IV.欧州
本年は95年国政選挙前の過渡期と言える。中立・直接民主制を基に「繁栄と安定の孤島」の地位を長く維持してきたスイスも、共産圏崩壊・欧州統合進展など最近の国際情勢激変への対応、とりわけ92年のEEA加盟拒否を踏まえた政策の追求に努めており、こうした中で選挙の時期を一つの節目に様々な改革準備も進められている。
内政面では、6月に国民投票でブルー・ヘルメット法案等連邦内閣提
案が否決され、逆にこれに先立つ2月には国民発議によるアルプス・イ
ニシアティヴ(アルプス地域の環境保護のため、同地域トランジット輸
送を原則トラックから鉄道に切り替えることを義務付けるもの)が可決
されるなど、政府と国民の間の立場の隔たりが改めて顕在化し、連邦内閣、更に議会に対する国民の不信感の高まりという問題が大きな議論を呼んだ。また、政権を支える連立与党の関係は基本的に安定を保っているものの、与党間の足並みの不一致という事態が随所に現れており、このことは時として内閣内の統一的な意思形成にも影響を及ぼしている。
こうした中で、連邦とカントンの関係や国民投票制の見直し問題を含む憲法全面改正に至る段階的・制度改革への準備・取組が連邦内閣を中心に続けられている。
経済成長率(GDP)は91-93年マイナスが続いたが、景気後退の底は
脱し、94年は1.5%増と見られ、95年も2%台の成長率が見込まれている。
懸念された失業率も、2月の5.2%をピークに以後毎月減少し、10月現
在で4.4%となっている。ただし、地域的偏りがあり、独語圏は3%台
であるのに対し、仏語圏は7%台に達している。
財政赤字増大が深刻で、連邦内閣は第3次財政健全化計画(95-98年)
を作成し、種々の具体案を予定しているが、福祉見直しには強い批判もある。
92年のEEA加盟拒否の悪影響は短期的には目立っていないが、中・
長期的にはスイス経済の基盤を掘り崩す恐れがあると言われている。そのため、外国からの投資が大幅減少したほか、国内企業設備投資の海外逃避も増加している。
対外関係面では、EEA加盟拒否後、連邦内閣は欧州統合に向けた流
れを絶やさぬようEUと粘り強い交渉を重ね、アルプス・イニシアティ
ヴ可決によるEUとの関係の冷却化も克服して、二国間の分野別交渉開
始にこぎ着けた。ただし、同交渉について各種の課題が存在しているほか、選挙戦の真只中で行われることもあり、今後の具体的成否は未だ予断を許さぬものがある。連邦内閣は中立の基本原則を堅持しつつ国連連帯・貢献に可能な限り積極的に取り組み、これを通じてスイスの国際的孤立化防止及び同国の繁栄・安全の確保を図ろうとしている。国際貢献の主要な手段と位置付けられたブルー・ヘルメット法案が否決されたことはこの点少なからぬ痛手とされた。