【米国情勢】 <内政>  ブッシュ大統領は、2002年の中間選挙における共和党勝利を背景に、年初から一連の保守的な政策を推進した。ブッシュ大統領は、大規模減税を含む景気刺激政策発表に続き、保守的であることを理由に議会承認を否決された連邦判事を再指名した。さらに、最高裁判所が審理を行っているミシガン大学のアファーマティブ・アクション措置(入学割当に関する少数人種に対する優遇措置)をブッシュ大統領は支持しないと発言した。また、人工中絶を合憲とした最高裁判所判決30周年を受けて、中絶の一部禁止を求めたほか、人間のクローン禁止を求める方針を示した。2003年1月28日に行われた大統領一般教書演説では、緊迫するイラク情勢への言及が注目を集めたが、演説の前半は国内問題に充てられ、ブッシュ大統領は、「経済・雇用の創出」、「思いやりのある米国」、「ヘルスケアの拡充」、「国内外における安全保障」を柱に、改めて自らが優先する政策を推し進める立場を強調した。  連邦議会は、2002年の中間選挙の結果、連邦上院では共和党が多数を奪回(共和党51、民主党48、無所属1)、下院は共和党が議席を伸ばして多数を維持(共和党229、民主党205、無所属1)したが、上院は僅差であり、ブッシュ大統領の推進する法案についても攻防が続いた。成果としては、減税法案(5月28日)、4月12日及び11月6日の2回可決された対イラク武力行使と復興支援のためのそれぞれ785億ドル、875億ドル、合計1,660億ドルの補正予算歳出法案、1965年創設の高齢者医療補助制度を拡充するメディケア改革・処方箋薬法案(12月8日)、部分出生中絶禁止法案(11月5日)の成立が特筆される。その他、総額150億ドルのアフリカHIV/AIDS対策援助法案(5月27日)が成立した。一方、包括エネルギー改革法案については、両院協議が難航し、今期成立を断念した。  国土安全保障の分野では、1月24日、国土安全保障省が設置され、22の政府機関に分散していたテロ対策・国土安全保障任務を一元的に統括することとなった。その結果、空港・港湾のセキュリティ・出入国管理の強化や、テロ関連情報の収集・分析、テロリストの捜査・取締りの統合的実施、テロに対する国家警告の導入等を通じ、対策の強化が図られた。  大統領支持率は、年初の50%台から、3月の対イラク武力行使開始時には70%台後半を超え、その後は緩やかに低下したが、5月1日の主要な戦闘の終結宣言以後も米兵の戦死が続き、国連事務所の爆破等イラク情勢が懸念される状況下、9月には同時多発テロ以後最低の50%を記録した。その後、11月27日のブッシュ大統領のイラク電撃訪問、12月13日のフセイン元大統領拘束等を好感して、12月には50%半ばから60%台に回復したが、2004年に入って50%を割る結果も出た。  2004年大統領選挙に向け、民主党は年初から9人の候補が立候補して、秋口から党主催のディベートが開催された。予備選挙の結果、ケリー上院議員が2004年3月2日、民主党候補としての指名を事実上確実にした。 <経済>  米国は、1991年3月から2001年3月まで、史上最長である10年間に及ぶ景気拡大を経験した。その後一時マイナス成長を記録したが、2001年第4四半期以降プラス成長に転じ、現在、景気は回復基調にあると見られている。2003年第3四半期の実質GDP成長率は前期比年率8.2%(四半期の成長率としては1984年第1四半期以来約19年半ぶりの高成長)となった。これは、低金利政策や減税効果により、消費・投資が堅調に推移したことによるものと見られている。  財政面では、2003年1月7日、ブッシュ大統領は、「米国経済を強化するための成長と雇用のための計画」を公表、2001年6月に成立した10年間で1.35兆ドルの減税スケジュールを大幅に前倒しして2003年1月から実施するとともに、配当に対する個人所得課税撤廃を柱とする10年間で6,740億ドル規模の新たな景気刺激策を議会に提出した。その後の議会での議論を経て5月28日、大型減税法案がブッシュ大統領の署名を得て成立した。成立した減税は、今後11年間で総額3,500億ドルとなり、史上3番目の大型減税である。なお、同法案の目玉と言われていた配当二重課税の撤廃については、財政赤字拡大への懸念などから実現せず、「軽減」にとどまった。また、4月16日、ブッシュ大統領は、対イラク武力行使の戦費を中心とする総額785億ドルの2003年度補正予算案に署名、成立した。この予算には苦境が続く米航空業界への支援策(37億ドル)も組み込まれた。  10月20日、米国政府が発表した2003年度の財政赤字は3,742億ドルとなり、過去最大を記録した。財政赤字は悪化傾向で推移しており、2004年度以降も拡大する可能性が高い。イラク駐留米軍経費の増加や、11月に成立したメディケア改革法案により、今後10年間で約4,000億ドルの財政支出を伴う見通しであることから、2004年度赤字は5,000億ドルを超えるとの見方もある。財政赤字拡大によって、長期金利上昇を招くことなどが懸念されている。  金融面では、連邦公開市場委員会(FOMC)は、6月24日〜25日に、不透明感が払拭できない米国景気の回復を後押しするため、既に低水準にあった政策金利を1.25%から1.0%に引き下げる決定を行った。利下げは2002年11月以来約7か月ぶりで、1958年以来45年ぶりの低水準となった。また、為替については、米国内では製造業者を中心に中国人民元がドルに対して安く設定されているとの不満や批判の声が上がった。これに対し、ブッシュ大統領は、「強いドル」政策の維持とともに、相場動向を市場に委ねる「市場重視」の姿勢を改めて明確にしている。  貿易面では、2003年の貿易赤字は、景気が緩やかながら回復局面に入ったことや、中国からの製品輸入が増えたこと等から、商品・サービス貿易赤字(国際収支ベース)は4,890億ドル(前年比17.0%増)となり、過去最大となった。対中赤字は1,240億ドル(前年比20.3%増)と過去最大を記録し、4年連続で対日赤字を上回った。  今後の米国景気については、総じて楽観的な見方が広がっているものの、予断が許されない面もある。すなわち、2004年後半にかけて低金利政策や減税による景気刺激効果は低下していくと見られているものの、依然として4%前後の高成長を維持するとの見方が一般的となっている。ただし、〔1〕ようやく持ち直しの動きが見られる雇用情勢が今後本格的な回復につながっていくのか、〔2〕減税規模の縮小が見込まれる2004年後半以降自律的な景気回復が可能か、〔3〕財政と貿易のいわゆる「双子の赤字」問題の影響(急速なドル安進行による海外からの資金流入の減少)、〔4〕金融政策(利上げのタイミング)、などに留意する必要がある。  2003年の米国の通商政策に関する重要な動きとしては、自由貿易協定(FTA)締結に向けての動きがある。5月6日にはシンガポールと、6月6日にはチリとそれぞれ二国間FTAに署名し、また12月17日には中米4か国(エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、ニカラグア)とのFTAに関する交渉が妥結したほか、2005年1月が交渉期限となっている米州自由貿易地域(FTAA)には、貿易政策の中でも高い優先順位をおいている。さらには、アジア地域においても、10月19日にタイとのFTA交渉開始が発表されている。ゼーリック通商代表は、9月にメキシコのカンクンで開催された第5回WTO閣僚会議後に、今後米国は貿易自由化の意図がある国と選択的に自由化を実現していくとの意向を表明しており、今後とも米国のFTA政策が注目されるとともに、これらの動きが日本の経済外交や各地域経済に与える影響も注視していく必要がある。