VII.国際機関等
2.ウィーン代表部 |
(1)国際原子力機関(IAEA)
[北朝鮮の核兵器開発問題]
この問題は、IAEAの保障措置制度の信頼性に係わる重要な問題として昨年に引き続き解決のため粘り強い努力が行われた。北朝鮮による一連の動きを踏まえ(具体的な内容については第1分冊P19~23を参照)、6月10日、IAEA理事会は、北朝鮮が保障措置協定違反の範囲を拡大し続けているとの判断を示し、IAEA憲章に従い、医学分野を除くIAEAの協力を停止することを決定した。6月13日、北朝鮮はIAEAから脱退した。しかし、10月に米朝間で枠組み合意が成立したことを受けて11月、IAEAは北朝鮮に技術チームを派遣し、米朝間で合意された原子力活動の凍結のモニター等の方法についての協議を行い、合意に達した部分から作業を開始している。
この関連で、IAEA保障措置制度の強化が重要な課題となっている。また、後に述べるように旧ソ連諸国等における保障措置の新たな適用等の要因から、今後、保障措置業務の増大が予想され、保障措置の効率化も重要な課題となっている。
[「原子力の安全に関する条約」の署名]
9月、「原子力の安全に関する条約」が署名のために開放され、12月9日までに、日本を含む54か国が署名した。この条約は、原子力発電所の安全を対象としたもので、その早期の発効が期待される。また、今後、放射性廃棄物管理に関する安全条約を策定することが検討されている。
[旧ソ連諸国における保障措置制度の整備に対する協力]
ソ連の解体に伴い独立したウクライナ、カザフスタン及びベラルーシは既にNPTに加入しており、IAEAとの間で保障措置協定を締結し保障措置を受け入れることとなっている。IAEAは、これらの協定の発効に備え、その実施に不可欠な各国の核物質の国内計量管理制度等の整備を迅速に進めるため、関係国と協力して、支援計画を策定するなどの協力を行った。日本も、これらの国の非核化の支援の一環として、積極的に協力した。
[核物質密輸問題]
欧州における摘発を契機とした核物質密輸問題への対応については、その防止及び対処は各国の責任であるとの認識を基本としつつも、IAEAとしても、各国の役割を補完する機関として、関連情報の系統的収集、関係者への教育訓練、各国における核物質計量管理及び核物質防護体制整備に対する技術的支援等の面において役割を果たすことが検討されている。日本も、11月に開催された政府専門家会合への参加等を通じて、本問題の検討に積極的に取り組んだ。
(2)国連工業開発機関(UNIDO)
94年、UNIDOは、93年に採択された5人の次長の全廃を含む事務局の合理化・効率化及び事業活動の優先度付け等の改革に取り組んだ。しかし、先進国の中には改革が不十分であるとして不満を示し、将来の脱退を示唆する国もあり、また、事業活動収入の減少による財政状況の悪化等UNIDOを取り巻く環境は厳しいものがある。それ故に日本としてもUNIDOの思い切った改革に協力していく必要がある。
(3)国連(UN)
国連宇宙部のウィーン移転に伴い宇宙平和利用委員会がウィーンにて開催され、使用済みロケットなどの宇宙破片の処理などの宇宙分野の新しい課題や第3回国連宇宙会議の開催の是非等が討議された。麻薬統制問題及び犯罪対策については、94年の主要国首脳会議でもその国際協力強化が合意されたほか、組織犯罪に関する閣僚級会合が国連によりイタリアで開催されるなど国際社会が一丸となって取り組むべき課題であるとの認識が強まり、これらの分野での国連活動の拡大が期待されている。
[国連薬物統制計画(UNDCP)]
UNDCPにおいては、従来の薬物消費国のみならず、生産国(途上国)においても薬物乱用が拡大していることに注目し、94年より、麻薬作物の代替開発のみならず消費抑制、法執行の強化を含めた総合プロジェクトの推進を重視するとともに、薬物取引が国境を超えて行われることから、2-3か国にわたる(サブ・リージョナル)プロジェクトの拡充を進めている。また、特に代替開発においては、必要資金量が膨大になることから、UNDCPを中心的調整機関とし、国際金融機関を加えた国連システム全体で国際薬物統制を推進する体制整備を進めている。
日本は、これまで東南アジア地域でのUNDCPによる地域的麻薬統制協力及びUNDCPへの自発的拠出(94年5,500万ドル)を中心に協力をしてきたが、今後は94年に設置された政府諮問グループの提言にも留意しつつ、引き続き世界各地の薬物問題に注意を払っていく必要がある。
[パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)]
78年にUNRWA本部事務局が暫定的にウィーンに移転されて以来、UNRWA事務局をその活動地域に帰還することが懸案であった。中東和平が大幅に進展する中、94年6月、ブトロス=ガーリ事務総長は、パレスチナ社会の自立及び和平プロセスを国連として支援する一環として、95年末までにガザにUNRWA本部を移転する方針を決定、94年10月には事務局長室をガザに開設した。
UNRWAの活動期限は96年6月までであるが、パレスチナ自治政府の樹立に伴い、自治政府以外の地域のパレスチナ難民のための雇用創出、経済復興等を続ける必要があり、95年中には、その役割の見直しが求められることになろう。従来より日本は、UNRWAへの主要拠出国として、その活動を支援してきている(94年度の拠出額は1,750万ドル)。