【政治・経済情勢】
中南米諸国においては、1980年代以降民政移管が進み、現在では、中南米のほぼ全域において民主主義体制がとられている。また、1990年代を通じ、貿易の自由化や国営企業の民営化といった新自由主義的経済改革を実施し、安定的な経済成長を遂げた。2001年以降は世界的な経済成長の鈍化やアルゼンチン金融危機等の影響を受け減速したものの、2003年は主要輸出産品価格の改善や世界経済回復を通じた需要増等により、全体として緩やかながら回復基調にある。
しかしながら、貧富の差の拡大、失業の増大、治安の悪化等、取り組まねばならない課題も多い。このような状況の下、2003年には、こうした課題への対応を重視するブラジルのルーラ政権、アルゼンチンのキルチネル政権、エクアドルのグティエレス政権などの新政権が誕生した。ブラジルにおいては、国内の貧困問題に取り組むべく社会政策を進めており、貧困層国民への食料配給などの計画が行われているが、資金にも限りがあり、緊縮財政の下で安定化させてきた経済を、今後は雇用の増加を伴う成長軌道に乗せることができるかどうかが鍵となっている。また、アルゼンチンでも経済危機で打撃を被った社会層を重視する政策が取られているが、対外債務問題が依然として大きな足枷となっており、国内の構造改革の必要性が指摘されている。エクアドルでは、国際社会と協調した堅実な経済運営が行われているが、経済問題等をめぐり先住民団体等が与党から離反するなど、困難な政権運営を余儀なくされている。
また、貧富の差の拡大は、社会の不安定化を招き、民主主義体制を揺るがしかねない場合がある。10月、ボリビアでは、経済改革の恩恵から疎外された先住民を中心に、貧困問題をはじめとする国内問題への不満が高まり、抗議行動が加速し大統領の交代という政変にまで発展した。また、ベネズエラにおいては、政府と反政府勢力の対立が続いており、2月には2か月に及んだゼネストが終息したものの、現在、大統領罷免をめぐる手続が進められている。
さらに、経済改革を進める中南米諸国の間で、域内の格差が拡大しつつある。チリのように経済改革が進み堅調な経済パフォーマンスを維持する国がある一方、自由化の揺り戻しから大幅なマイナス成長を記録するベネズエラや、深刻な経済危機に直面したアルゼンチン、その影響を受けたウルグアイなどは苦しい経済運営を強いられている。また、コロンビアは麻薬、テロ等の深刻な問題を抱えるが、ウリベ新政権の下、民間軍事組織の武装解除が開始され、治安状況が若干ながら改善を見せるなど、一定の前進が見られた。
日本としては、中南米諸国が取り組んできている民主主義体制の堅持への努力や、貧富の格差是正のための取組、また自然環境保全を維持しつつ、健全で安定した経済発展を遂げるための経済改革への努力に対し、様々な支援を行ってきている。貧困問題や環境問題、経済改革努力に対しては政府開発援助(ODA)を通じた資金協力や技術協力を行うとともに、民主主義強化に対して、2003年11月及び12月に行われたグアテマラ大統領選挙において、米州機構(OAS)選挙監視団への資金援助及び選挙監視要員の派遣を行った。今後も引き続き、中南米諸国の民主化の定着、経済改革努力を支援する取組を行っていく。
2003年においても引き続き、日本と中南米諸国との間でハイレベルの要人往来を通じた関係強化が図られた。中南米からは、2月、ラゴス・チリ共和国大統領が訪日し、小泉総理大臣との首脳会談において「日本・チリ二国間経済協議」の立ち上げに合意した。3月には、カストロ・キューバ国家評議会議長が日本に立ち寄り、小泉総理大臣との首脳会談を行い、二国間関係、国際情勢等につき幅広く意見交換を行った。8月には、ミッチェル・バハマ外務大臣が訪日し、川口外務大臣との外相会談において、二国間関係等につき有意義な意見交換が行われた。10月にはフォックス・メキシコ大統領が国賓として来日し、両国が新たな時代に相応しいパートナーシップを築いていく旨確認された。また11月には、ビエルサ・アルゼンチン外務大臣が新政権発足後初めて訪日し、川口外務大臣との外相会談において、中長期的観点から両国関係を展望していくことの必要性について意見の一致を見た。
日本からは、8月、茂木外務副大臣がメキシコ、ブラジル、アルゼンチン、チリを訪問した。これら4か国はいずれも中南米において中心的役割を果たし、国際場裡でも活躍する国々であり、二国間関係のみならず、グローバルな問題につき幅広い対話が行われた。また、同月には、倉田参議院議長がチリを訪問し、ラゴス大統領他と会談を行った。11月には、清子内親王殿下がウルグアイ及びホンジュラスを御訪問され、それぞれの国において、バジェ大統領、マドゥーロ大統領と懇談、また各種式典に御出席され、両国との友好関係を深められた。12月には阿部外務副大臣がドミニカ共和国とメキシコを訪問し、ドミニカ共和国においては、メヒーア大統領との会談や移住者との懇談を行うとともに、メキシコでは、国連腐敗防止条約署名式に出席したほか、要人との会談を行った。
今後も、一層の要人往来の活発化を通じ、ハイレベルの対話を実現し、中南米諸国との関係強化に努めていくことが重要である。
▼国賓として訪日したフォックス・メキシコ大統領夫妻と御会見される天皇皇后両陛下(10月 提供:宮内庁)