4 地域安全保障  アジア太平洋地域では、政治・経済体制、文化的・民族的な多様性等を背景として、欧州における北大西洋条約機構(NATO)のような多国間による集団防衛的な安全保障機構は発達せず、米国を中核とした二国間の安全保障取極の積み重ねを基軸として地域の安定が維持されてきた。日本は、自国を取り巻く安定した安全保障環境を整備し、アジア太平洋地域の平和と安定を確保していくためには、この地域における米国の存在と関与を前提としつつ、二国間及び多国間の対話の枠組みを幾重にも重ねる形で整備し、強化していくことが現実的で適切な方策であると考えている。  二国間の枠組みとして、日本は、ロシア、中国、韓国、インド等の諸国との間で、安全保障に関する対話や防衛交流を行い、相互の信頼関係を高め、安全保障分野における協力関係を進展させるよう努めている。  また、多国間の枠組みとして、日本はアジア太平洋地域の主要国が参加する全域的な政治・安全保障の枠組みであるASEAN地域フォーラム(ARF)を活用している。ARFは、1)信頼醸成の促進、2)予防外交の進展、3)紛争へのアプローチの充実、という三段階のアプローチを設定して漸進的な進展を目指している。これまでの会合を通じて、参加国自身を当事者とする問題(朝鮮半島情勢、インドネシア情勢、ミャンマー問題等)を含めて、率直な意見交換を行う慣習が生まれつつある。また、参加国が地域の安全保障に関する自国の情勢認識等を作成して、ARF議長国が取り纏める「年次安全保障概観(Annual Security Outlook : ASO)」の刊行やテロ対策等の各種会合の開催などの具体的な信頼醸成措置も実施されており、参加国間の信頼関係の醸成に大きく貢献している。さらに、第2段階である予防外交の進展についても具体的な取組に向けた議論が行われており、ARFはアジア太平洋地域における政治・安全保障に関する対話と協力の場として緩やかではあるが、着実に進展している。2004年7月に行われた第11回閣僚会合においては、パキスタンが新たに参加するとともに、朝鮮半島情勢、ミャンマー情勢等の地域情勢に関する意見交換が行われた。また、テロ、大量破壊兵器の拡散問題に対して協力して取り組むことの重要性が確認され、テロ対策、不拡散に関する声明がそれぞれ採択された。さらに、ハイレベルの軍及び政府関係者による「ARF安全保障政策会議(ASPC)」の開催が決定され、2004年11月に第1回会合が北京において開催された。今後は高級事務レベル会合に併せて議長国において開催される予定である。  ARFは、これまで各国間の信頼醸成の促進に着実な成果を上げてきたが、今後はより高い次元の協力を目指すべき時期にきている。具体的には、予防外交に向けた議論を深化・促進させていくことが重要であり、このために、民間有識者の積極的な活用や、議長制度の改革、更には中長期的な視点からの組織のあり方検討などを行っていくことが必要である。