III.中南米

 内政面では、94年3月に発足したフレイ政権は、教育の近代化、インフラ整備、生産性向上を優先課題として掲げ、国民生活に密着した分野での政策に重点を置いており、与野党、各界とも政府の方針を歓迎する姿勢を示している。また、軍とも特に緊張関係を生じることもなく、新しい時代に呼応した国造りに邁進している。しかし、コレア社会党総裁を内相に起用した内閣は、警察軍長官の辞任問題、教員スト等に対し効果的に対処する上で十分機能せず、9月に内相、官房長官の更迭を含む内閣改造を実施せざるを得なかった。なお、内閣改造をめぐり社会党の去就が注目されたが、当面の危険は回避され、与党連合の枠組みは今後とも維持される見通しである。
 経済は一昨年来の金融引締めにより景気調整局面にあったものの、世 界景気の回復に伴う銅等の主要輸出産品価格の上昇により好調な輸出に支えられ、実質成長率は4.3%と堅調で、インフレ率は9%と81年以来初めての一桁台を達成した。外国投資も引き続き活発(1-10月期で前年比86%増)である。貿易・投資を通じて大量にドルが流入したことから、いわゆる「ダーティー・フロート制」を採用している中央銀行は、11月末にペソの基準レートを1ドル=462ペソから418ペソへと約10%の 実質的切上げを余儀なくされた。
 フレイ政権は、(あ)チリ経済の国際化、(い)中南米地域における安定した外交関係の構築、(う)平和維持及び民主主義を確保するための活動への参加を外交基本政策に掲げ、活発な外交を展開している。12月に開催された米州サミットにおいてNAFTA加盟に向けた正式交渉を開始することが決定され、今後のチリ外交の重要課題となっている。近隣諸国との関係では、従来よりの国境問題等を抱えているものの、地域統合を中心とした経済関係強化に努めており、これまで背を向けてきた南米共同市場 (メルコスール)とも自由貿易地域創設に向けた交渉を開始した。アジ ア太平洋では、チリは11月にAPECに正式加盟した。
 日本との関係では、従来経済関係が中心であったが、近年政治、文化、 学術を含む幅広い分野にわたり急速に緊密化している。その中で、94年 11月にフレイ大統領が訪日し、両国関係は一層増進した。
 チリの貿易相手国としての日本は、米国に次いで重要な輸出先であり、かつ大幅な日本側の入超を記録しており、貿易量は94年は1-8月期で 15.7%増となっている。
(注1)カリコム
 英語圏12か国の加盟している「カリブ共同体」。経済統合、外交政策調整、その他 の分野における機能的協力を目指し、1973年に設立。
(注2)イベロアメリカ・サミット
 旧宗主国であるスペイン、ポルトガルと中南米19か国との政治・経済分野における 意見交換・協力を目的とする首脳会議。

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