IV.欧州
(1)内政
政治面では、93年春以来のコアビタシオン(左翼の大統領と保守の首
相の保革共存)の下で基本的に協調的な政治運営が行われたが、秋以降、95年4-5月の大統領選挙に向けての動きが一挙に表面化した。保守陣営については、教育、若年層の失業に関する政府の施策に対する反対運動の盛り上がりにより、バラデュール首相は、その支持率に陰りが見えた時期もあったが、一連の保守的施策を撤回し対話路線をとることで国民の信頼を回復した。6月の欧州議会選挙後も特に失点も見られなかったバラデュール首相は、年内は首相としての職務に専念する旨述べ、早い段階での大統領選の過熱化をおさえる姿勢をとった。一方、シラク・
パリ市長は、11月に入り早々と大統領選への出馬を正式に表明した。左翼陣営については、社会党のロカール第1書記が6月の欧州議会選挙での惨敗により大統領選から脱落し、更に世論調査で、保守のいずれの候補をも上回る高支持率を得ていたドロール欧州委員会委員長も12月年齢等の個人的理由と議会での多数派形成の見通しが困難との政治的理由から不出馬を宣言した。このように、左翼陣営の強力な大統領候補がいなくなったことにより、保守陣営の中でも中道から他の候補が出馬する可能性が出てきており、今後の保守陣営内部での候補者調整の行方が注目される。
仏経済は、93年後半から94年にかけて景気に下げ止まり感が出始めた。
94年の成長率は2.0%、貿易収支は約800億フランの黒字がそれぞれ見込
まれている。最大の課題である失業率は、94年9月に12.7%に達した後、
「雇用5か年計画」や景気回復により、頭打ちの傾向が見られ10月の時
点で12.6%となっている。金融政策は基本的には為替相場の安定に配慮
した政策がとられ、財政面では、財政赤字が、93年にはGDP比約5.8%
に増加し、94年の見込みも5.3%と大きく減る見込みはない。国営企業
の民営化方針も継続された。
(2)対外関係
仏外交は、2年目に入ったコアビタシオンの下でも、欧州、更には国
際社会における指導的地位の維持・強化という基本目標に沿って展開され、国連安保理常任理事国の一員としての地位の活用、仏独協調に基づいた強い欧州を目指しての統合の推進という基本路線が維持されてきている。大統領府と内閣の間で、欧州統合の進め方、核実験問題等いくつかの点で考え方の違いが見られるが、最終的には大きな対立には至らず収まっている。
欧州統合については、北欧等4か国との加盟交渉、新欧州委員会委員
長候補の困難な選出等の展開の中で、仏は、独との緊密な協調関係を維持しつつ欧州統合の推進に腐心しており、この姿勢に当面大きな変化は見られないと思われる。一方、中・東欧諸国への「拡大」、経済・通貨統合による「深化」、96年の欧州連合(EU)の制度見直し等の課題や地中海諸国との関係を深めたいとの仏側意向について、仏独の立場は全く同じ訳ではなく、95年前半にEU議長国をつとめる仏が、どのような具体的イニシアチヴをとっていくかが注目される。
防衛・安全保障分野では、北大西洋条約機構(NATO)の既存の枠組
みを利用しつつ西欧同盟(WEU)を強化する等欧州独自の安全保障の
枠組み作りの努力を続け、仏英欧州空軍の創設の合意等欧州域内協力の
推進を図った。NATOとの関係については、2月に発表した国防白書
において、軍事機構不参加の基本的立場を維持しつつも、NATOの改革、
仏軍と仏の利益にかかわる問題についての積極的対応の方針を明らかに
し、9月のNATO国防相非公式会議には軍事機構離脱以来初めて仏国
防相が参加した。また、仏が欧州の平和・安定の実現に向けて打ち出し
た欧州安定化協約提案については、95年3月締めくくり会合開催に向け
てEU中心に促進の努力を続けている。核政策については、93年10月の
中国の核実験実施後、仏国内で核実験再開に関する議論が高まり、ミッ
テラン大統領が5月に任期中の非再開を明言したのに対し、バラデュール内閣との間には微妙な立場の相違が見られた。また、仏は、旧ユーゴー
問題において、国連保護隊(UNPROFOR)に関係国中最大の人的貢献(12月15日現在約4,580名の要員派遣)を行っているほか種々の局面においてイニシアティヴを打ち出してきている。
対アフリカ外交においては、1月に創設以来初めてのCFAフランの
50%切り下げに踏み切り、仏語圏アフリカ諸国との特別な関係の維持を
うたいつつも、経済面では現実的な対応を行わざるをえない状況が明らかになった。
(3)日本との関係
日仏関係は基本的に良好に推移し、3月末のジュッペ外相の訪日、5
月の羽田総理大臣の訪仏等のハイレベルの要人の往来が実現する中で、10月の天皇として初の公式訪問は、日本に対する関心を大きく高めまた理解を増進する上でこの上なく有意義なものであった。このような日仏間の意思疎通は、政治対話、途上国問題、エイズ等グローバルな問題に関する政策協調の一層の推進により、今後とも強化される必要がある。
日仏経済関係も、基本的に良好に推移した。仏の対日貿易は、94年全
体では前年とほぼ同程度の赤字(93年約230億フラン)が見込まれている。こうした状況の中で、個別案件の解決、97年末までの予定で仏が実施中の対日輸出促進キャンペーン「ル・ジャポン・セ・ポッシブル」に対する協力等により日仏経済関係の更なる拡大に向けての努力を継続すべきと考えられる。
文化交流面では、96年秋の完成を目指し6月にパリ日本文化会館の起
工式が行われた。また、3月のジュッペ外相訪日を契機に96年の日本に
おける仏年、97年の仏における日本年の開催が同意された。