ソフト・パワー  「ソフト・パワー」は最近よく耳にする言葉ですが、これを明確な概念として最初に提示したのは、ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授です(1990年:著書名「不滅の大国アメリカ」)。彼によれば、国際政治において軍事力や経済力によって他国をその意に反して動かす力が「ハード・パワー」であるのに対し、良い理念や文化によって相手を敬服させ、魅了することによって自分の望む方向に動かす力が「ソフト・パワー」です。民主主義が広がって市民が一層政策決定に参画するようになるにつれて、またIT化によって情報伝達手段が発達するにつれて、このソフト・パワーが国際関係で果たす役割が急速に増してきたというのです。ナイ教授はその例として、アメリカの民主主義の理念というソフト・パワーがソ連を崩壊に導いたことを指摘しています。  軍事力を国際紛争解決の手段として使わぬことを誓い、かつ伝統的な文化のみならず最近のポップ・カルチャーなど世界に誇る文化をもつ日本には、このソフト・パワーの潜在力があり、それをさらに引き出し、顕在化させることで、世界における日本の地位を向上させようという議論が、最近日本でも行われつつあります。  ただ、ここで注意すべき点は、軍隊や財政力がハード・パワーで、文化はソフト・パワーであるというように自動的に定義するのは慎むべきであり、何がハード・パワーで何がソフト・パワーかは、あくまでその力の源泉の使い方次第で決まるということです。例えば政府開発援助(ODA)自体は経済的手段ですが、相手国に特定の経済発展のあり方を押しつけるのではなく、日本がこれまでやってきたように、相手の話をよく聞き、相手の望むように助けていくことによって、結果的に日本への感謝の念や好感を生んだことは、まさに日本のソフト・パワーであるということができます。イラクに派遣されている自衛隊も、何かを強制するのではなく、人道・復興面でイラク人の努力を支援し、感謝されているのですから、限りなくソフト・パワーに近いと言うことができるでしょう。