アフガニスタン選挙監視団  2004年10月9日に実施されたアフガニスタン初の直接投票による大統領選挙は、まさに歴史に残る出来事でした。日本の選挙監視団の一員として、カブールの投票所を廻って得た印象は、国民が真剣な表情で投票をしていたことです。二人同時にブースに入ってしまった姉妹には注意をし、投票用紙をかざして途方にくれているおばあさんには、『私に見せないで、折って箱に入れるのよ。』と、女性の係員が優しく教えている光景も目にしました。  投票に行くよう父親から言われたという女性たちに、誰に投票すべきか父親から教わったのかと尋ねてみると、「それは私が決めるの!お父さんには教えない!」と胸を張って答えていました。投票がなぜ大事なのか尋ねると、「アフガニスタンを平和にしてくれる私たちのリーダーを私たちが選ぶから。」とカブールならではの優等生の回答もありました。  本来なら外されていなければならない立候補者のポスターが投票所に残っていたり、年齢18歳と書いた本人確認カードを持っている女の子が思わず「16!」と答えてしまって係員に注意されたりと、様々な混乱はありましたが、どれも故意の不正というよりは、生まれて初めて体験する選挙を立派にやりこなそうとすればするほど緊張して混乱してしまう、アフガニスタン人独特の純朴さと誇りが入り混じっていたことに起因するものがあったと言えましょう。  選挙前後のカブール市内は、2001年のカブール陥落直後の戒厳令を彷彿とさせる静けさでしたが、夕闇の主要道路の検問ではISAF(国際部隊)の女性兵士も礼儀正しく車中の検査を行い、市民も協力し合っていました。懸念された大規模な治安問題について特に何事もなく選挙が終えられたことは、アフガニスタン人一人一人が紛争と暴力の過去には戻らないという決意と努力の賜物といえるでしょう。まさに、10月9日は、国際社会と一丸となって歩むアフガニスタンの平和への道のりの難関の一つをアフガニスタン人自身で乗り越えた一日でした。 執筆:国際協力機構(JICA)理事長特命補佐官(国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)より出向)篠原万希子 ▲アフガニスタン大統領選挙で投票をする女性