで認識が一致している。両国がこの地域で協力と連携を深めていくことは、両国の戦略的な利益に合致するのみならず、地域の安定と繁栄に貢献し得る。そのためにも、日露間の最大の懸案である北方領土問題を最終的に解決して平和条約を締結するため、強い意思をもって精力的に交渉を行っている。 中央アジア・コーカサス諸国については、トルクメニスタン大統領の訪日やコーカサス3か国外相の訪日等を通じ、関係強化に弾みをつけた。 (中東と北アフリカ) 中東地域の平和と安定は、大量破壊兵器の拡散防止やテロの防止の観点から極めて重要であり、国際社会全体の平和と繁栄に直結する。また、日本は原油の約9割を同地域から輸入している。 2009年は、イスラエル軍のガザ進攻、アフガニスタンでのテロの継続、イランの核問題の深刻化等が見られた。日本は中東和平やイランの核問題等について、主要関係国と緊密に連携し、独自の関係に基づく働きかけを通じて、問題の解決に努力している。11月には、テロの脅威に対処するための新戦略として、アフガニスタン・パキスタンに対する日本の新たな支援策パッケージを発表した。さらに、G8、国連安保理など多国間の協力の場において中東外交を展開している。 また、中東は豊富なエネルギー資源と資金を背景に経済的発展を志向しており、更なる協力推進とビジネス関係構築の機会が生まれている。日本は近年中東諸国との間で、エネルギーを中心とする経済分野を軸とした関係を更に発展させ、政治、科学技術、教育、文化等幅広い分野における重層的関係構築のための取組を進展させている。 (サブサハラ・アフリカ) アフリカでは、2009年は世界経済・金融危機の影響による成長の減速、ミレニアム開発目標(MDGs)の達成がますます困難となることが懸念された1年となった。また、ソマリア、スーダン(ダルフール)での和平については依然として実質的な進展が見られなかった。 このような中で、日本は3月にボツワナにおいてアフリカ開発会議(TICAD)閣僚級フォローアップ会合を開催し、2012年までに対アフリカ政府開発援助(ODA)を倍増するなどのTICAD Wの公約を確実に実行することを表明するとともに、国際社会に対してアフリカへの支援強化を呼びかけた。TICAD Wの公約を確実に実行するとの方針は、9月の新政権誕生後も堅持され、鳩山総理大臣は、9月の国連総会において、TICADプロセスを継続・強化するとの考えを表明した。 また、日本は3月に、ジブチに海上自衛隊の活動を支援するための連絡事務所を設置するとともに、12月にモーリタニア、2010年1月にはベナンとルワンダに大使館を開設し、アフリカとの外交関係基盤を強化した。 (国際社会の平和と安定に向けた取組) 今日の国際的な安全保障環境は冷戦時代に比べ質的に変化しており、大量破壊兵器やミサイルの拡散、国際テロや海賊事案の増加、さらには、地球規模の問題などの非伝統的な脅威も増大している。こうした中で、日本がその領土を保全し、国民の生命・財産を保護し、持続的な繁栄・発展を確保するためには、伝統的な脅威のみならず、非伝統的脅威への対応も含めた多面的な安全保障政策が求められる。 (日米安全保障体制と地域安全保障) 日米安全保障体制は、戦後、アジア太平洋地域における安定と発展のための基本的な枠組みとして有効に機能し、日本及び極東に平和と繁栄をもたらしてきた。日本周辺に不安定な要素が依然存在している状況において、同盟国である米国と日米安保体制を一層深化させていくことは重要な課題である。また、アジア太平洋地域では、多国間の集団防衛的な安全保障機構は発達せず、米国を中核とした二国間の安全保障取極の積み重ねを基軸として、地域の安定が維持されてきている。日本は、この地域における米国の存在と関与を前提に、二国間及び多国間の政治・安保対話の枠組み及び経済的な相互依存を強化するための枠組みを、重層的に整備し強化していくことが現実的で適切な方策であると考えている。 (国連) また、分野別の課題についても、日本は積極的に取り組んでいる。軍縮・不拡散については、日本は、かねてから安全保障環境を改善し、平和な世界を築く上での重要な課題として積極的に取り組んでおり、2009年も、核兵器不拡散条約(NPT)を基礎とする軍縮・不拡散体制の維持・強化に向け、主導的な役割を果たしてきた。 そのほか、日本は、依然として世界中で問題となっている地域紛争、テロ、国際組織犯罪等についても主体的な役割を果たしている。また、海洋国家であり貿易立国である日本にとって海上の安全を確保することは極めて重要な課題であり、ソマリア沖海賊問題にも、海自艦船・P-3Cの派遣や、ソマリアや周辺国への支援等積極的かつ多層的な取組を行っている。それに加え、世界各地で依然として問題となっている地域紛争や内戦については、平和構築の重要性が高まっており、日本は、平和構築を主要な外交課題の一つとし、国連平和維持活動(PKO)等への貢献、ODAを活用した現場における取組等を具体的に推進してきている。テロに関しては、国際社会は2001年9月の米国同時多発テロ以降、テロ対策を最優先課題の一つと位置付け、様々な場において、テロ対策の強化を進展させてきた。また、国際社会における人の移動の拡大や情報技術(IT)の高度化に伴い、国境を越える国際組織犯罪は、一層広域化・高度化しており、その問題解決に向け日本も国際的な取組に積極的に参画している。 人権、民主主義は普遍的な価値であり、その普及は国際社会の平和と安定に資するものである。日本は、多国間及び二国間の取組を連携させつつ、包括的に人権・民主主義外交の強化を図っていく考えである。また、日本は、国際社会における法の支配の促進を外交政策の重要な柱の一つとして位置付け、様々な取組を積極的に行ってきている。 (分野別に見た安全保障への取組) また、分野別の課題についても、日本は積極的に取り組んでいる。軍縮・不拡散については、日本は、かねてから安全保障環境を改善し、平和な世界を築く上での重要な課題として積極的に取り組んでおり、2009年も、核兵器不拡散条約(NPT)を基礎とする軍縮・不拡散体制の維持・強化に向け、主導的な役割を果たしてきた。 そのほか、日本は、依然として世界中で問題となっている地域紛争、テロ、国際組織犯罪等についても主体的な役割を果たしている。また、海洋国家であり貿易立国である日本にとって海上の安全を確保することは極めて重要な課題であり、ソマリア沖海賊問題にも、海自艦船・P-3Cの派遣や、ソマリアや周辺国への支援等積極的かつ多層的な取組を行っている。それに加え、世界各地で依然として問題となっている地域紛争や内戦については、平和構築の重要性が高まっており、日本は、平和構築を主要な外交課題の一つとし、国連平和維持活動(PKO)等への貢献、ODAを活用した現場における取組等を具体的に推進してきている。テロに関しては、国際社会は2001年9月の米国同時多発テロ以降、テロ対策を最優先課題の一つと位置付け、様々な場において、テロ対策の強化を進展させてきた。また、国際社会における人の移動の拡大や情報技術(IT)の高度化に伴い、国境を越える国際組織犯罪は、一層広域化・高度化しており、その問題解決に向け日本も国際的な取組に積極的に参画している。 人権、民主主義は普遍的な価値であり、その普及は国際社会の平和と安定に資するものである。日本は、多国間及び二国間の取組を連携させつつ、包括的に人権・民主主義外交の強化を図っていく考えである。また、日本は、国際社会における法の支配の促進を外交政策の重要な柱の一つとして位置付け、様々な取組を積極的に行ってきている。 第6回包括的核実験禁止条約(CTBT)発効促進会議で演説する岡田外務大臣(9月24日、米国・ニューヨーク) (日本と国際社会の繁栄に向けた取組) 現在、世界は、貧困や飢餓、感染症、環境・気候変動問題、世界金融・経済危機など、複雑かつ多様な課題に直面し、多くの人々が生命の危機や厳しい生活状況にさらされている。こうした中、誰もが人間らしく生きられる平和で豊かな社会の実現に向け、国際社会全体が協力する必要性が増大している。したがって、これらの課題への対応において、日本が自らの経験と構想力に基づいてリーダーシップを発揮し、問題の解決に貢献していくことは極めて重要となっている。 (国際協力の推進) 日本は、2009年も引き続き人間の安全保障の推進に積極的に取り組むとともに、MDGs達成に向けて、保健や教育等の各分野における支援策の着実な実施等を通じて国際社会に貢献してきた。また、国際社会にとっての最重要課題の一つであるアフガニスタン及びパキスタン支援については、11月、両国の安定に向けた取組を支援するための新戦略を発表した。アフリカ支援については、TICAD Wで表明したアフリカ向けODA倍増等の公約の着実な実施を通じて、アフリカの開発と成長、平和と安定への支援を実施している。 日本は、国際機関や非政府組織(NGO)、企業とも連携しつつ、開発途上国の開発及び地球規模の課題への取組に積極的な役割を果たすことを通じて、世界の平和と繁栄に貢献し、また、貧困等により深刻な状況に置かれている開発途上国の人々への共感を大切にし、国民に理解・支持されるような国際協力の推進に一層努めていく。 気候変動や生物多様性の損失を含む地球環境問題は、地球上の生命を脅かし、人類の生存に対する深刻な脅威である。日本はこの脅威に立ち向かうため、地球環境問題への取組を外交上の重要課題として位置付け、グローバルな議論を主導している。 (環境・気候変動) 気候変動問題については、9月の国連気候変動首脳会合において、鳩山総理大臣は、すべての主要国による公平かつ実効性のある国際枠組みの構築と意欲的な目標の合意を前提に、温室効果ガスの排出を2020年までに1990年比で言えば25%削減するとの目標を発表するとともに、「鳩山イニシアティブ」として開発途上国に対する支援策を発表し、気候変動をめぐる国際交渉の進展に弾みをつけた。 上記に加え、生物多様性の保全も地球人類にとって早急に達成すべき課題である。2010年の愛知県名古屋市における生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の開催に向け、日本も議長国としての責任を果たしつつ、主体的な貢献を進めている。 (国際経済分野における取組) 世界経済に関する2009年最大の課題は、2008年9月のいわゆるリーマン・ショックによって決定的となった世界経済・金融危機の克服であった。その対処にあたっては、世界経済において重要性を増しつつあった新興経済国の関与の必要性が認識され、先進国と新興経済国の経済政策調整の場として、G20サミットが大きな役割を果たした。日本は、G20に加え、世界規模の課題に関する問題意識を共有する先進国の集まりであるG8を通じて、気候変動、開発、食料安全保障、エネルギー安全保障等の国際社会が迅速に解決することが求められている諸問題に対し、指導力を発揮した。 貿易・投資の自由化の推進は、日本の経済的繁栄のために不可欠であり、対外経済政策の重要な柱である。貿易分野では、保護主義を抑止するとともに、世界経済を持続可能な回復に導くため、世界貿易機関(WTO)体制の整備・強化が引き続き重要な課題である。保護主義の抑止については、G20ロンドン・サミット、G8ラクイラ・サミット、G20ピッツバーグ・サミットを始めとする首脳会合において、保護主義的な動きをけん制する強いメッセージが発出された。 WTOを中心とする多角的自由貿易体制を補完する取組として、日本は、EPA及び自由貿易協定(FTA)交渉を積極的に推進している。2009年にはベトナム及びスイスとのEPAが発効した。また、5月にはペルーとの交渉を開始したほか、湾岸協力理事会(GCC)・インド・オーストラリアとの交渉を積極的に進めている。交渉中断中の韓国とも、交渉再開に向けた環境醸成のため、実務協議を行っている。 日本は、模倣品・海賊版が世界中に拡散し、世界経済の持続可能な成長に対する脅威となっていることを踏まえ、二国間、多国間で知的財産権保護の強化のための様々な取組を行っている。このような知的財産権の保護強化を始め、租税条約・投資協定・社会保障協定を通じた法的・制度的基盤の整備は、海外に進出する日本企業の活動を支援し、日本経済の活性化に資するという意義をも有するという点で重要である。 また、日本は、国民生活の基盤となるエネルギー、鉱物、食料等の資源の多くを輸入に頼っており、経済安全保障の強化は、基本的外交目標の一つである。新興国の成長や気候変動等により、資源をめぐる枠組みが変化しつつある中、日本への資源供給の長期的な安定のためには、官民一体となっての資源確保への取組に加え、世界全体の責任ある資源開発・利用に向けた国際連携を促進していくことが必要である。こうした観点から、日本は、国際エネルギー機関(IEA)や近く正式発足が見込まれる国際再生可能エネルギー機関(IRENA)等の取組に積極的に参加しているほか、「責任ある国際農業投資の促進に関する高級実務者会合」を主催するなど、この分野で主導力を発揮している。 上記のような諸問題に対応する上でも、日本の科学技術に対する国際社会の関心と期待は高いものがあり、2009年も科学技術や宇宙を国際協力のフロンティアの一つとして位置付け、新たな外交ツールとしての「科学技術外交」・「宇宙外交」を引き続き推進している。 (日本への理解と信頼の促進に向けた取組) 外交政策の効果的な展開のためには、各国の政策決定層に対する直接的な働きかけに加えて、その支持基盤となる各国の一般国民層への情報発信や交流の促進を通じて、日本への関心を高め、良好な対日印象の形成に努めることが重要である。政府としては、海外広報を通じて、日本の外交政策や一般事情に関する諸外国国民の理解の増進を図るとともに、多面的な日本の魅力を積極的に発信し、文化交流を促進することで、各国国民の対日イメージや親近感の向上に努めている。このような観点から、外務省は、海外での日本語普及、ポップカルチャーを始めとする現代日本文化の紹介、有識者層や外国のメディアを対象とした外交政策等の発信を行っている。 外務省は、各国との間における外交上の節目となる年に「周年事業」を展開している。2009年はメコン諸国との間で「日メコン交流年2009」、ドナウ川沿岸国との間で「日本・ドナウ交流年2009」として、集中的に交流事業を行った。また、開発途上国に対しては、文化無償資金協力を実施しているほか、国連教育科学文化機関(UNESCO(ユネスコ))等と協力しつつ、文化遺産の保存修復や人材育成を積極的に支援したり、文化分野での国際協力の枠組みづくりや規範の策定に知的貢献をしている。 (外交実施体制と日本人の活躍) 日本がその国益を確保し、国際社会の様々な課題に的確に対応するには、限られた人的・物的資源を最大限に活用できる外交実施体制を整えておく必要がある。そのためには、国際社会で活躍する様々なプレーヤーと十分連携し、オール・ジャパンでの機動的な外交を進めることが重要である。例えば、国際協力の担い手としての重要性が高まっているNGOとの連携を強化することは効果的である。また、青年海外協力隊(JOCV)・シニア海外ボランティア(SV)参加者も現地の人々と同じ目線でその国が抱える問題を解決するために一緒に汗を流して取り組み、国際協力の重要な担い手となっており、外務省としては引き続き協力を推進していく考えである。 (海外における日本人・日本企業への支援) 今日、海外には約111万人の日本人が居住し、海外へ渡航する日本人数も年間1,590万人を超え、国際社会の様々な分野・地域で多くの日本人が活躍している。その一方で、日本人が海外で多種多様な危険に遭遇する機会も増加しており、日本人の生命・財産を適切に保護することは政府の重要な任務であるという考えの下、外務省では海外で暮らす日本人が安心して生活できるよう積極的に支援を行っている。それに加え、海外に暮らす日本人の生活の基礎となる各種行政サービス、支援についても実施・整備を行っている。 また、近年グローバル化が進展する中、日本企業が海外で活発な活動ができるよう支援することは、外務省の重要な課題の一つであり、日本企業からの問い合わせや要望に対応するとともに、規制改革やビジネス環境改善にも取り組んでいる。 (国民への情報発信と地域・社会の国際化) 外交政策の遂行に当たっては、国民の理解と支持を得ることが不可欠である。そのため、政策の具体的内容や外務省の役割等について、タイミング良く、かつ分かりやすい説明を行うことが重要であり、外務省としては、新聞・テレビ・インターネットなどの各種メディアを通じた的確な情報発信に努めている。 それに加え、オール・ジャパンでの総合的外交力を強化するため、外務省は、地方・地域を外交を推進していく上での重要なパートナーと位置付け、連携を強化している。 また、日本に入国、滞在する外国人の増加に対する取組も重要であり、在日外国人問題についての意識啓発を目的に、外務省は、2010年2月に地方自治体や国際機関と共同で国際シンポジウムを開催した。