G8サミットの現場から  G8サミット(主要国首脳会議)は、年に一度(6〜7月頃)、日本、フランス、米国、英国、ドイツ、イタリア、カナダ、ロシアの8か国の首脳が一堂に会する会議です。2004年のシーアイランド・サミットでG8サミットは30周年を迎えました。サミット当初の主要テーマはマクロ経済分野での政策協調でしたが、近年は、そのほかに、不拡散・テロ対策、途上国の開発問題、環境問題、北朝鮮、イラクなどの地域情勢といった、その時々の国際社会が直面する諸問題が討議されます。特に、2002年のカナナスキス・サミット以降、G8諸国が協調してより具体的な措置をとろうとする傾向が強まって、サミット終了時に多くの「行動計画」が発表されるようになっています。したがって、その年のG8サミットを見れば、国際社会が直面する課題とその解決に向けた具体的な取組が一目で分かります。  G8サミット・プロセスでは、「シェルパ(sherpa:登山の道案内人。ちなみにサミット(summit)とは山頂の意味です。)」と呼ばれる首脳個人代表(経済担当外務審議官)、政務局長(政務担当外務審議官)、外務サブ・シェルパ(外務省経済局長)、財務サブ・シェルパ(財務省国際局次長)の4名を中心に、約半年から1年にわたり準備作業が行われ、最終的に首脳間での議論を経て成果文書が発表されます。  昨年6月のシーアイランド・サミットでの主要議題の一つは「拡大中東・北アフリカ・パートナーシップ構想」でした。元々は、議長国である米国が、2004年1月頃に中東の民主化、知識社会の構築、経済機会の拡大を柱とする中東改革支援を提案したことに始まりました。ところがこの提案が2月にアラブ紙に漏洩されたことで、これを知ったアラブ諸国は「米国による改革の押しつけだ」と反発を示しました。さらにイスラエルによるハマスのヤシン師殺害(3月)、イラクのアブ・グレイブ収容所での米国兵によるイラク人への虐待の事実の発覚(4月末)など中東をめぐる情勢は混迷し、当初は関係諸国の間で静かに議論していこうという雰囲気があったのですが、もはやそういう状況ではなくなったため、この構想の行方はどうなるのかとサミット担当官としてやきもきしたものです。しかしその後、チュニジアで開催されたアラブ首脳会議(5月下旬)で、アラブ側からも近代化が必要との趣旨の声明が出され、サミット直前に漸く中東地域の側からも改革に前向きな動きが出てきました。結果としてサミットでは、拡大中東・北アフリカ諸国の自主的な改革をG8が後押しするという内容の政治宣言と改革支援計画が発表され、またG8首脳といくつかの中東諸国首脳との対話も行われました。この一連の準備の過程で最も印象的だったのは、「拡大中東地域の改革支援を行う上で、その地域の自主性と多様性を重視することが大事」という日本の首尾一貫した主張がG8各国に支持され、最終的な文書に反映されたことでした。  2005年の英国主催のグレンイーグルズ・サミットでは、アフリカと気候変動が主要テーマとなる予定です。これに向けて日本がどのような指導力を発揮するのか、皆さんも注目してみてはいかがでしょうか。 執筆:経済協力局開発計画課首席事務官 横地晃 (経済局に勤務中は、「シェルパ」の補佐として、カナナスキス、エビアン、シーアイランドの3回のサミットに従事)