馬車で皇居へ・鴨場で空へ  どんな国の大使が、どんな国に派遣されてもまず、その国の元首※1 に対して信任状を捧呈し※2 、それから仕事が始まります。3月24日現在、東京には136か国の大使館があり、本国と赴任国である日本の関係を促進するために日々活動しています。派遣されてきた大使にとって日本はどんな国なのでしょう。  日本では、天皇陛下が国事行為である信任状捧呈式を通じてこれらの大使を接受されています。平均3年位が任期なので、新任の大使は毎年40名前後を数えます。この年間件数は、外務省がお願いしている陛下の御公務の相当部分が、捧呈式とその準備に割かれていることを意味します。この儀式のために宮内庁から用意される東京駅と宮殿を往復する特別仕立ての馬車列と遭遇した読者もおられるでしょう。正門に向う数台の馬車は、騎馬警官隊に先導され、石畳に蹄の音がこだまします。東京駅には赤い絨毯が敷かれ、駅長さんも白い正装で送り出します。捧呈式用の馬車列が世界で残されているのは、英国、スペインと日本だけという話も聞かれます。大国であろうと小国であろうと、着任する大使は、陛下に信任状を捧呈し、その国と日本のために尽力しようと決意を新たにするのです。  捧呈式から一段落した頃、天皇皇后両陛下と皇太子同妃両殿下が別々の機会に、新任の駐日大使夫妻を茶会に御招待されます。また、駐日大使夫妻は全員、毎年、1月の新年祝賀の儀、4月の赤坂御苑での園遊会と12月の天皇誕生日茶会の儀の3回招待を受け、天皇皇后両陛下及びこれらの行事に出席される皇族の方々と親しくお話する機会が与えられます。さらに宮中午餐に招かれ両陛下や皇族方との親交が深められていくことになります。天皇陛下、皇太子殿下以外の皇族方は、外国の友好団体や各種団体の総裁や名誉総裁をされています。皇族方はまた、駐日大使夫妻のため新浜と埼玉にある鴨場において、冬になるとシベリアから渡ってくる鴨を、餌付けしたアヒルと一緒に池から水路におびき寄せ、飛び立ってくるところを大きな網で捕獲する伝統的技法による鴨猟の接待に御臨場になっています。捕まえた鴨は、鳥類保護のために足輪をつけられ、駐日大使夫妻の手によってもう一度空に戻されます。鴨場接待は、世界中を代表する方々に日本の美しい自然、伝統、文化、歴史、そしてホスピタリティーを感じていただくのに絶好の機会となっています。 ▲信任状捧呈式の馬車列(提供:宮内庁) ※1 通常、信任状は元首に捧呈されるが、カナダ、ニュージーランドのように元首にかわって総督に対して捧呈される国もある。 ※2 信任状:信任状とは、派遣国元首から、接受国の元首に宛てた書簡。信任状には、接受国との友好関係を増進することの希望、派遣した特命全権大使、又は大使に相当する使節が、信頼に値すること、接受国元首による同使節に対する厚遇を依頼し、同使節が本国元首または、政府の名において述べることへの全幅の信用が寄せられるよう希望するとの趣旨が記述されている。 捧呈:手に捧げて奉ること。ここでは信任状を天皇陛下に直接提出すること。