II.北米

(1)内政

93年10月の総選挙によって9年ぶりに政権奪回を果たしたクレティエン政権は、下院における安定多数の下、発足早々から、政府に対する信頼回復、雇用創出を最優先課題として取り組む姿勢を示し、与党支持率は選挙時の41%から60%を超えるほどになっている。しかし、94年9月のケベック州選挙において、同州の分離独立を標傍するケベック党が政権に就いたことによって、ケベック問題が再燃することとなった。特に、パリゾー州首相は、95年中に分離独立を問う州民投票を実施すると明言しており、分離派は多数を占めるには至っていないものの、95年においてはケベック問題が内政上の最大の課題となると見られている。
 94年のカナダ経済は、米国の好景気、カナダドル安等に支えられた輸出の伸びから好調に推移し、経済成長率(実質GNP)は当初の政府見通し(3.0%)をかなり上回る見込みであり、景気回復のテンポは次第に拡大している。また、失業率が94年11月には4年ぶりに10%を割り 9.6%となったほか、物価上昇率は0%に近い水準で推移している。財 政赤字の削減については、96年度に財政赤字を対GNP比で3%以内に 削減するとの目標の下、社会保障制度の改革、国防政策の見直し、行政 経費の削減を含め幅広い観点から取り組んでいる。

(2)対外関係

 クレティエン政権は、94年初めより外交・国防・援助に関するレ ビューを行っているが、これまでのところ政府の外交政策に大きな変化はないものと見られる。
 経済・貿易面では、北米自由貿易協定(NAFTA)が94年1月1日に 発効し、米国、メキシコとの三国間での関税撤廃に動き出した。また、 アジア太平洋経済協力(APEC)においても、カナダは経済委員会の議 長国を務めるなど積極的に取り組んでいる。
 クレティエン政権は、発足当初よりアジア太平洋担当閣外相のポストを新設するなど、アジア重視の姿勢を示しており、ウェレット外相が7月に日本を含むアジア諸国を、更にクレティエン首相が11月に中国、香港、インドネシア、ヴィエトナムを訪問するなど、首脳・閣僚級のアジア訪問が続いている。特に、中国については、クレティエン政権は人権問題と貿易関係を関連づけないとの立場をとり、カナダの新たな市場として積極的な関係促進に努めている。
 カナダは従来より国連において平和維持活動(PKO)への参加をはじ め積極的な役割を果たしてきたが、現政権もこの立場を堅持している。PKOへの参加については、引き続き基本的な国民の支持を得ているが、国力に比して負担が大きくなりすぎているという議論もあり、特にボスニア・ヘルツェゴヴィナへのカナダ軍の派遣継続は微妙な政治問題となっている。

(3)日本との関係

 94年には、要人の往来・会議が活発に行われたほか、92年末に提出された日加フォーラム2000の報告書に関するフォローアップ委員会の作業が進展した。経済面においても、日加間の貿易バランスはほぼ均衡しており全体として良好である。特に、カナダにとって日本は米国に次ぐ第2の貿易相手国であるので、貿易・投資関係の更なる発展への期待が大きく、94年12月にはカナダ政府による対日輸出促進のためのアクション・プランの改訂版が発表された。そのほか、国連、G7等のグローバルな場及びアジア太平洋における地域協力の双方において、日本とカナダは幅広い協力を行っている。

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