V.中近東

 革命後15年を経た今日、イランにおいては体制内部に複数の政治勢力が並存していることから、内政が複雑な様相を呈している。94年は、物価上昇と不況の継続による経済困難が深まり聖都マシュハドでのレザー廟爆破事件(6月)やガズヴイン市暴動(8月)などにより一時社会不安が高まる中、ラフサンジャニ大統領の現政府は引き続き現実的な外交・経済政策をとり事態の打開に努めている。また、93年には、大統領に批判的な保守勢力の中心にいたハメネイ最高指導者は、体制の安定化のため、ラフサンジャニ政権を明確に支持するに至っている。経済は依然として厳しい状況にあるものの、対外債務の支払遅延問題については、おおむね主要債権国との間で債務救済合意が成立し、また、石油価格がやや持ち直していることもあり、わずかながらも経済回復の兆しが見えてきた。
 外交面では、イランは近隣諸国との間で安定した関係構築を目指す現 実的な外交路線を引き続き模索している。しかしながら、現行の中東和平プロセスはパレスチナ問題の公正な解決につながるものではないとの立場を堅持しており、こうしたイランの立場は中東地域の不安定要因と受けとめられている。アラブ首長国連邦との間の3島をめぐる領土問題は解決の糸口が見えず、イランと湾岸協力理事会(GCC)諸国との関係改善の障害となっている。また米国等の主導により、テロ、核疑惑、人権等の分野におけるイランの行動振りに対する国際世論の批判が強まっている。他の地域との関係については、10月にラフサンジャニ大統領がマレーシア、ブルネイ、インドネシアを訪問するなどアジア諸国との関係強化に意欲を示している。
 日本との関係については、日本は、9月の国連総会の際に行われた日・ イラン外相会談において、国際社会がイランに対し有するテロ関与等の懸念を払拭するようイラン側の努力を求めるなど、様々な場においてイランとの対話を図っている。懸案となっているカルーン・ダム建設への円借款第二期分の供与に関し、日本政府はODA大綱の「原則」を踏まえ、総合的な検討を行っている。そのほか、イランに対する技術協力は農業、運輸等の様々な分野で行われ、またテヘランの大気汚染対策のための開発調査は、市民の生活に直接ひ益し得る協力としてイラン国内でも注目を集めた。

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