【政治・経済情勢】  2004年にはエルサルバドル、ドミニカ共和国、パナマ、ウルグアイにおいて大統領選挙が実施され、全体として平穏裡に選挙は終了し、中南米において民政移管以降民主主義が着実に定着していることが示された。また、中南米の経済については、1990年代を通じて、貿易の自由化や国営企業の民営化といった新自由主義的な経済改革により、概ね順調な経済成長が達成された後、2001年以降の世界的な経済成長の鈍化やアルゼンチン金融危機等の影響を受け一旦減速したものの、2003年からの世界経済回復を通じた需要増や主要輸出産品価格の改善などにより全体として回復基調に移行し、2004年においては、地域全体で5.5%(2005年1月時点国連・ラテンアメリカ・カリブ経済委員会による予測)と高い成長率を達成した。  他方、マクロ経済指標の改善とは裏腹に、域内・国内の貧富の格差、失業率の増大などの社会問題の深刻化も見られる。1990年代以降急速に新自由主義的経済政策を展開した従来の政党政治が、これらの社会問題に適切に対処出来なかったとの認識から、近年、既存の伝統的政党に依らない、貧困層や労働者階級等の新たな支持基盤に基づく政権が、ベネズエラ、ブラジル、アルゼンチンなどで誕生した。2004年も、ウルグアイの大統領選挙で同国で初めて左派野党出身候補が当選し、今後もこのような傾向は続く可能性がある。しかし、こうした政権も、国内の貧困対策等に一層目を向けつつも、概ね新自由主義的な開放政策に基づく現実的な穏健路線を選択している。  また、政治面の域内統合の動きにも緩やかであるが進展が見られ、域内各国が協調して国際的な問題に対処することで、国際的な発言力、影響力を高めつつある。将来に向けた動きとしては、12月に開催された第3回南米サミットにおいて、政治、社会、インフラといった多分野での統合を目指す「南米共同体」を創設することが決定されたことが挙げられる。また、カリブ共同体(CARICOM)や中米統合機構(SICA)は、既に進展している域内統合の代表例であり、日本は、このような地域統合の進展を踏まえ、国連総会の機会を利用した日・カリコム閣僚レベル会合など、これら機関とのハイレベルでの意見交換の実施や、国際場裡での協力を通じ、関係の強化に努めている。小泉総理大臣は、二度にわたり中南米を訪問した際に行った各国首脳との会談に加え、5月に訪日したマドゥーロ・ホンジュラス大統領、及び6月に訪日したボラーニョス・ニカラグア大統領とそれぞれ首脳会談を実施した。その際、二国間の関係強化や国連改革等に関して国際場裡での関係の強化について意見の一致をみるとともに、2005年が日本と中米5か国(エルサルバドル、グアテマラ、コスタリカ、ニカラグア、ホンジュラス)との外交関係樹立70周年にあたるという機会を活かし、日本・中米首脳会談を開催することが提案された。  さらに、APEC首脳・閣僚会議等がチリで、12月に気候変動枠組み条約第10回締約国会合(COP10)がアルゼンチンで開催されるなど、中南米の主要国が様々な分野で国際会議の舞台にもなった。こうした国際会議の機会を利用し、日本からは、小泉総理大臣、町村信孝外務大臣、谷垣禎一財務大臣、河村建夫文部科学大臣、中川昭一経済産業大臣(以上APEC首脳・閣僚会議等)、小池百合子環境大臣、小野寺五典外務政務官(以上COP10)等の政府要人が中南米諸国を訪問して、中南米諸国の政府要人と会談を実施した。これは、今後「日・中南米 新パートナーシップ構想」を具体化していくための良い契機となった。