【各論:2003年の重点地域別・分野別取組】 <アジア>  政治・経済をはじめとして様々な面で日本と緊密な関係を有し、日本の安全と繁栄に大きな影響を及ぼしているアジア地域は、新しいODA大綱においても旧大綱に引き続き重点地域とされた。二国間ODAの地域別実績では、アジア地域への援助が全体の約60.7%(2002年支出純額ベース)を占めた。  ASEAN諸国に対しては、日本の二国間ODAの約30%が実施されている。2003年12月に、東京において日・ASEAN特別首脳会議が開催され、経済協力に関しても、ASEAN域内の統合強化、競争力強化、テロ・海賊対策等を重点分野とし、地域格差是正の観点から引き続きASEAN諸国に優先度を与えていくことがあらためて確認された。具体的には、タイ及びASEANの後発加盟国であるカンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムを含むメコン地域開発に対して向こう3年間で約15億ドルの協力を見込むこと、ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピンからなるBIMP−EAGA(東ASEAN成長地域)に対して支援を行うこと、ASEAN諸国の人材育成に15億ドル以上を見込むこと、約4万人規模の人的交流をすることを表明した。  中国に対するODAは、2001年10月に策定された対中国経済協力計画に基づき大幅に見直しを行い、重点分野を沿岸部の経済インフラ建設から環境保全、人材育成、貧困克服などに絞り込んでいる。また、供与規模についても従来の水準を所与の前提とせず、日本の国益にかなう案件を個々に精査して積み上げる形で決定している。このような見直しの結果、近年、対中国ODAは大幅な減額となっている。特にその大部分を占める円借款は、2002年度は1,212.14億円(交換公文ベース)であり、これは対中国経済協力計画策定前の2000年度に比べて4割以上の削減となった。また、その約7割が環境分野を対象としたものとなっている。 <アフリカ>  アフリカは、紛争、エイズ(HIV/AIDS)、債務問題、旱魃(かんばつ)による飢餓など深刻な問題が集中し、貧困が深刻になっている。このためアフリカにおいては、「人間の安全保障」や「平和の構築」といったODA大綱の考え方を強力に実践していく方針である。また、アフリカでは、「ミレニアム開発目標」の実現に向けた国際社会の支援が強化され、世銀・IMFの主導による貧困削減戦略ペーパーに基づく取組やドナー間の援助強調が進むなど、国際的な援助潮流の最前線でもある。日本もODA大綱に基づき、このような動きに参加して主導的な役割を果たすよう努めている。  日本も、国際社会の責任ある一員として対アフリカ援助を重視し、TICADプロセスを通じて継続的な支援を行っており、2003年9月末には第3回アフリカ開発会議(TICADIII)を東京で開催した。TICADIIIにおいては、小泉総理大臣が「南南協力」と「人間の安全保障」を重視しつつ、「人間中心の開発」、「経済成長を通じた貧困削減」、「平和の定着」を三本柱とする日本の対アフリカ協力方針を表明し、今後5年間に保健医療、教育、水、食糧支援などの分野で10億ドルを目標に無償資金協力を実施すると発表した。 二国間ODAの地域別配分(支出純数ベース) <開発途上国の自助努力支援〜民主化支援〜>  改定されたODA大綱の基本方針の一つに掲げられているように、良い統治(グッド・ガバナンス)に基づく開発途上国の自助努力の支援は、日本のODAの最も重要な考え方であり、平和、民主化、人権保障のための努力や経済社会の構造改革に向けた取組を積極的に行っている開発途上国に対しては、重点的に支援を行うこととしている。特に、民主化に向けて積極的に取り組んでいる開発途上国に対しては、ODA大綱の援助実施の原則の観点からも、これを積極的に支援し、民主化への動きを後押しすることが重要である。こうした考えに立って、日本は、研修員受入や専門家派遣などの技術協力を中心として、多角的な支援を展開している。 <貧困削減>  改定されたODA大綱において重点課題の筆頭に掲げられている貧困削減は、国際社会が共有する重要な開発目標であり、また、国際社会におけるテロなどの不安定要因を取り除くためにも重要である。そのため、成長を通じた貧困削減という考え方の下、日本はミレニアム開発目標の根幹をなす教育や保健医療・福祉、水と衛生、農業といった分野への支援を重視している。以下では、教育、保健医療、水と衛生といった分野における取組を紹介する。 (1)教育  教育を通じた人造りこそ、国造りに通じるとの日本の経験から、教育分野への支援を積極的に行っている。2002年、日本は、低所得国に対する教育分野のODAを向こう5年間で2,500億円以上供与することを公約するとともに、基礎教育分野での援助の基本理念や重点分野などをまとめた「成長のための基礎教育イニシアティブ(BEGIN)」を発表した。2002年の教育分野における二国間援助の総額は、約10億ドルに達し、二国間ODA全体の10.6%を占めている。また、2002年度において基礎教育の分野では、全世界で約55万人の児童が日本による学校建設、教材配布、教室機材の提供を通じて裨益しており、その内約30万人がアジア、約23万人がアフリカの児童となっている。  2002年の持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)において、日本はNGOからの提案を受け、「国連持続可能な開発のための教育の10年」を提唱した。「教育の10年」とは2005年から2014年の10年間で、先進国及び開発途上国双方が持続可能な開発に貢献する教育を推進することを目的とするもので、日本は、「教育の10年」の提唱国として、2002年に引き続き、2003年においても国連総会において本件に関する決議案を提案し、40か国以上の共同提案国を得て満場一致での採択を実現した。 (2)保健医療  感染症対策は国際社会の喫緊の課題となっている。また、多くの開発途上国において、先進国では日常的に受けることができる保健医療サービスを受けることができずに、多くの人が苦しみ、命を落としている。2002年に5歳未満の乳幼児1,050万人が死亡したが、その98%が開発途上国の乳幼児である。このため日本は、保健医療分野の協力において、感染症対策、母子保健、保健医療システムの整備を重点的に実施している。特に、感染症対策については「沖縄感染症イニシアティブ」に基づき積極的な援助を行っており、世界エイズ・結核・マラリア対策基金に多大な貢献を行うとともに、ポリオ撲滅に向けた国際社会の努力においても主導的な役割を果たしている。2002年の保健医療分野における二国間援助の総額は3.3億ドルである。 (3)水と衛生  現在、世界の人口の半分が不衛生な水環境の下に置かれ、不衛生な水による病気で1日に約6,000人の子供が死亡している状況にある。日本の水分野の協力においては、MDGsやWSSD実施計画において目標が定められている飲料水と衛生分野を重点的に実施しており、OECD−DACの統計によると、過去3年間(1999〜2001年)で平均した全世界(援助国及び国際機関)の飲料水と衛生分野へのODAの実績(年間約30億ドル)のうち、日本は1/3に相当する約10億ドルを担う世界最大の援助国となっている。2002年度には、水分野全体で、有償、無償資金協力を合わせて2,269億円の協力を実施した。また、日本は、2003年3月に京都等で開催された第3回世界水フォーラムにおいて、水分野における包括的な貢献策として「日本水協力イニシアティブ」を発表したほか、日米水協力「きれいな水を人々へ」イニシアティブ、「水分野における日仏協力」の具体的進展を図ることとしている。