【各論】 1. 欧州情勢 (1)EU  EUは、1月のブルガリア、ルーマニアの新規加盟により、加盟国数27か国、人口約4億9,000万人、国内総生産(GDP)約14兆6,000億米ドルを擁するまでに拡大した。  EU加盟国は、フランス、オランダの国民投票(2005年5月、6月)で否決された欧州憲法条約に代わり、EUの機構の効率化と外交面を含めた機能強化を図るべくリスボン条約に10月のEU非公式首脳会合で合意し、12月に加盟国首脳が署名した。2009年1月1日の発効を目指し、各国の批准作業が進んでいる。リスボン条約の発効により、常任の欧州理事会議長職、EU外交・安全保障政策上級代表職、欧州対外活動庁の創設を通じて、外交実施体制の強化が期待される。  経済面では、世界の金融市場の混乱による影響から緩やかな成長となったものの、2007年の実質GDP成長率はユーロ圏で2.7%、EU(27か国)で2.9%となる見通しである。また、雇用が産業分野、就労形態、国を越えて改善した結果、EU域内で2007年中に約360万人の新規雇用が創出され、失業率は2006年の8.2%から2007年には7.1%まで低下する見通しである。  こうした中、EU加盟国の財政状況にも改善が見られ、過剰財政赤字状態(財政赤字が対GDP比3%超等)にある加盟国は、2007年には11か国から6か国に減少した。  また、2004年以降にEUに加盟した12か国のうち、スロベニアは2007年1月からユーロを導入したほか、キプロス、マルタでも、欧州委員会及び欧州中央銀行による審査の結果、2008年1月からユーロが導入され、これによりユーロ圏は15か国となった。出入国審査なく国境を往来できるシェンゲン協定についても、2007年12月に適用国が15か国から24か国に拡大した。  外交面では、イランの核問題で、英国、ドイツ、フランスのいわゆる「EU3」及びソラナ共通外交・安全保障政策(CFSP)上級代表がイランに対する働きかけを行い、積極的な役割を果たしている。さらに、平和構築の分野では、引き続き、マケドニア旧ユーゴスラビア共和国、ボスニア・ヘルツェゴビナでミッションを展開するほか、コンゴ民主共和国及びアフガニスタンへも文民警察を派遣するなど、軍事、文民の両面において国際社会の平和と安定のための取組に積極的に参加している。 ■図表■ EU拡大 ■図表■ EUの深化と拡大 (2)英国  英国では、5月にブレア首相が辞任を表明し、6月に10年にわたるブレア政権を蔵相として支えてきたブラウン氏を首相とする新政権が発足した。その直後にロンドン及びグラスゴーにおいて車両によるテロ未遂・テロ事件が発生したこともあり、新政権にとっても、治安、テロ対策は引き続き重要分野となっている。また教育、医療等公共サービスも中心課題となっている。北アイルランドにおいては、3月に議会選挙が行われ、5月に約5年ぶりに自治政府が再開し、北アイルランド和平への大きな進展として歓迎された。外交政策においては、基本的にブレア前政権による既定路線を継承しつつ、開発、アフリカ、気候変動問題等に積極的な姿勢を見せている。イラクについては、2008年春までに駐留英軍の大幅な撤退を行うことが発表されている。  日本との関係では、5月に天皇皇后両陛下が英国を御訪問されたほか、1月の安倍総理大臣訪英や5月のベケット外務・英連邦相訪日、また両首脳・外相間の累次にわたる電話会談等を通じ、戦略的パートナーとしての日英関係の強化が図られた。 (3)フランス  フランスでは12年間続いたシラク政権に代わり、5月に与党国民運動連合(UMP)公認候補のサルコジ氏が大統領に選出された。サルコジ大統領はフィヨン元国民教育相を首相とし、女性が半数近くを占め、中道・左派の人材を広く取り込んだ内閣を始動させた。6月の国民議会選挙で、与党UMPの安定多数を確保したサルコジ大統領は、選挙公約としていた各種社会制度改革への取組を開始した。労組側の反発に対しては、サルコジ大統領は改革への決意を強調する一方、対話によって解決する姿勢を示しており、今後の労組との対話・交渉が注目されている。  外交面で同大統領は、欧州、地中海諸国、大西洋地域を重点とし、積極的に外遊を実施、特に米国との関係を改善した。  日本との関係では、1月、安倍総理大臣がフランスを訪問し、シラク大統領と首脳会談を行い、その中で両首脳は2008年の日仏外交関係開設150周年を機に友好協力関係を一層強化することで一致した。6月のG8ハイリゲンダム・サミットにおいて、安倍総理大臣はサルコジ大統領と会談を行い、9月の国連総会の際に、町村外務大臣とクシュネール外務・欧州問題相との間で外相会談が行われ、気候変動問題、安保理改革等を含む国際社会における諸課題について対話が進展した。 (4)ドイツ  ドイツでは、メルケル首相率いるキリスト教民主同盟/社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)とによる大連立政権が、年金・医療改革、財政再建等の様々な課題に取り組み、着実に成果を上げた。最大の懸案であった失業問題では、好調な経済に後押しされ、失業率が漸減している。2007年のG8議長国及び同年前半のEU議長国として、気候変動対策やEU改革条約のとりまとめに成功したこと等により、メルケル首相の指導力に内外の評価が高まった。  日本との関係では、首相の相互訪問の機会を含めた計4回の首脳会談(電話会談を含む)をはじめ、あらゆるレベルで緊密な協議・協力が行われた。例えば、G8ハイリゲンダム・サミットでの気候変動に関する議論では、安倍総理大臣より「クールアース50」を紹介し、メルケル・ドイツ首相議長下でのG8首脳間の見解のとりまとめに寄与した。経済面では、ドイツは日本にとってEU加盟国中最大の貿易相手国となっている。こうした流れを背景に、10月に欧州最大級の日本人社会を擁するデュッセルドルフ市があるノルトライン・ヴェストファーレン州のリュトガース州首相が訪日するなど、日独経済関係の更なる深化が期待される。 (5)イタリア  イタリアでは、2006年に発足したプローディ首相率いる中道左派連合政権が、引き続き規制緩和措置や脱税対策強化などをはじめとする経済財政政策に積極的に取り組んだ。2月には議会におけるダレーマ副首相兼外相の外交政策に関する演説を巡って、プローディ首相がいったん辞表を提出する事態に至ったが、ナポリターノ大統領がプローディ首相の続投を決定し、事態の収拾が図られた。しかし、2008年1月末には、汚職疑惑を受け司法大臣が辞職し、与党連立が崩れ、上院でプローディ内閣に対する信任投票が否決された。2月初めに上・下両院が解散され、4月に総選挙が実施される予定となった。経済面では、2007年度予算に盛り込まれた赤字縮減策の効果もあって、2003年以降3%を超過している財政赤字の対GDP比は2007年には2.5%まで低下することが見込まれている。外交面においては、EU重視、国連をはじめとする多数国間の枠組み重視の立場を維持するとともに、対アジア外交を含む地域外交も活発に展開した。  日本との関係では、1月にダレーマ副首相兼外相、3月にルテッリ副首相兼文化財・文化活動相、4月にプローディ首相が訪日するなど、イタリアの対日関係重視の姿勢が見られ、政治対話が強化された。さらに、3月から6月まで大規模交流事業「イタリアの春・2007」が日本で開催され、「レオナルド・ダ・ヴィンチ―天才の実像」展をはじめとする300以上に及ぶ各種イタリア紹介事業・日伊交流事業が開催され、イタリア文化に対する関心が更に高まった。 ■写真■ 「イタリアの春・2007」の一環として開催された特別展「レオナルド・ダ・ヴィンチ―天才の実像」を訪れるプローディ・イタリア首相夫妻(左)と安倍総理大臣夫妻(右)(4月16日、東京国立博物館 写真提供:内閣広報室) (6)スペイン・ポルトガル  日本とスペインの関係では、5月末、麻生外務大臣がスペインを訪問し、モラティノス外務・協力相との会談を行ったほか、フアン・カルロス一世国王陛下拝謁、サパテロ首相表敬を行った。外相会談では、労働・居住査証の発給の迅速化、中南米における国際協力、国連安全保障理事会等の国際的諸課題について対話が進展した。  また、ポルトガルからは2月にアマード外相が外務省賓客として訪日し、麻生外務大臣と外相会談等を行った。両大臣は日・ポルトガル二国間関係の更なる促進や東ティモール、アフリカ支援のために両国間で協力していくことで一致した。 (7)北欧・バルト諸国  日本と北欧・バルト諸国との間では、活発な要人往来を通じ、二国間関係の更なる緊密化が図られた。3月には、カール16世グスタフ・スウェーデン国王同妃両陛下が国賓として日本を訪問、5月には、天皇皇后両陛下がスウェーデン、エストニア、ラトビア及びリトアニアを御訪問になり、友好協力関係を一層高める機会となった。また、スウェーデンからは3月にビルト外相、ラトビアからは6月にパブリクス外相、フィンランドからは8月にカネルヴァ外相、ノルウェーからは10月にストーレ外相が訪日するなど、北欧・バルト諸国からの外相の訪日も相次ぎ、外相会談を通じて二国間の友好関係の強化や様々な国際問題での協力について意見の一致を見た。 ■写真■ 日・ハンガリー協力フォーラムに出席する両国の座長(米倉弘昌・日本経団連副会長(左)とヴィジ・ハンガリー科学アカデミー総裁(右)) (11月23日、ハンガリー・ブダペスト) (8)中・東欧諸国  2004年にEUに加盟したハンガリー、チェコ、スロバキア、スロベニア、ポーランドや2007年に加盟したルーマニア、ブルガリアは、総じて親日感情が強く、過去の対日世論調査でも、多くの国で、日本を信頼できる国と考える割合が85%以上に達している。このような良好な対日感情を基礎に、中・東欧諸国との間では政治・経済分野をはじめとする二国間協力関係の一層の強化が課題である。麻生外務大臣の2007年1月及び5月の2度の訪欧では、各国との間で基本的価値を共有するパートナーとして協力関係を一層強化することで一致し、5月の第2回V4+1外相会合では、今後の協力の方向性等を打ち出したプレス・ステートメントを発出した。日本と中・東欧諸国との経済関係も着実に進展しており、中・東欧7か国(ハンガリー、チェコ、スロバキア、ポーランド、スロベニア、ルーマニア、ブルガリア)に進出している日系企業数は2005年から2006年にかけて約1割増加した。 (9)西バルカン諸国、コソボ  日本は、西バルカン地域の安定のため、西バルカン諸国のEU加盟に向けた改革努力を支援しており、例えば、日本は3月に東京においてV4・南東欧投資促進セミナーを開催し、この地域による日本からの投資誘致努力を後押しした。  セルビアの一自治州で、国連の暫定統治下のコソボについては、その最終的地位の確定交渉を行ってきた元フィンランド大統領のアハティサーリ国連特使が3月に国際社会の監督下のコソボの独立を認める解決案を国連安全保障理事会に対して提出し、4月以降、同理事会において協議が行われたが、7月に中断された。8月からは米国、ロシア、EUの三者の特使の仲介で新たな交渉が再開されることになったが、同交渉によっても成果は上がらず、2008年2月、コソボ議会は、コソボの独立を宣言した。 (10)GUAM(注2)  GUAM諸国は、日本外交の地平を拡大する取組の最前線の一つであり、対話と協力の強化が課題である。6月から開始した日本とGUAMとの対話(第1回「GUAM+日本」会合(於:アゼルバイジャン)、第2回「GUAM+日本」会合(於:日本))では、当面の協力分野として、[1]省エネ技術を含む環境面での協力、[2]経済関係強化の2分野を挙げ、具体的な協力について協議をしている。9月には、その第一歩として、GUAMから省エネ技術に携わる専門家を訪日招聘した。 ■注釈■ (注2)GUAMは、グルジア、ウクライナ、アゼルバイジャン、モルドバ4か国の頭文字をとった地域機構で、1997年創設。2006年に「民主主義と経済発展のための機構GUAM」と改称した。