国際機関で活躍する日本人職員 〜長谷川UNMISET代表兼事務総長特別代表〜  今世紀最初に誕生した国、東ティモールの地を踏んだのは、その独立から約2か月後の2002年7月15日でした。空港から政府庁舎に着くまでの約15分間、暴動によって荒廃した街中で、将来への不安を見せつつも自由を勝ち取った希望に充ちた人々の顔が印象的でした。24年間、平和を願い続けてきた人々の笑顔を絶やしてはならないと痛感した瞬間でした。  国連東ティモール支援団(UNMISET)は、同年5月に新しく誕生した政府の民主的かつ持続可能な政治行政基盤づくりを支援する任務を与えられています。また、法の支配を確立するため、警察官に対して、人権を擁護するための治安維持活動を行うだけでなく市民に信頼されるように訓練を行っています。このほか、新政府が円滑に機能するよう各省庁に専門家を派遣し、腐敗のない行政機能づくりを支援しています。  国連事務総長特別代表の重要な役割の一つは、東ティモールがより良い統治(ガバナンス)を行うための枠組みを形成する上で、国際社会の基準を満たすよう見守り助言する事です。私は、毎週、アルカティリ首相と会談し、日々直面する様々な問題や将来の国づくりについて助言をしています。また、中央政府の役人と地方の人々との対話にも参加し、市民社会のニーズを把握するよう努めています。復興開発の進捗と必要な支援を国連安保理に報告するだけでなく、現地の人々に国際社会の声を伝えるという大役を任されています。  私は国連開発計画(UNDP)常駐代表も兼任しているため、様々なプロジェクトの視察や鍬入れなどを理由に、グスマン大統領をはじめ政府要人と共に地方へ行く機会を作っています。ヘリで現場に向かう機中は、ディリにおける公務中には聞けない本音や忌憚ない意見を聞く事ができる絶好の外交の場となっています。  そんな私の国連外交を日本政府はいろいろな形で支えてくれました。例えば、インフラや公共施設、電力・水道供給施設の復旧と整備など、東ティモールの人々が人間らしい暮らしができるよう支援してくれています。また、自衛隊は平和維持活動の一貫として、主要幹線道路の維持補修を行い、地元の人々の経済波及に寄与しました。このほかにも、元兵士およびコミュニティのための復興・雇用・安定プログラム(RESPECT)などは、元兵士の不満を和らげる重要な役割を果たしました。これらの貢献によって築き上げられた東ティモール政府を含む多くの人々の日本人への信頼感は、多大に私の外交努力を支えてくれてきていると思います。  現在、国連安保理において、東ティモールでの国連平和維持活動を継続させるか否か討議されています。まだまだ山積する課題やハイチの教訓(※1 )を心に留め、5月の安保理に臨みたいと思います。 執筆:国連東ティモール支援団代表兼事務総長特別代表 長谷川祐弘 ▲マナトゥトゥ地方での集会に出席するグスマン大統領と長谷川特別代表 ※1 1991年に起きた軍事クーデターに対し、国際社会は国連安保理決議に基づく経済制裁を実施、多国籍軍が国連ハイチミッション(UNMIH)を展開した。民主主義が取り戻されたが、2004年武装勢力が活発化し、再び安保理決議による多国籍軍の介入が行われた。