IV.欧州

(1)オーストリア

 ここ数年オーストリアにとっての最大の政治課題であったEU加盟問 題は、94年6月に行われた国民投票で66.4%という予想を上回る多数の 賛成により加盟が承認された。これは、欧州統合は既に進行中の現実でありEUに加わりその中でオーストリアの利益を主張していかなければEU統合の結果を一方的に受け入れることになりかねないとの政府、経済界等による説明を国民が受け入れたためであり、今後同国はEUの中で対中・東欧諸国関係、環境問題等に積極的役割を果たしていくものと考えられる。一方、戦後東西冷戦の狭間で中立を国策として自らの安全保障を図ってきたこの国にとっては、今後EU加盟国としての立場と、これまでの中立政策をいかに調整していくかが大きな課題である。中立政策については、連立2大与党(社民党、国民党)間でもこれを堅持していくとの考え方と、WEUに積極的に参加し新たな安全保障の道を探っていくとの考え方に意見が分かれている。政府はEU加盟に際して、マーストリヒト条約の規定するEUの政治統合及び安全保障問題に関する共同作業に全面的に参加する旨表明しており、今後の欧州統合の進展とともに中立政策についての国内議論がますます盛んになるであろう。
 内政面では94年10月に国民議会(下院)総選挙が行われた。連立2大 与党は共に得票率を大幅に減らし、政府への批判票をうまく吸収した野党自由党が大躍進した。選挙後、連立2大与党は大連立政権の継続を表明し、11月末第4次フラニツキー内閣が発足した。同政権は欧州統合の動きに乗り遅れないとの観点からも財政再建を実現する必要があり、連立交渉では賃上げ抑制、各種公的支出削減に合意したが、右措置は労働組合等からも強い反発を受けており、新政権にとっては厳しい船出となった。
 94年のオーストリア経済は欧州諸国の景気回復を受けて好調に推移 し、GDP成長率も2.8%に達すると見込まれている。
 日本との関係では、94年には日・オーストリア修好125周年を記念し てオーストリア国内において各種の日本関連文化行事が行われた。そして12月には高円宮・同妃両殿下がこれを契機として同国を公式訪問され、両国間の友好親善の促進に貢献された。

(2)欧州安全保障・協力機構(OSCE)

 CSCE(欧州安全保障・協力会議)は、94年も引き続き、冷戦後の民 族紛争、地域紛争に対し積極的に予防外交への努力を展開した。ナゴル ノ・カラバフへの平和維持部隊の派遣に向けて具体的計画を策定し、ロ シア・CIS合同軍のCIS地域での平和維持活動(PKO)に関する規律を 策定すべく交渉を進めた。
 12月に開催されたブダペスト首脳会議ではCSCEを国連憲章第8章に 定める地域取極と再確認し、欧州の地域紛争の平和的解決を図るための第一義的な機関として規定したほか、CSCE諸機関の機能の強化を図るとともにCSCEをOSCE(欧州安全保障・協力機構)と名称変更するこ とを決定した。また安全保障分野では、不拡散に関する原則、軍事力の 民主的統制に関する行動規範、及び海軍力や在外駐留軍を含むCSCE加 盟国の軍事力の透明性と公開性の確保を目指す包括的軍事情報交換並びに信頼・安全醸成措置に関する94年ウィーン文書を採択した。
 日本は上述のブダペスト首脳会議をはじめ、常設委員会や安全保障協力フォーラム並びに各種セミナーに参画したほか、マケドニアにおける紛争予防ミッションに要員派遣や機材の供与などを行った。また9月にヘインク事務総長を訪日招待した。

目次へ