IV.欧州

 順調な経済パフォーマンスにも支えられ、レノルズ政権は、持ち前の強力な指導力を発揮して牛肉輸出補助金不正支出容疑やアラブ実業家家族への不正国籍付与嫌疑のスキャンダルを見事乗り越え、8月末には、IRAから全面的テロ休戦宣言を引き出すことに成功した。かくして過去25年余にわたり3,000人以上の命を奪った北アイルランドの民族紛争は本格的解決に向かうことになり、レノルズ首相の国際的評価も高まった。
 しかし、11月にレノルズ首相が連立相手の労働党の反対を押し切ってフィールハン司法長官を高等裁判所長官に昇格させたことから、労働党 は連立を解消、レノルズ首相は全く予期せぬ辞任に追い込まれた。かくして87年から政権の座にあった共和党は野党に転落し、12月15日にアイルランド統一党(FG)、労働党、民主左翼党の連立による呉越同舟のいわゆるレインボー政権が誕生、FGのブルートン党首が首相となった。
 レノルズ政権の業績には見るべきものがあり、特に北アイルランド問題解決への糸口を作った点は特筆されて良い。94年の経済は、失業率こそ高かったが(14.75%)、引き続き5%の高成長を誇り、貿易黒字も82億ドルに達した。懸案の離婚合法化のための国民投票は準備が整わず明年回しとなったが、社会的には、神父の性道徳をめぐる不詳事の続発でカトリック教会の権威が大きく揺るぎ始めている。また外交面ではマーストリヒト条約との兼ね合いもあり、伝統的な中立政策にメスが入れられるのは必至の情勢となっており、政府はセミナーの形での世論啓蒙に乗り出した。
 日本との関係では、9月スプリング副首相兼外相(労働党党首)が訪 日した。

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