IV.欧州

(1)旧ソ連新独立国家(NIS)全般

 94年において、3月にCISサミットが行われ、9月及び10月にはCISの首相級会合等がそれぞれ相次いで開催された(注)。ロシアを除くNIS諸国においては、エネルギー不足等の経済的諸困難からロシアとの経済的な相互依存関係を緊密化しようとする動きが見られた。一方、ロシア 自体が経済を中心に諸困難に直面していることから、ロシアはNIS内 で十分な指導力を発揮し得ていない。このような状況の下、NIS全体が 経済面を中心に再統合に向かうのか否か先行き不透明な状態が続いてい る。
 

(2)欧州地域(ベラルーシ、モルドヴァ)

 ベラルーシにおいては、6-7月に行われた初の大統領選挙において ルカシェンコが現職のケービッチ首相を破り初代大統領に選出された。なお、同国はロシアとの間で、経済同盟、通貨統合などを積極的に推進しているが、通貨統合は、両国の経済状態の差が大きいため、具体化に時間を要している。
 モルドヴァにおいては、2月に議会選挙が行われ、また、ロシア系住 民が多数居住する「沿ドニエストル共和国」の分離独立問題、及び駐モルドヴァ・ロシア軍撤退問題に関するロシアとの間の交渉が一定の進展を見せたことにより、政治面での安定を見せている。経済は、依然困難な状況にあるが、政府は急進的経済改革を逐次進めており、国際金融機関の評価も高い。

(3)トランス・コーカサス地域(アゼルバイジャン、アルメニア、 グルジア)

 アゼルバイジャンにおいては、ナゴルノ・カラバフ紛争、設備老朽化による原油生産減少などから、生産の低下、物価高騰、避難民増加等の諸問題に直面している。また、9月末-10月には要人殺害等により政局が一時緊迫化したが、アリーエフ大統領は、グセイノフ首相解任等により危機を乗り切ったとされている。なお、同国は9月、カスピ海沖油田開発計画に関し西側石油会社等との間で契約を締結した。
 アルメニアでは、政局は比較的安定しているが、ナゴルノ・カラバフ紛争に関連した周辺諸国からの経済封鎖、深刻なエネルギーの不足、物価高騰等により経済的な混乱が続いている。
 グルジアにおいては、アブハジア紛争が6月以降のロシア平和維持部 隊導入により小康状態に入ったが、依然として緊張が続いている。経済面では、生産の低迷、物価高騰が続いており、シェヴァルナッゼ国家評議会議長(国家元首)は依然として困難な舵取りを行っている。

(4)中央アジア(キルギス、トルクメニスタン、タジキスタン)

 キルギスにおいては、国内の保守勢力の抵抗、水面下の政争等はあるも、アカーエフ大統領の指導の下、独自通貨導入、全面的価格自由化等市場経済への移行に積極的である。また、西側諸国の法体系を参考とする共和国憲法の制定を行い、法治国家としての体制を整えつつある。日本等先進主要国も引き続き同国に対する支援を積極的に展開している。
 トルクメニスタンにおいては、天然ガスや綿花などの豊富な資源輸出により獲得した外貨収入があるため、経済情勢は安定しており93年のGDP成長率がNIS諸国で唯一プラスであったが、改革のテンポは緩慢 である。
 タジキスタンにおいては、11月に初の大統領選挙が行われ、ラフモーノフ最高会議議長が新大統領に選出された。同国の情勢は、アフガニスタン国境付近を中心に依然として緊張が続いており、断続的に行われた政府側と反政府勢力側との交渉を通じ停戦合意は達成されたものの、政治解決のめどは立っていない。


(注)CISは独立国家共同体(ないし同共同体を構成する諸国全体)を指し、NISは、旧ソ連から新たに独立した国家群全体のこと。

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