【国際社会の取組の進展】  2003年を通じ、国際社会はこれまでに達成された成果を基礎とし、多国間、地域間及び二国間における協力を通じ、国際テロ対策を強化してきた。  G8では、テロ対策に関する重要な文書が発表・採択された前年に引き続き、6月のG8サミットにおいて、日米主導で作成された開発途上国に対するテロ対策支援に関する調整及び協力を目的とする「テロと闘うための国際的な政治的意思及び能力の向上G8行動計画」(注1)が採択され、同行動計画に基づき設立された「テロ対策行動グループ(CTAG)」(注2)の会合が、7月及び10月に開催された。また、安全、確実、効率的かつ信頼性のある交通を確保し、公衆交通に対するテロの脅威の削減を目的とする「交通保安及び携帯式地対空ミサイル(MANPADS)の管理強化G8行動計画」(注3)も採択されている。  国連では、2001年9月28日に採択された安保理決議1373(テロ行為のための資金供与等の犯罪化、テロリストの資産凍結、テロ資金供与防止条約をはじめとするテロ防止関連条約の締結促進等、テロと闘うための包括的な措置の実施を加盟国に求める決議)が着実に実施されてきた。例えば、同決議が求めるテロ防止関連条約の締結状況(注4)に関しては、テロ資金供与防止条約を例にとると、米国同時多発テロ直後の2001年9月では、その締約国は4か国にとどまっていたが、現在では104か国に達している(12月1日現在)。また、テロ資金対策については、国際的な資金洗浄(マネーロンダリング)対策に指導的な役割を果たしている金融活動作業部会(FATF)(注5)において、6月に資金洗浄対策に関する国際的な基準となる「40の勧告」が改訂され、資金洗浄のみならずテロ資金対策をも包括した新たな枠組みとなった。また、FATFは国際通貨基金(IMF)や世界銀行と協力しつつ、テロ資金対策についての技術支援等を含む国際的な対策と協力も推進しており、2003年末には、テロ資金対策の技術支援の必要性を把握するための評価作業にも着手した。  また、地域的枠組みにおいても、以前に採択された首脳声明等、テロ対策関連の重要文書を具体的に実施に移すことに重点を置き、国際テロ対策協力が大きく進展した。アジア太平洋経済協力会議(APEC)では、2002年10月にメキシコの首脳会議で採択された「テロリズムとの闘い及び成長の促進に関するAPEC首脳声明」に基づき、2003年2月に、テロ対策の着実な実施、キャパシティ・ビルディング及び技術支援の促進を目的とする「テロ対策タスクフォース」(注6)の設置が決定され、5月及び8月に会合が開催された。同タスクフォースには、日本も副議長国として参加しており、特にAPEC地域におけるテロ対処能力向上支援のあり方を中心に意見交換がなされている。アジア欧州会合(ASEM)においては、2002年9月のASEM首脳会合において採択された「国際テロリズムに関する協力のためのASEMコペンハーゲン宣言」に基づき、2003年9月に、中国の主催により、北京にて「ASEMテロ対策セミナー」(注7)が開催され、日本も共同提案国として参加した。また、ASEAN地域フォーラム(ARF)においては、6月18日に開催された第10回ARF閣僚会合において「国境管理に関するテロ対策協力声明」(注8)が採択される等、テロ対策における国際協力の必要性、及びARFとして今後もテロ対策に取り組んでいくことが確認された。12月11日及び12日に東京にて開催された日・ASEAN特別首脳会議において採択された「日・ASEAN行動計画」においても、日・ASEAN間でテロ対策に関する共同の会議を開始することをはじめ、日本とASEAN諸国がテロ対策の分野で協力を強化していくことが合意された。 (注1)日米の提案によりG8エビアン・サミットで採択された文書。テロの脅威は依然深刻であり、テロリストに安住の地を与えないために、G8間のテロ対策協力の他国への拡大や、テロ対処能力が不十分な国への支援が不可欠とする。他国への働きかけや、テロ対処能力向上支援のためのG8共通戦略の必要性をうたう。テロと闘うための国際的な政治的意思及び能力の向上のための具体的な行動計画を含む。 (注2)(注1)の行動計画により創設が決定され、その主たる目的は、キャパシティ・ビルディング支援に関する要請の分析や需要の優先付け、及び右のための被援助国におけるCTAGメンバーによる調整会合の開催。2004年サミットまでに支援の拡大を追求。2003年は、7月及び10月の計2回の会合を開催。 (注3)同行動計画において、公衆交通に対するテロの脅威を削減するための努力を強化することを決意。2002年6月のカナナスキス・サミットで採択された「交通保安に関するG8協調行動」における合意事項を継続して実施することとし、努力対象分野として携行可能な地対空ミサイル(MANPADS)、航空、人員、コンテナの安全、及び海上交通の5分野を定め、それぞれ具体的な措置を規定。 (注4)テロ防止関連条約は、航空機内で行われた犯罪その他ある種の行為に関する条約(航空機内の犯罪防止条約(東京条約)、航空機の不法な奪取の防止に関する条約(航空機不法奪取防止条約(ヘーグ条約))、民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関する条約(民間航空不法行為防止条約(モントリオール条約))、国際的に保護される者(外交官を含む。)に対する犯罪の防止及び処罰に関する条約(国家代表等犯罪防止処罰条約)、人質をとる行為に関する国際条約(人質行為防止条約)、核物質の防護に関する条約(核物質防護条約)、1971年9月23日にモントリオールで作成された民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関する条約を補足する国際民間航空に使用される空港における不法な暴力行為の防止に関する議定書(空港不法行為防止議定書)、海洋航行の安全に対する不法な行為の防止に関する条約(海洋航行不法行為防止条約)、大陸棚に所在する固定プラットフォームの安全に対する不法な行為の防止に関する議定書(大陸棚プラットフォーム不法行為防止議定書)、可塑性爆薬の探知のための識別措置に関する条約(プラスチック爆薬探知条約)、テロリストによる爆弾使用の防止に関する国際条約(爆弾テロ防止条約)、及びテロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約(テロ資金供与防止条約)の12本。日本は、2001年10月30日にテロ資金供与防止条約に署名し、通常国会で国会の承認を得た上で、2002年6月11日に受託書を寄託した。これにより、日本は12本すべてのテロ防止関連条約を締結したことになる。 (注5)1989年のアルシュ・サミットにおいて、国際的な資金洗浄(マネーロンダリング)対策の推進を目的に招集された国際的な枠組みで、日本の他、経済協力開発機構(OECD)加盟国を中心に31か国・地域及び2国際機関が参加。 (注6)テロ対策タスク・フォース(Counter Terrorism Task Force:CTTF)は、(1)APEC内で実施されているテロ対策関係作業についての情報共有、(2)テロ対策に係る首脳声明内容の実施状況の確認、(3)APECの関連会合、作業部会にテロ対処能力向上活動の実施を指示することを主な目的として2003年に設置。 (注7)2003年9月に中国のイニシアティブにより「ASEMテロ対策セミナー」(ASEM Seminar on Anti-terrorism)が開催され(日本、ドイツ、スペイン、デンマークが共同提案国)、アジア及び欧州におけるテロとの闘いの現状分析、テロとの闘いの経験及び実践に関する意見交換、ASEMのテロ対策協力強化に向けた具体的措置の検討を行った。 (注8)テロは国境を越える犯罪と密接な関係を持つ一方、包括的なアプローチと国際協調が必要であり、テロ防止のためには、国境の管理と、テロリストとその物資・資金が国境を越えることを阻止することが必要との基本的認識の下、人の移動、物の移動、文書の安全、及びその他の一般的措置について規定。また、すべてのテロ関連条約の締結と関連安保理決議の履行を要求する他、一般的なテロ対策努力として、情報交換の緊密化、国内法制度の整備、国際協力等を勧奨。 日本の国際テロ対策協力