V.中近東

 イラクは国連安保理決議に基づく制裁措置を課されて以来5年目を迎え、経済面、社会面等国内全般に深刻な影響が見られる。外貨の統制、物価の安定、農業振興、犯罪の防止等を目的として採られてきた新規措置は大きな効果を見ていない。この中にあって、バグダッド市内において犯人不明の爆破事件も散発するなど治安が悪化している。主としてクルド人が支配する北イラクにおいては、5月よりクルド派閥間の抗争が断続的に生じていることが伝えられ、その後主要2党首間の協議により、11月には96年の5月の総選挙実施などにつき合意、事態は一応収拾されたと言われているが、12月には再び小競り合いが発生する等不安定な状態にある。
 対外関係では、安保理決議の履行により石油禁輸措置の解除を早期に 実現することを最優先課題として、国連との一定の協力関係を保ちつつ、諸外国特に安保理理事国に対する働きかけを活発化している。また、制裁による医薬品、食糧品の不足より生ずる人道的危機を対外的に強調している。10月、イラク軍が南部国境方面に展開したことは、米、英等に よる湾岸への派兵、安保理による撤退要求決議採択等の緊張状態を招いた。このような中、イラクは、軍を北方へ移動し11月にはクウェイトの主権・国境の公式承認を決定するという外交上最大のカードを切ったが、国際社会との緊張関係は解消されていない。
 日本との関係については、日本は7月のイラク政府特使の訪日等種々 の機会を捉え、イラクに対し関連安保理諸決議の完全履行を求めるなど国際社会との協力を促している。

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