資料編 > 2 > (17)人間の安全保障国際シンポジウムにおける田中外務大臣挨拶(仮訳)
(2001年12月15日、於:東京)
緒方貞子及びアマルティア・セン・人間の安全保障両共同議長、
パネリストの皆様、ご列席の皆様、
本日この「人間の安全保障国際シンポジウム」の主催者として、皆様のご参加を歓迎いたします。
外務大臣に就任して以来、私は常に「人間の安全保障」の重要性を認識して参りました。そして、私は「人間の安全保障」を実現するためには紛争予防が不可欠だと考えております。紛争予防を成功させる鍵は、人々が多様性を受け容れられるかどうかにかかっています。適切な教育により異文化の価値観や意見を尊重することができれば、人々は平和の下に共存することが可能です。私は、こうした考え方が紛争予防、ひいては「人間の安全保障」の推進に資すると信じています。
パキスタンのシャムシャトゥー難民キャンプを訪れ、子どもたちの純粋な瞳に見つめられたとき、私はこのことを痛感いたしました。そして、子どもたちがアフガニスタンを想う歌を歌うのを聞き、心を打たれました。あの子どもたちが祖国に帰還するためには、地雷除去、農業、技術、基礎的なインフラ、そしてガバナンスをはじめとする多様な条件が必要です。彼らの祖国を再建するために、私たちには何ができるのでしょうか。そして国際社会には何ができるのでしょうか。
難民キャンプを訪れた経験により、私は「人間の安全保障」をより広い視野で捉えることができるようになりました。急速にグローバル化が進展するこの世界で個人の尊厳を確保するためには、国家の安全保障という観点のほか、人々の目から見た安全保障という観点が必要です。
人間の安全保障とは、貧困、環境破壊、テロ、紛争といった脅威から人々を守ることに焦点を当てた考え方です。
テロに関していえば、9月11日のテロ攻撃により多くの人命が失われ、その尊厳が踏みにじられました。ここにおいても「人間の安全保障」の観点が重要な役割を果たします。「人間の安全保障」の視点からは、テロという脅威そのものに対する取組みと同時に、テロの根本原因に迫ることができるからです。私は、紛争をはじめとする人間に対する脅威を取り除くことが、テロの根絶にもつながると信じています。
「人間の安全保障」は日本外交が重視する視点の一つです。わが国は国連に「人間の安全保障基金」を設立しました。また、わが国は緒方、セン両共同議長の下で活動する「人間の安全保障委員会」の活動を支援しています。「人間の安全保障」が広範な事象を対象とすることから、この考え方をより深く理解し推進するためには、さらなる知的洞察と経験に基づく考察が必要です。
今後「人間の安全保障」がさらに重要性を増すことは論を待ちません。今日の課題に取り組むため、国際社会全体の英知と経験を結集しようではありませんか。
最後に、ご参加の皆さんに再度深く感謝申し上げ、私の挨拶といたします。
ありがとうございました。