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(6)ユネスコ加盟50周年記念式典における田中外務大臣式辞


 
 (2001年7月2日、於:東京)

 本日ここに、皇太子殿下並びに皇太子妃殿下の御臨席を賜りますと共に、松浦事務局長をはじめとして多数のユネスコ関係者の皆様方、さらには駐日各国大使及び国際機関の代表の皆様方の御出席を頂き、かくも盛大にユネスコ加盟50周年式典が開催できましたことにつきまして、共催者の一人として深く感謝申し上げます。
 国際連合への加盟に先立つこと5年、1951年のユネスコ加盟は、戦後のわが国が国際社会に復帰していく上で、極めて意義深く重要な出来事でありました。このわが国のユネスコ加盟への道を切り開いたのが、世界に先駆けて始まった日本のユネスコ民間運動であったということに深い感慨を覚えます。ユネスコの平和理念が、終戦直後の焦土にあった人々の心に強く響き、平和な国家と明るい社会の建設に向けて新たな第一歩を踏み出した国民に大きな希望と勇気を与えてくれました。
 わが国はこの50年間、「教育、科学及び文化を通じて諸国民の間の協力を促進することにより、平和及び安全に貢献する」というユネスコの目的を実現するべく、政府、民間ともにユネスコ活動に積極的に取り組んで参りました。ユネスコの世界遺産は、わが国を含め世界的に良く知られておりますが、わが国がユネスコに設置した信託基金による有形・無形の文化遺産の保存活動は、今やユネスコの中心的な事業の一つになっております。更に、昨年、わが国は新たに「人的資源開発信託基金」をユネスコに設立し、ユネスコが行う開発途上国の「人造り」の為の事業を支援しております。
 ユネスコ憲章の中で、平和を達成するためには政府の協力だけでなく、市民の誠実な支持が必要であると謳われております。長い歴史を持つわが国のユネスコ民間運動も国内外で活発に繰り広げられており、特に発展途上国の識字活動を支援する「世界寺子屋運動」はユネスコの高い評価を得て、今や世界に通用する言葉になりました。
 わが国のユネスコ加盟から半世紀が経過し、ユネスコを取り巻く環境は大きく変化してきました。冷戦の終焉とともに、20世紀後半より民族や文化の違いに起因する対立や紛争が頻発し、民族、宗教、伝統、思想といった広い意味での文化の違いが国際政治の重要な要因となっています。「相互の風習と生活を知らないことは、人類の歴史を通じて世界の諸人民の間に疑惑と不信をおこした共通の原因であった」というユネスコ憲章の一節の重みを、今あらためて感じております。本年は、「文明間の対話」国連年にあたります。私は、21世紀において人類が取り組むべき課題は、文化や風習の違いを受け入れた上での平和的共存であり、その実現のためには、異文化への寛容の精神を養うことが基本になると考えております。教育、科学、文化を通じて人の心に平和の砦を築くことを使命としているユネスコの力が今まさに求められているときではないでしょうか。
   現在、ユネスコでは松浦事務局長がユネスコ改革に精力的に取り組んでおられます。加速化するグローバリゼーションと地球規模の諸問題に直面する21世紀において、ユネスコの果たすべき役割はますます重要になっております。わが国は、ユネスコ関係団体との連携を一層強化しつつ、松浦事務局長のリーダーシップの下に展開するユネスコの諸活動に、今後とも積極的に協力していく所存であります。
 最後になりましたが、これまでユネスコ活動の発展に貢献された方々のご尽力と輝かしい功績に心から敬意を表するとともに、21世紀におけるユネスコ及び関係団体の益々の発展を祈念致しまして式辞と致します。

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