IV.欧州

(1)ベルギー

 94年は6月に欧州議会選挙、10月に統一地方選挙が行われたが、現連 立与党(注)の基盤を揺るがすには至らなかった。デハーネ首相は、その巧みな政局運営により、ドロール後のEC委員長最有力候補として欧州各国から支持を集めたこと等により、閣内・与党内における立場を一層強めており、世論調査における支持率も着実に上昇している。
 国家改革(連邦化政策)に関しては、総じて93年までに決定された路 線に添った順調な滑り出しを見せており、当面、全面的な地域間対立が再燃する兆しは見られない。94年のベルギー政界においては、疑惑がらみの政治家の辞任などが目立った。これに対しデハーネ首相は、内閣の一部改造等を行う一方、連立各党の結束固めに手腕を発揮し、これら事件による政権の不安定化を回避し前記選挙を乗り切った。
 経済面においては、94年1月頃から欧州全体の景気回復とあいまって、ベルギー経済も立ち直りの兆しを見せ、最終的に94年の国内総生産は1.7%の成長が見込まれている。現下の内閣の最重要課題は、雇用問題であり、93年末決定された「雇用、競争力及び社会保障のための総合計画」の諸措置が94年初頭より実行に移された。しかし、一方、94年9月現在で14.6%と高い失業率を示し、引き続き大きな社会問題となっている。
 93年には国内総生産比で6.7%であった財政赤字は、「総合計画」の一環である緊縮財政政策により漸次減少しており、94年末には4.9%まで減少するものと見込まれる。しかし、連邦累積債務については、94年には、若干悪化するものと予想される。
 対外関係においては、選出されるに至らなかったもののデハーネ首相がドロール後のEC委員長の有力候補に推されたこと、また、クラース白外相が10月にNATO新事務総長に就任したことは、いずれもベルギーのバランスのとれた外交方針が各国から広く評価されたことを示し、ベルギーの外交のイメージを高めることとなった。
 ベルギーにとり、旧植民地を中心とする対アフリカ外交は、引き続き優先度の高いものとなっている。94年4月、国連ルワンダ支援団 (UNAMIR)に派遣されたベルギー兵10名が殺害されるという事件が発 生し、ベルギー政府はUNAMIRに派遣された全要員を撤収をするとと もに、国連の平和維持活動につき任務の範囲や派遣要員の安全確保等に つき国連での見直しを求めている。一方、ルワンダ難民に対する人道援助に力を入れるほか支援会合開催を提案してルワンダの安定化に努めるなど注目される動きを見せた。
 日本との関係では、5月に、欧州歴訪の一環として羽田総理大臣がブ ラッセルでデハーネ首相と会談するなど94年も順調に推移した。両国貿易は約3:1の比率で日本の出超であるが、93年以降対ベルギー輸出の 減少と対ベルギー輸入の増加により、日本の出超は減少傾向にある。日本からの協力も得てベルギー対外貿易公社等により地道なベルギー産品の対日輸出努力が続けられている。

(2)北大西洋条約機構(NATO)

 94年のNATOの活動は主として、1月のブラッセルNATO首脳会議での決定事項を実施する努力と旧ユーゴー紛争への対応であった。
 1月の首脳会議における決定事項の中では特に「平和のためのパート ナーシップ」(PFP)について大きな進展が認められた。94年中には、 23か国がPFP枠組み文書に署名してPFPへの参加を確定した。また、 94年にはPFPの枠組みの下で平和維持活動に関するセミナーが開催されるとともに、小規模ながら三つの平和維持演習が行われた。PFPはNATO非加盟欧州諸国の将来におけるNATO加盟につながり得るものであり、NATO加盟を希望する諸国はPFPの枠内での協力に積極的に参加している。
 一方、NATOは94年12月の外相理事会において、95年秋のNATO理 事会までに、NATOの拡大について内部で検討する旨の決定を行った。ロシアは、従来からNATOの早急な拡大には反対の立場をとっており、NATOとしては、NATOの拡大問題については、今後ともロシアとの 関係を考慮しつつ進めることとなろう。
 94年、NATOは、年初から年末まで旧ユーゴー紛争への対応に忙殺 された。NATOは、旧ユーゴー紛争に関連した国連安保理決議に基づき、 アドリア海における経済制裁の監視、飛行禁止空域の監視、国連保護隊 (UNPROFOR)保護のための近接航空支援(CAS:Close Air Support) 並びに安全地域の住民及びUNPROFOR保護のための航空攻撃(Air Strike)等を行ってきた。

(3)西欧同盟(WEU)

 94年のWEUの活動は主として東側諸国との関係拡大及び欧州連合 (EU)の防衛部門としての運用能力の向上に焦点が当てられた。 WEUは、94年5月のキルヒベルグ閣僚理事会(外相、国防相会議) において、中東欧諸国9か国(ハンガリー、チェッコ、ポーランド、ス ロヴァキア、ルーマニア、ブルガリア、エストニア、ラトビア、リトア ニア)を連合パートナー(Associatie Partner)としてWEUとの関係を緊密化した。WEUの拡大は、EUの拡大及びNATOの拡大と緊密な関 係を有していることから、WEUの拡大に当たってはEUやNATOのと間で緊密な調整が行われることになろう。
 WEUは、94年11月のノールトヴァイク閣僚理事会でWEU加盟国及びWEUと関係を有する欧州諸国(合計24か国)による欧州安全保障白書の作成、欧州共通防衛政策の策定作業の推進、WEU首脳会議の開催及びWEUの運用能力の向上等、96年の欧州連合政府間会合に向けてWEUとしての方針を確定していく作業を取り進めていくことを決定した。


 (注)フラマン糸・ワロン系キリスト教民主党、フラマン系・ワロン系社会党の計4政党

目次へ