III.中南米

 内政面においては、年明け早々に発生したチアパス州における先住民の武装蜂起、そして3月及び9月の政府与党要人の暗殺事件がメキシコの「先進性」を疑わせる事件として世界の注目を集めたが、チアパス・ゲリラに対しては政府は武力鎮圧ではなく辛抱強い対話により、先住民の貧困その他の社会的地位の問題に正面から取り組む姿勢を示し、政治家暗殺事件に関しては徹底的な真相究明を約すとともに既定の民主化路 線に後戻りはあり得ないとの決意を内外に表明した。現に8月の大統領 選挙は中立的な選挙管理委員会の管理の下に厳正な選挙人名簿、斬新な有権者カード等を整備の上行われ、メキシコの歴史始まって以来もっとも民主的で公正な選挙であったと評された。この選挙では約50%の支持 率でサリーナス大統領の路線を継承するセディージョ大統領が選出され た。12月に発足したセディージョ新政権は改革路線を信奉する若手テクノクラート中心の布陣となっており、当面は政府と党の分離、法と正義 の一層の確立、州等の地方自治体の権限強化等メキシコ内政の更なる民 主化に力を注ぐものと見られる。経済面においては3年連続の黒字ないし均衡予算と1桁台のインフレ(94年は7%程度)、そしてNAFTA発 効に伴う対米貿易の拡大(前年比輸出は約23%、輸入は約21%増)、外 資の流入等によりメキシコの経済は94年中頃から3%以上の成長路線に 乗るかに見えた。しかし12月末に実施された変動相場制導入に伴うペソ 切下げで国内経済が混乱し、セディージョ大統領は95年1月3日緊急経 済政策を発表する等事態の収束に努力しているところである。セディージョ大統領は経済の成長と教育の普及を通じた低所得層の生活向上、中小企業の振興を通じた輸出競争力の増進を推進するものと見られる。
 対外関係においては94年初頭からのNAFTAの発効、5月のOECD加盟等がメキシコの国際的地位確立の上で重要な出来事であった。また、 年末には米国カリフォルニア州で非合法移民を対象とする「提案187」が米国・メキシコ間の大きな問題となるに至ったが、メキシコの対米・対先進国協調路線の基本がこれにより影響されることはないものと見られる。
 メキシコの対外関係においてもう一つの柱とされているのは、NAF- TAにより強まった対米傾斜とバランスをとる形での対外関係の多角化 であり、日本との関係もその観点から重要視されている。なお、日本との貿易及び日本からの対メキシコ投資は94年に入り拡大傾向にあり、これは当面NAFTA発効が両国経済関係に好ましい影響をもたらしていることを示すものといえよう。

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