サマーワ事務所からの手紙(現場の外務省職員の声)  あまり知られていませんが、サマーワの陸上自衛隊宿営地には外務省の事務所があり、10人の外務省員が交替で勤務しています。私も2004年5月以来、1か月おきにサマーワと東京を往復しながら、ムサンナー県に対する経済協力の仕事を行っています。  夏は気温が55度にもなる灼熱の太陽が照りつける一方、冬は水タンクも凍る氷点下の自然環境。外出時には自動小銃で警護され防弾チョッキを身にまとい、時には迫撃砲の脅威にさらされながら常に緊張を強いられる治安情勢。どれを取ってもイラクでの勤務はこれまでに経験したことのないものばかりであり、体力的にも精神的にも大変厳しい任務です。とりわけ、私の帰りを待つ家族にとっては大きな負担となっているようで、イラクのニュースは見たくないと言います。毎回、出発が近づくと、5歳の息子が小さな指で「あと何日しか遊べないねぇ」と指折る姿があり、正直言って胸が痛みます。  そのような時、読み返す手紙があります。それは私たちの外務省のサマーワ連絡事務所で働くイラク人スタッフのアリーさんが私の二人の息子に宛てた手紙です。そこにはこのように書かれています。 「サマーワ市民を代表して手紙を書きます。君たちのお父さんはサマーワの復興のために努力してくれています。君たちも将来、お父さんのような勇敢で勤勉で誠実で賢い人になってください。これをサマーワの人々の感謝の印として受け取ってくれたら光栄です。」  サマーワにおける日本の活動が始まってようやく1年が経ちましたが、給水、医療、電力、道路、橋、雇用といった分野でまだまだやらなければいけないことが山積しています。サマーワでは大勢の子供たちがきれいな水、学校、学校へ通うための道路や橋を今か今かと待ち望んでいます。支援の現場では、大勢の人々が「がんばれ」そして「ヤーバーニー(日本人)、ありがとう」と心からの感謝を示し、道行く人が私たちに一生懸命手を振ってくれています。それは、私たちのイラク復興への思いが着実にサマーワ市民の共感を生んでいると感じられる瞬間でもあります。少しずつですが、復興の芽が確実に育ってきています。1年前には何もなかった砂漠に立派な浄水装置が完成し、道路工事が始まり、そのうち小型発電機も設置されます。いつの日か家族と共にサマーワを訪れ、「あれはお父さんが手掛けた浄水機でね・・・」と子供に自慢出来る日が来る。そんな時を楽しみにしつつ、今日もサマーワの地を踏みしめるのでした。 執筆:在サマーワ外務省連絡事務所 江端康行 ▲陸上自衛隊の佐藤隊長とスウェイル視察を共にする筆者