1 ロシア 【日露関係、日露経済関係】 <政治対話の深化>  2003年、日露両国間では政治対話が緊密に行われた。首脳レベルでは、1月に小泉総理大臣がロシアを訪問し、プーチン大統領との間で首脳会談を行い、日露両国間の幅広い分野でのこれまでの協力と今後の方向性をとりまとめた「日露行動計画」を採択した。この他にも両首脳は、5月のサンクトペテルブルク建都300周年記念行事、10月のバンコクにおけるアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会合の際の首脳会談及び9月の電話首脳会談において、日露間の広範な協力について意見交換を行った。また、12月にはカシヤノフ首相がロシア首相として5年ぶりに訪日し、小泉総理大臣や川口外務大臣等と会談を行うとともに、経済分野を中心とした過去一年間の「行動計画」の着実な実施を総括するものとして「共同声明」を発表した。  また、2003年を通じて、外相レベルにおける対話も頻繁に行われた。ロシア国内ではロシア要人の相次ぐ極東訪問等に見られるように極東への関心が高まる傾向も見られるが、日本側からも1月の小泉総理大臣の極東訪問に続き、6月には、川口外務大臣が日本の外務大臣として初めてロシア極東のウラジオストクを訪問し、フリステンコ副首相との間で貿易経済日露政府間委員会共同議長間会合を開催した。この他にも、5月のパリにおけるG8外相会合、9月のニューヨークにおける国連総会及び5回の電話外相会談の機会を利用して、朝鮮半島情勢、イラク情勢等、広範な国際情勢について緊密な意見交換が行われた。 「日露行動計画」の6つの柱 <平和条約交渉>  2003年1月に小泉総理大臣がロシアを訪問した際に、両首脳は、四島の帰属の問題を解決することにより、平和条約を可能な限り早期に締結し、もって両国関係を完全に正常化すべきとの決意を確認するとともに、そのための交渉を首脳レベルを含め加速していくことで一致した。また、「日露行動計画」においては、1956年日ソ共同宣言(注2)、1993年東京宣言(注3)、2001年イルクーツク声明(注4)という帰属の問題を解決するための実質的基礎となる文書を具体的に列挙し、今後の平和条約交渉を進めていく基盤を明らかにした。  これを受けて5月の日露首脳会談の際には、「行動計画」の着実な実施を通じて日露関係を発展させ、日露両国間の信頼感を高めていく中で、領土問題を解決して平和条約を締結することに向け協力することを確認した。この会談において、プーチン大統領から、ロシア側としてこの問題を解決したいとの強い気持ちをもっており、これを先延ばしにしようという考えはもっていない旨発言があったほか、10月の日露首脳会談では、専門家の協議を加速していくことが確認された。さらに12月のカシヤノフ首相の訪日の際には「共同声明」が発表され、あらゆる分野において両国関係を発展させていく中で、両国間でこれまでに達成された諸合意に基づき平和条約交渉を積極的に継続していくことが重要であることが確認された。 (注2)ソ連のサンフランシスコ平和条約の署名拒否を受け、1955年6月から1956年10月にかけて、日ソ間で個別の平和条約を結ぶために交渉を行ったが、色丹、歯舞諸島を除いては、領土問題につき意見が一致する見通しが立たなかった。そのため、10月19日、日ソ両国は、戦争状態の終了、外交関係の回復等を定めた日ソ共同宣言に署名した(両国の議会で批准された条約)。同条約第9条において、歯舞・色丹の二島が平和条約締結後に日本に引き渡されること、及び日ソ両国が引き続き平和条約締結交渉を継続することが規定されている。 (注3)1993年の東京宣言のポイント 〔1〕領土問題を、北方四島の島名を列挙して、その帰属に関する問題であると位置付けたこと。 〔2〕四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結し、両国関係を完全正常化するとの手順を明確化したこと。 〔3〕領土問題を、(i)歴史的・法的事実に立脚し、(ii)両国の間で合意の上作成された諸文書、及び(iii)法と正義の原則を基礎として解決する、との明確な交渉指針が示されたこと。 〔4〕ロシアがソ連と国家としての継続性を有する同一の国家であり、日本とソ連との間のすべての条約その他の国際約束は日本とロシアとの間で引き続き適用されることを確認したこと。 〔5〕「全体主義の遺産」「過去の遺産」の克服という考え方がうたわれたこと。 (注4)1956年の日ソ共同宣言が両国間の外交関係の回復後の平和条約締結問題に関する交渉プロセスの出発点を設定した基本的な法的文書であることを確認し、その上で1993年の東京宣言に基づき、四島の帰属の問題を解決することにより平和条約を締結し、もって日露関係を完全に正常化するため、今後の交渉を促進することで合意した。 カシヤノフ・ロシア連邦首相の日本国公式訪問に関する共同声明(骨子) <日露経済関係>  日露の経済関係は、好調なロシア経済、特にエネルギー分野における協力の進展を背景に上向きつつあり、2003年の貿易高は対前年比31.3%増加(対露輸出額は前年比72%増加)し、また、2002年の対露直接投資は27億円で、前年(4億円)を大幅に上回るなど、良好な動きが見られた。  政府レベルでは、6月の貿易経済日露政府間委員会共同議長間会合において、サハリン・プロジェクト、太平洋パイプライン・プロジェクト、日露貿易投資促進機構の設立等貿易経済分野における日露間の協力について意見交換が行われた。また、12月のカシヤノフ首相の訪日の際には、「日露行動計画」採択以降の成果を総括した「共同声明」を発表するとともに、「日露貿易投資促進機構の設立に関する覚書」を採択し、2004年4月以降の早期に同機構を設立することを確認した。また、ロシア船舶による水産物の密漁・密輸出問題につき議論を進めていく旨の共同新聞発表を発出した。訪日中、同首相はロシアの主要財界人とともに、日本の経済界首脳との間で、日露間の経済交流拡大の可能性につき意見交換を行った。  エネルギー分野では、サハリン・プロジェクトに関し、5月にサハリン2の事業主体により約100億ドルの次期投資決定が行われたこと等により、プロジェクト関連のビジネスが活発化している。また、太平洋パイプライン・プロジェクトについては、現在東シベリアの探鉱・開発、パイプラインの詳細F/S(フィージビリティ・スタディ)(注5)、パイプラインの資金手当ての3分野について日露の専門家による協議が進んでいる。  また、日本は、ロシアの経済改革に対する支援として、ロシア国内に七つある日本センターを通じて、ロシア側においてニーズの高い各種事業(経営関連講座、訪日研修、日本語講座等)を実施するとともに、技術支援の成果を活用する形で日露経済交流の促進に向けた事業(ビジネス・マッチング等)を行った。 (注5)F/S(フィージビリティ・スタディ)とは、個々のプロジェクトが技術的、経済的、社会的に、さらには環境等の側面から見て実行可能であるかを検証し、最適な事業計画を策定するもの。 <様々な分野における日露間の協力>  2003年においては、日露両国間の防衛交流及び文化・広報面での交流が一層進展した。安全保障対話・防衛交流の分野では、1月に石破防衛庁長官が訪露し、4月にはイワノフ国防大臣が答礼の訪日を行うなどトップレベルの相互訪問が実現した。その際にロシア側より参加招請を受け、8月にはロシア極東地域において大規模に実施した軍事演習に、日本の海上自衛隊艦艇等が参加し、「日露行動計画」の実現における目に見える協力例となった。また7月にはヤクボフ極東軍管区司令官が初めて訪日したほか、9月には海上自衛隊艦艇がウラジオストクを訪問し、親善行事や捜索救難共同訓練を実施した。また治安当局間の交流の分野では、11月に深谷海上保安庁長官が訪露した。  文化・広報分野では、9月にイルクーツクにおいて、総合研究開発機構(NIRA)、ロシア戦略策定センター、イルクーツク州行政府の共催で、経済投資分野における協力、エネルギー環境分野におけるパートナーシップ、相互理解・対話の深化の三つをテーマとした日露有識者による第3回日露フォーラムが開催された。また、2003年がサンクトペテルブルク建都300周年にあたることを踏まえ、首脳間の合意に基づきロシア全土において「ロシアにおける日本文化フェスティバル2003」と題し、120件以上に及ぶ日本文化を紹介する多様な行事を民間団体等の参加を得ながら大盛況のもと実施した。 ロシアにおける日本文化フェスティバル2003主要事業